第六話 棟の秘密
圭司と美咲は研究室が見たいと上野に懇願する。
「またですか?」
「またですよ」
上野は、深いため息を漏らす。
「もう一度、あの研究室を調べる必要がある」
美咲は刑事ドラマ風に言った。
上野は、深いため息を漏らす。
「わかりました。」
上野に連れられ、圭司と美咲は末吉教授の研究室へと足を踏み入れていた。
鑑識の検証が終わったばかりの室内には、どこか冷たい空気が漂っている。
「いいですか、事件現場の証拠品には絶対に触らないで下さい。捜査が混乱しますので。絶対ですよ」
上野は二人に強く念を押し、部屋の隅で事件資料を確認し始めた。
その背中で、美咲は「はーい」と生返事をしながら、壁際に設置された作り付けの大きな木製の本棚をしげしげと眺めていた。
(なんか、ここだけやけに隙間がある気がする……?)
ふと、本棚の下部、幅木に近い壁の一部がほんのわずかに浮いていることに気づく。
気になった美咲が、指先でその壁の端を軽く「ぽん」と押してみた。
――カチリ、と小さな音がして、壁のパネルがパカリと手前に外れた。
「あっ……!」
音に気づいて振り返った上野が、大きな声を上げた。
「何やってるんですか! 触らないと言ったじゃないですか……!」
「ご、ごめんなさい! ちょっと押したら勝手に外れちゃって……!」
美咲が頭を抱えて縮み上がったその脇から、圭司がスッと歩み寄り、開いた穴の内部を覗き込んだ。
「……上野さん、これを見て。」
「なんですか?!」
上野が険しい顔で、懐中電灯を中に向ける。
外れた壁の向こうには、暗い空間が広がっていた。
「これって……隠し扉、じゃないのか?」
隠し丁番が見える、そこには人が一人やっと入れるスペースになってた。
「ここは……隣にある、使われていない備品倉庫?」
上野が呟く。
さらにその倉庫の奥を進むと、階段が見える。
その階段を上っていくと、そのまま建物の『屋上』へと繋がっていたのである。
「屋上に通じてる……」
美咲が自分の発見の重大さに気づき、目を見開いた。
圭司は屋上に目をやる。
「この屋上から、隣の棟へと行き来することが出来るようになっている」
「……つまり」
上野は腕を組み、冷や汗を拭いながら唸った。
「隠し扉を抜け、横の階段から屋上へ上がり、隣の棟へと移動する。そのルートを使えば、一階の正面入り口を通らなくても、誰にも目撃されずに出入りすることが可能になる……!」
防犯カメラの目を盗み、誰もが不可能だと思っていた侵入と逃走。
この秘密のルートの存在により、これまでアリバイがあったはずの人物が浮かび上がる。




