第四話 運の悪い男
牧田の物流倉庫。
圭司と美咲は、倉庫の事務所で牧田と話をしていた。
圭司のトラックから発見された遺体。
なぜ犯人は、わざわざ圭司のトラックを選んだのか。
圭司が前日に自分のトラックを置いて帰ったことと、遺体が発見されたことに、何か関係があるのだろうか。
それを確かめるため、二人は牧田のもとを訪れていた。
「しかし、運が悪いな、圭司」
牧田が呆れたように言った。
「何がだよ」
「たまたまトラックを置いて帰ったら、これだもんな」
「好きで置いて帰ったわけじゃねえよ」
圭司は不満そうに腕を組んだ。
美咲が横から口を挟む。
「そうだよ。そうじゃなかったら、別の人だったからね」
「おい。それ、慰めてるつもりか?」
「事実でしょ?」
「……お前なあ」
圭司は娘の顔を見て、ため息をついた。
牧田は苦笑しながら、机の上の書類をそろえた。
「まあ、誰のトラックに遺体を積んだところで、犯罪には変わりないけどな」
「それはそうだが……」
圭司はふと、思い出したように尋ねた。
「ところで、俺が乗って帰ったトラックは誰の?」
「ああ? 誰だったかな」
牧田は首をかしげた。
「お前、覚えてないのか?」
「いや、貸したことは覚えてるんだよ。ただ、誰のトラックだったか、すぐには出てこない」
「おいおい。物流の営業がそれでいいのかよ」
「全部の車両を俺一人で管理してるわけじゃないからな。記録を見れば分かる」
牧田は悪びれもせずに答えた。
圭司は納得がいかない様子だったが、それ以上は追及しなかった。
美咲は事務所の窓越しに、倉庫の敷地を眺めた。
「牧田さん」
美咲が振り返った。
「最近、この辺りで何か変わったことってありませんでしたか?」
「変わったこと?」
「不審な人を見かけたとか、夜中に物音がしたとか」
牧田は少し考えた。
「そうだな……クレームが多いことくらいかな」
「クレーム? 荷物の?」
圭司が尋ねた。
「違う違う。トラックの音がうるさいってさ」
牧田は窓の外に目を向けた。
「朝早く出る車もあるし、夜遅く戻ってくる車もある。エンジン音もするし、荷物の積み下ろしだってある。近所の人にしてみれば、気になるんだろうな」
「いつごろからですか?」
美咲が尋ねた。
「少し前からだよ。何度か苦情が入ってる。まあ、仕事だから仕方ない部分もあるんだけどな」
「ホントに? トラックがないと生きていけないのにね」
美咲は真面目な顔で言った。
牧田は思わず笑った。
「いいこと言うね、美咲ちゃん」
「圭司の仕事、見てきたからね」
「さすが、俺の娘!」
圭司は得意げに胸を張った。
「いや、褒めたのはトラックの仕事であって、圭司じゃないから」
「そこは父親を立てろよ」
「事実を言っただけ」
圭司は何も言い返せず、口をへの字に曲げた。
牧田は二人のやり取りを見て、また笑った。
美咲は気を取り直すと、もう一度、牧田に向き直った。
「そのクレームって、同じ人から来てるんですか?」
「そこまでは覚えてないな。電話を受けた担当者も違うだろうし、記録を確認しないと分からん」
「その記録、見せてもらえます?」
「構わないぞ。調べておく」
美咲は頷いた。
トラックの騒音に対する苦情。それだけなら、特別珍しい話ではない。
しかし、誰が苦情を申し立てていたのか。
そして、いつ、どこから電話をかけていたのか。
それが分かれば、事件に関係する何かが見つかるかもしれない。
そのときだった。
倉庫の隣にある家の玄関から、一人の男が出てきた。
圭司が窓の外を見て、声を上げた。
「あれ? 上野刑事じゃないか?」
美咲も振り向いた。
「ホントだ。上野さーーーん!」
大きな声が、事務所から外へ飛び出した。
男が足を止める。
振り返ったのは、刑事の上野だった。
上野は三人の姿を見つけると、少し驚いた表情を浮かべた。
美咲が手を振る。
「上野さーん、こっちです!」
上野は大村家の玄関先から倉庫のほうへ歩いてきた。
「野上さん。それに美咲さんも。こんなところで、どうされたんですか?」
圭司は肩をすくめた。
「それはこっちの台詞ですよ。刑事さんこそ、隣の家で何を?」
上野は、すぐ隣にある大村家を一度振り返った。
「事件について、少し確認していたところです」
その言葉を聞いた圭司と美咲の表情から、笑みが消えた。
「事件って圭司の?」
「はい。亡くなった人は大村智さんという方で、ここのすぐ隣の家の方だったんですよ。」
上野は静かに頷いた。
「ていう事は、すぐに運べるじゃないですか?」
圭司が言う。
「ええ、そうなんですがね」
上野は二つの距離を見た。
トラックの車庫と、遺体のあった大村家は、隣り合っている。
その距離は、運ぶには十分すぎるほど近かった。
そして、上野もまた、そのことを意識し始めているようだった。




