第二話 別府家
朝の八時を少し回った頃。
野上家の一階では、圭司が配達用の荷物を確認していた。
「これで全部だな」
伝票を一枚ずつ確認し、最後に昨日から積んである箱を手に取る。
宛先は――別府美紀。
昨日、佐伯遼から「もう一度送ってくれ」と頼まれた荷物だった。
「圭司、行ける?」
二階から美咲が降りてくる。
「ああ。ちょうど今、積むところ」
「じゃ、手伝う」
「今日は大学じゃなかったのか?」
「午後から。だから午前中だけ」
「助かるよ」
圭司は荷物を持ち上げ、トラックの荷台へ運んだ。
美咲も後ろからついてくる。
「昨日の荷物?」
「ああ」
「別府美紀さんって人に送るやつ?」
「そう。佐伯遼から頼まれた」
「また返ってきたんだよね」
「本人はそう言ってた」
圭司は荷台の扉を閉めた。
「まあ、届ければわかるだろ」
「それ、圭司の口癖だよね」
「何が?」
「行けばわかる」
「違う」
圭司は笑った。
「俺の口癖は――」
「『時間は待ってくれない』」
「よく分かってるじゃないか」
「何年一緒にいると思ってんの」
二人はトラックに乗り込んだ。
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午前九時過ぎ。
別府家は、住宅街の一角にあった。
圭司は住所を確認して、ゆっくりとトラックを路肩に寄せる。
「どこらへんかな」
「住所あってんの?」
「あ、その先だ」
そのときだった。
――ガシャーン!
その先の家から、ガラスが激しく割れる音が響いた。
「……!」
圭司達は、その家が別府家だとわかる。
「今の、家の中?」
「ああ」
圭司は玄関へ駆け寄った。
その瞬間。
玄関脇の窓から、若い男の姿が見えた。
男は慌てたように玄関とは反対側の窓へ走っていく。
「おい!」
圭司が叫ぶ。
男はそのま走っていった。
追いかけようと思った。
だが、家の中から聞こえた声に足を止める。
「……人がいる!」
美咲が叫んだ。
圭司は家の中へ入った。
「すみません! 誰かいますか!」
返事はない。
リビングへ入った圭司は、床に倒れている二人の男を見つけた。
「……!」
一人は中年の男。
もう一人は、まだ若い男だった。
中年の男は仰向けに倒れ、頭の後ろあたりから血が流れている。
「圭司!」
美咲が駆け寄ってくる。
「触るな!」
圭司は倒れている男のそばにしゃがみ込んだ。
「……大丈夫か?」
小さく頷いた。
「生きてる?」
「ああ」
美咲がスマートフォンを取り出す。
「救急車、呼ぶ」
「頼む」
美咲が119番へ電話する。
圭司はもう一人の若い男を見る。
こちらは目を開けている。
だが、何も言わない。
「何があった?」
男は圭司を見た。
そして、小さく首を振った。
「……わからない」
「わからないのか?」
「……」
「さっき、外に出ていった男は?」
男は答えなかった。
そのとき、遠くからサイレンが聞こえてきた。
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数分後。
救急車が別府家の前に停まった。
救急隊員が家の中へ駆け込んでくる。
「こちらです!」
美咲が案内する。
圭司は玄関の外へ出た。
住宅街に、赤色灯が回っている。
続いて、パトカーが一台、別府家の前に停まった。
ドアが開く。
制服姿の警察官が降りてくる。
その後ろから、一人の刑事がゆっくりと歩いてきた。
「警察です。何があったんですか?」
圭司は、逃げていった男の姿を思い出した。
「家の中でガラスが割れる音がして……」
そこまで言ったところで、刑事が圭司を見る。
「野上さん?」
「上野刑事?。配達で来たんですよ」
「配達……?」
「はい。ちょうど荷物を届けに来たところで」
上野は圭司の後ろにあるトラックと、玄関脇に置かれた荷物を見た。
「では、野上さん最初から話を聞かせてもらえませんか」
圭司は頷いた。
別府家で何が起きたのか。
そして、さっき逃げていった男は誰なのか。
圭司には、まだ何も分からなかった。




