第三話 別府美紀
救急隊員が、倒れていた二人の男を担架に乗せて運び出していく。
別府達夫は意識が戻らないまま、救急車へ運ばれた。
もう一人――隆は、自分で立ち上がっていた。
顔色は悪い。
だが、怪我らしい怪我は見当たらなかった。
「君、名前は?」
上野刑事が尋ねる。
「……別府隆です」
「ここに住んでいるのか?」
「……はい」
「何があった?」
隆は俯いた。
「……わかりません」
それ以上は答えなかった。
そのとき、家の前に一台の車が止まった。
ドアが開く。
「あなた!」
慌てた様子で、一人の女性が降りてきた。
別府美紀だった。
美紀は玄関へ駆け寄り、救急隊員に詰め寄る。
「夫は……夫は大丈夫なんですか?」
「現在、病院へ搬送しています」
「病院……」
美紀の顔から血の気が引いた。
そして、家の中にいる隆を見つける。
「隆くん……!」
隆は顔を上げた。
「お母さん……」
「大丈夫なの?」
「……うん」
上野刑事が近づく。
「別府美紀さんですか?」
「はい……」
「私は上野といいます。少しお話を伺ってもいいですか?」
「はい……でも、夫が……」
「病院には先ほど達夫さんのお母さんが付き添っています。大丈夫かと」
美紀は安堵し、少し眉細めた。
義母とはあまりうまくいってないのか
「……なら大丈夫です」
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その頃、圭司と美咲は玄関先にいた。
上野刑事が二人の前に立つ。
「野上さん。娘さんも一緒に?」
「はい。配達の手伝いです」
「では、もう一度確認します」
上野は手帳を開いた。
「家の中からガラスが割れる音が聞こえた」
「はい」
「それで、こちらへ来た」
「そうです」
「そのとき、誰かが走っていくのを見た?」
「見ました」
「男でしたか?」
「男です」
美咲も頷いた。
「私も一瞬だけ見ました」
「顔は?」
「はっきりとは……」
圭司が答える。
「ただ、男だったのは間違いないです」
上野はメモを取る。
「その後、家の中に入った」
「はい」
「そして?」
「倒れている二人を見つけました」
「別府達夫さんと、別府隆さん」
「はい」
上野が少し考える。
美咲が言った。
「強盗じゃないですか?」
圭司も頷いた。
「俺もそう思います」
「強盗……?」
上野が二人を見る。
「そう考えた理由は?」
「ガラスが割れて、誰かが逃げていったんですよ」
圭司が言う。
「家の中で何かあったと考えるより、外から誰かが入ってきたと考えるほうが自然じゃないですか?」
「なるほど」
上野はもう一度、家の中へ視線を向けた。
そして、ふと圭司の足元を見る。
「ところで……」
「はい?」
「その荷物は?」
「あ……」
圭司は玄関脇に置かれた箱を見た。
「そうだ」
完全に渡すのを忘れていた。
「別府美紀さん宛てです」
圭司は荷物を持ち上げた。
「配達に来たのに、事件が起きたもんだから」
「そういうことですか」
「はい」
圭司は美紀のところへ歩いていく。
「別府美紀さん」
「はい?」
「これ、荷物です」
美紀が箱を受け取った。
「……私宛て?」
「はい。昨日、佐伯遼さんから預かった荷物です」
圭司は何気なく言った。
「もう送り返さないでくださいよ」
「……え?」
美紀が顔を上げる。
「この荷物、佐伯遼さんが一度送り返されたって言ってましたから」
「……送り返す?」
美紀の表情が変わった。
「私、そんなもの……」
言いながら、荷物に貼られた伝票を見る。
そして――
送り主の名前を見た瞬間。
「……遼?」
美紀の顔が凍りついた。
そこには、はっきりと書かれていた。
**送り主 佐伯遼**
「どうして……」
美紀は荷物を抱えたまま、動かなくなった。
圭司は、その反応を見て眉をひそめた。
美咲も黙って美紀を見つめている。
上野刑事だけが、静かに伝票へ目を向けた。
別府家に起きた事件。
そして、佐伯遼から届いた荷物。




