第三話 古川洋一
翌日の午後。
上野は、古川と会った。
「少しいいですか?」
あくまで、事件の関係者としての事情聴取だった。
会社の向かいのカフェ古川は落ち着かない様子で椅子に座っている。
「昨日、高木さんが亡くなったことを知った時、どう思いましたか?」
「……驚きました」
古川は小さく息を吐いた。
「まさか、こんなことになってるとは思ってませんでした」
「高木さんとは、同じ会社でしたね」
「はい」
「親しかったんですか?」
「同じ会社ですから、顔を合わせることはありました。でも、特別親しかったわけじゃありません」
「高木さんは、どんな人でした?」
古川は少し考えた。
「真面目な人でしたよ」
「他には?」
「仕事には厳しかったですね。いい加減なことを嫌うというか……」
その言葉に、圭司は高木の部屋で見た机を思い出した。
整然と並んだ二つのモニター。
仕事用と趣味用。
高木という人間が、少しだけ見えた気がした。
「高木さんと何度か一緒に仕事を?」
「ええ」
「個人的に付き合いは?」
「ほとんどありません」
古川はそこで一度言葉を切った。
「ただ……昔、一度か二度、高木さんの部屋に上がったことがあります」
上野が顔を上げる。
「高木さんの部屋に?」
「はい。だいぶ前ですけど」
「何をしに?」
「仕事の話をしただけです」
「最近は?」
「ありません」
古川は即答した。
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上野は、事件当日のことを尋ねた。
「昨日の午後、古川さんはどこにいましたか?」
「部屋です」
「ずっと?」
「はい」
「外には出ていない?」
「出てません」
「誰か一緒にいましたか?」
「一人です」
「それを証明できる人は?」
古川は黙った。
数秒後、首を横に振った。
「……いません」
「携帯電話の位置情報や、買い物の記録などは?」
「特にないと思います」
つまり――
古川には事件当日のアリバイがなかった。
だが、それだけだった。
それ以上のものは、まだ何もない。
上野は質問を続けた。
「高木さんが会社に来ていないことは知っていましたか?」
「はい」
「いつ知りました?」
「朝、会社でです」
古川は少し苦笑した。
「その時上司に言われたんですよ」
「何を?」
「高木と、同じマンションに住んでるだろって」
古川は視線を落とした。
「様子を見てきてくれって言われました」
「行ったんですか?」
「……仕事が終わってから行こうと思ってました」
「その前に、高木さんが亡くなったことを知った?」
「はい」
古川の声が少し小さくなる。
「マンションに戻ったら、警察が来てました」
「その時、初めて?」
「はい」
「高木さんが死んでいるとは?」
「思いませんでした」
古川はそう答えた。
その言葉に、上野は一瞬だけ古川の顔を見た。
だが、表情から何かを読み取ることはできなかった。
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聴取を終えた古川が帰った後。
圭司と美咲が合流した。
「どうだった?」
圭司が聞く。
「今のところ、何も出てません」
「アリバイは?」
「ありません」
美咲が眉を寄せる。
「じゃあ、怪しいんじゃない?」
「アリバイがないことと、犯人であることは別です」
上野は淡々と言った。
「古川さんは、高木さんと特別親しかったわけでもない。昔、何度か部屋に上がったことがあるだけだと」
「高木さんと揉めてたとかは?」
「今のところ、そういう話はありません」
圭司は黙った。
事件はまだ、何も見えてこない。
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その日の夕方。
上野のもとに、司法解剖の結果が届いた。
上野は書類を開く。
そして、死亡推定時刻の欄を見る。
しばらく目を止めた。
「……そういうことか」
高木の死亡推定時刻は――
**午後六時より前。**
圭司が荷物を届けた時には、
すでに高木は死亡していた可能性が高かった。
上野は椅子から立ち上がる。
問題は、そこではなかった。
では、午後六時過ぎ。
圭司が聞いた、
「そこに置いてください」
という男の声は――
一体、誰の声だったのか。




