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美咲のオヤジの配達記録簿  作者: 空雨 素志


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第六話 映らなかった時間



 翌日。


 上野と圭司、美咲の三人は、牧田の物流倉庫を訪れていた。


 事務所に入ると、上野は二人を振り返った。


「野上さんと美咲さんまで、来なくても……」


「いいじゃん。なんか知りたいし」


 美咲は、悪びれもせずに答えた。


「そうだよね。自分のトラックが事件に使われたんだから、気になるのは当然だろ」


 圭司も隣で頷く。


「まったく……」


 上野は小さくため息をついた。


「捜査の邪魔だけはしないでくださいよ」


「分かってますって」


 圭司は軽く手を振った。


「本当ですか?」


「上野さん、俺のこと信用してないだろ」


「今までのことを考えれば、当然です」


「おいおい……」


 美咲が笑いをこらえていると、牧田が奥から顔を出した。


「お前ら、朝から何をやってるんだ。こっちだ、こっち」


 牧田に促され、三人は防犯カメラの映像を確認するため、事務所のモニターの前に集まった。


「これが車庫を映している映像だ」


 牧田が再生を始めた。


 画面には、何台ものトラックが並ぶ車庫が映し出されていた。作業員が行き来し、ときおり台車を押して荷物を運んでいる。


 上野は画面を注意深く見つめた。


「野上さんのトラックは、どこに置かれていたんですか?」


「奥の、あの辺りだよ」


 圭司が画面の一角を指さした。


 牧田が映像を進める。


 ところが、圭司のトラックが置かれていた場所に差しかかったところで、画面が途切れてしまった。


「……ここから先が見られないんですか?」


 上野が尋ねた。


「そうなんだ。ちょうどあの辺りが映らなくてな」


 牧田が困ったように頭をかいた。


 上野は映像を戻し、もう一度確認した。


 人が車庫を出入りしている様子は分かる。しかし、圭司のトラックの周辺で何が起きていたのかは、確認できなかった。


「肝心なところが映っていませんね」


 美咲が画面を覗き込む。


「この時間帯、ほかのカメラにも映ってないの?」


「この場所を直接映しているのは、これだけだ」


 牧田が答えた。


「そっか……」


 美咲は残念そうに画面を見つめた。


 上野は気を取り直して、別の時間帯の映像を確認した。


 すると、画面の端に何台かの台車が並んでいるのが見えた。


「台車は何台かあるようですね」


「ああ。荷物を運ぶのに使うからな」


 牧田が頷いた。


「この中のどれかが使われた可能性もある、ということですか?」


「可能性はあります。ただ、今の映像だけでは何とも言えませんね」


 上野は台車の位置を確認し、手帳に記録した。


 大村家の外で、琴が足で消そうとしていた車輪の跡。


 そして、すぐ隣にある物流倉庫。


 台車を使えば、遺体を運ぶことは十分に可能だった。


 しかし、誰が運んだのかを示すものは、まだ見つかっていない。


「牧田さん。壱岐さんは、そろそろ来られますか?」


「もうすぐだと思う。今日は早めに仕事を上がる予定だからな。ちょっと連絡してくるよ」


 牧田は事務所の電話のほうへ向かった。


 しばらくして、入口から男が入ってきた。


「牧田さん、呼びました?」


「おう、壱岐さん。こっちだ」


 牧田が手招きする。


 壱岐康太は、事務所にいる三人を見て、少し戸惑った表情を浮かべた。


「……なんでしょうか?」


 上野が立ち上がった。


「お忙しいところ、すみません。警察の上野と申します。少しお話を伺いたいのですが」


「警察……?」


 康太の表情がわずかに変わった。


 上野は落ち着いた口調で尋ねた。


「大村智さんをご存知ですよね?」


「は、はい。それが……?」


「野上さんのトラックで亡くなられた方が、大村智さんだったんです」


「え? 本当ですか? なんで……?」


 康太は驚いたように目を見開いた。


 その反応を見ながら、上野は続けた。


「幸子さんとご一緒に、大村さんと話し合いに行かれましたよね?」


「はい。実は、幸子とは同級生で、たまたま配達の途中で会って、相談を受けていたんです」


「以前からですか?」


「はい」


「離婚の相談ですか?」


「それもあるんですが……」


 康太は少し言いよどんだ。


「あまり亡くなった人のことを悪くは言いたくないんですが、琴ちゃんと幸子は、ずっとDVを受けていたらしくて……」


「最低ですね」


 美咲が思わず口を挟んだ。


「美咲!」


 圭司がたしなめる。


「だって……」


「気持ちは分かるけど、今は話を聞こう」


 上野が静かに言うと、美咲は渋々口を閉じた。


 上野は康太に向き直る。


「それで、二人が何とか別れられるように、あなたにも話し合いに立ち会ってほしいと頼んだ、ということですか?」


「はい。僕も放ってはおけなくてですね」


 康太は俯き、両手を握りしめた。


 上野は一度頷き、手帳に目を落とした。


「なるほど。分かりました」


 そして、再び顔を上げた。


「その日は何時ごろ大村さんの家に行って、何時ごろ帰りましたか?」


 康太は少し考えてから答えた。


「あまり覚えていないんですが……話し合いの十 分前に幸子と待ち合わせして、終わったらすぐ帰りましたよ?」


「すぐ?」


 上野の声が、わずかに低くなった。



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