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美咲のオヤジの配達記録簿  作者: 空雨 素志


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第七話 マウスの音



高木の部屋。


圭司と美咲は、上野と一緒に入っていた。


「本当に少しだけですよ」


上野が念を押す。


「分かってるって」


圭司が答える。


「美咲さんも、勝手に触らないでくださいね」


「はいはい」


「その返事が一番心配なんですけど……」


上野はため息をついた。


前日から二人に何度も頼まれ、結局、特別に短時間だけ現場を見せることにしたのだ。


もちろん、証拠品には触れない。


そういう約束だった。


美咲は部屋の中を見回していた。


棚には、写真立てがある、高木とその妹が仲良く写ってる。


「まるで恋人同士みたいだね」


「そうだな、まるで俺たちみたいだな」


 圭司が言う


美咲は白けた顔して圭司を見た。


「はい、もういいでしょう?」


上野は早く二人を追い出したい様子。


美咲は見る。


机の上には、二台のモニター。


キーボードも二つ。


そして、マウスも二つ。


「これ……」


美咲の目が止まる。


「ゲーミングマウスだ」


「分かるのか?」


圭司が聞く。


「分かるよ」


美咲は嬉しそうに答えた。


「私、こういうの好きだから」


「知ってる」


「周辺機器とか結構見るんだよ」


美咲は机の前に立つ。


上野がすぐに言った。


「触らないでくださいよ」


「分かってるって」


そう言いながら、美咲はマウスを眺めている。


そして、何気なく手に取った。


「美咲さん」


上野が注意する。


「ちょっとだけ」


美咲はマウスを握った。


そして――


マウスを左右に大きく振った。


「こうやってゲームするんだよ」


「ちょっと!」


上野の声が飛ぶ。


「何してるんですか!」


「ゲームの真似」


「証拠品ですよ!」


「分かってるって」


美咲は笑う。


「ごめんごめん」


マウスを机に戻す。


その瞬間だった。


美咲が首を傾げた。


「……ん?」


「どうした?」


圭司が聞く。


美咲はもう一度、マウスを持ち上げる。


軽く振る。


カタッ。


小さな音がした。


美咲の表情が変わる。


「今、音した」


上野も耳を澄ます。


「音?」


美咲はもう一度、ゆっくり振った。


カタ……。


「やっぱり」


「何の音だ?」


「中で何か動いてる」


美咲はマウスの底を見る。


「これ、普通のマウスじゃないよ」


「さっきからゲーミングマウスって言ってるだろ」


圭司が言う。


「そうじゃなくて」


美咲は底面を指差した。


「これ、ウェイトを入れる場所がある」


「ウェイト?」


上野が聞き返す。


「重り。ゲーミングマウスって、人によって重さの好みが違うから、底に専用の重りを入れて調整できるタイプがあるの」


美咲は説明しながら、底面の小さなカバーを見る。


「ここ」


上野が顔を近づける。


「開くのか?」


「たぶん」


美咲が慎重に確認する。


「……開けていい?」


上野は少し迷った。


だが、すでに音がしている。


「慎重に」


「うん」


美咲がカバーを開ける。


中には、小さなウェイトが入っていた。


そして――


「……何これ?」


ウェイトの端に、何かが貼り付いている。


小さなカードだった。


美咲が目を見開く。


「microSDカード……?」


「なんで、そんなものが」


圭司が驚く。


上野も黙って見つめている。


美咲が言った。


「たぶん、これがさっきの音の原因」


カードは本来の場所から少しずれていた。


マウスを振ったことで、ウェイトに貼り付けてあったカードが剥がれ、内部で動いていたのだ。


「高木さん……」


美咲が小さくつぶやく。


「これを隠してた?」


---


その日の夜。


microSDカードのデータを確認した。


そこには大量のファイルが入っていた。


会社の取引記録。


領収書。


経費精算のデータ。


そして、複数の領収書を比較すると、不自然な点が見つかった。


「これ……」


美咲が画面を見る。


同じ取引先。


同じ日付。


同じような金額。


しかし、原本と社内提出用のデータで金額が違っている。


さらに、存在しない取引先名義の領収書まであった。


上野が眉を寄せる。


「改ざん……」


圭司も画面を見る。


「偽造もあるな」


「じゃあ……」


美咲が言う。


「高木さんがやってたの?」


その可能性が一瞬、頭をよぎった。


高木本人が会社の記録を改ざんしていたのではないか。


しかし、上野は首を横に振った。


「まだ分かりません」


「でも、高木さんのパソコンに入ってたんだろ?」


「だからこそ、出どころを確認する必要があります」


上野は領収書のデータを一つずつ確認していく。


作成者。


取引先。


処理担当。


元データ。


そして、いくつかの記録を辿っていくと――


一人の名前が何度も出てきた。


「……古川」


圭司の表情が変わる。


美咲も画面を見る。


そこには、


**古川**


という名前が記録されていた。


上野は黙って画面を見つめる。


高木が隠していたmicroSDカード。


そこに残されていた改ざんされた領収書。


そして、その領収書の出どころを辿った先にいた男。


古川。


圭司が低く言った。


「……高木は、古川を調べてたのか」


誰も答えなかった。


ただ一つだけ、はっきりした。


高木が命を懸けて隠していたものは――


**古川につながっていた。**


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