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美咲のオヤジの配達記録簿  作者: 空雨 素志


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第十一話 遼の父親



病院の個室。


達夫はベッドに横になっていた。


美紀、隆、遼、圭司、美咲、上野がいる。


しばらく誰も話さなかった。


やがて達夫が口を開く。


「……和也のことを話すよ」


遼が顔を上げる。


「父さんのこと?」


「ああ」


達夫はゆっくりとうなずいた。


「俺が和也と知り合ったのは、東央精密との取引がきっかけだった」


圭司が黙って聞いている。


「和也は真面目な男だった。仕事もきっちりしていたし、家族のこともよく話していた」


美紀が目を伏せる。


「でも、和也は自分の病気のことを知っていた」


遼の表情が変わる。


「……いつから?」


「俺が知ったのは、かなり後だ」


達夫は少し間を置く。


「ある日、和也から呼び出された」


「そこで何を?」


上野が聞く。


「美紀と遼のことを頼まれた」


遼が黙り込む。


「自分が何かあった後、美紀を一人にしたくない。遼のことも頼むって」


美紀の目に涙が浮かぶ。


「でも、和也はもう一つ言っていた」


達夫の表情が変わる。


「何を?」


美咲が聞く。


「東央精密で、自分が見たものについてだ」


圭司が達夫を見る。


「何かあったんですか?」


達夫はすぐには答えなかった。


「……和也は、俺にこう言った」


少し間を置いて、


「『すまない、お前に迷惑かけることになるかもしれない』って」


「何のことか、わからなかった。ある資料を見るまでは」


上野が反応する。


「資料?」


「はい、部品に欠陥の疑いがある資料です」


達夫はそう答える。


「そして、国東もこのことを知ってると」


部屋の空気が変わる。


遼が顔を上げる。


「国東……?」


達夫は黙ってうなずいた。


「俺も当時は、そこまで深く考えてなかった」


「でも、今は違う?」


圭司が聞く。


達夫は圭司を見る。


「……ああ」


しかし、それ以上は話さなかった。


「俺は和也に、どういうことなのか、訊いた。」


達夫は続ける。


「すると和也は、『大丈夫だ』と言った」


美咲が反応する。


「じゃあ、遺品の中になにか?それに関わることが」


達夫は答えない。


ただ、少し考えるように目を閉じる。


「俺は、和也が亡くなった後も、そのことを忘れられなかった」


遼が小さな声で言う。


「父さん……最後まで何か悔やんでた」


「違う」


達夫は静かに言った。


「和也は、自分が死んだ後のことを考えていたんだ」


そして達夫は、遼を見る。


「お前のこともな」


遼はうつむく。


「和也は、自分が長くないことを知っていた」


「だから、俺に頼んだんだ。美紀と遼を頼むって」


美紀が涙をぬぐう。


「でも……遼は俺のことを嫌っていた」


達夫は遼を見る。


「だから、無理に連れてくるなと言われた」


遼は何も言わない。


「俺は、それでも何度か遼に会おうとした。でも、お前は俺を避けただろ」


「……」


「だから俺は、遠くから見ているしかなかった」


遼が小さな声で言う。


「俺……知らなかった」


達夫は答える。


「知らなくていいと思っていた」


「なんで?」


「お前には、お前の人生があるからだ」


部屋が静かになる。


圭司が達夫を見る。


「じゃあ、和也さんが亡くなった理由は……」


「病気だ」


達夫ははっきりと言った。


「不正を苦にしたわけじゃない」


遼が顔を上げる。


「じゃあ、俺が聞いていた話は……」


「誰かが、そう思わせたんだろう」


達夫は答えた。


その言葉に、美咲が反応する。


「国東さん……」


達夫は何も言わなかった。


ただ、目を伏せた。


遼はしばらく黙っていた。


そして、


「父さん……最後まで俺のことを考えてたんだ」


達夫は静かにうなずく。


「和也は、最後までお前の父親だった」


遼は涙をこらえるように顔を伏せる。


その隣で隆も黙っていた。


圭司は隆を見る。


隆は何も言わない。


そして圭司は思う。


――和也の遺品。


――国東。


――そして、送り返された荷物。


まだ、全部がつながっていない。


だが、圭司には一つだけ気になったことがあった。


達夫はさっき、


**「国東は知っている」**


と言った。




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