第六章 8 休戦無き前線と次なる獲物 1
「お、終わったっ……五十人前、完全に完成したわ……」
家庭科室の床に、白河隊長が文字通りに燃え尽きた真っ白な灰のようにへたり込んだ。サキも調理台に突っ伏している。息も絶え絶えだ。
「もう腕が上がらないです……フライパンってあんなに重かったっけ……」
特大の中華鍋を振り続けた突撃隊長の阿久津ですら、額の汗を拭いながら苦笑いした。
「さすがに手の握力が限界っすね」
『突撃隊長』阿久津ですら、額の汗を拭ながら苦笑している。
ダグラス(in湊)もまた、エプロンの袖で額を拭い、息を整えていた。白河隊長がすかさず、ダグラスにタオルを手渡す。……なるほど肉体は披露している……しかしその目は戦功をあげた将軍のように充実感で満ち溢れていた。
「フン、……全員見事な戦闘(調理)であった。これほどの材料を遅れも出さず配給しきるとはな。織田先生、皆に冷えた麦茶を―――」
「ちょっ、ちょっと待ってよ藤代くん、まだこれで終わり……では無いみたいよ……」
コップを配ろうとしていた織田先生が、ガタガタと窓際で震えだした。
外を見る。そこには、すた丼を食べるサッカー部の背後からこちらへと、進軍してくる泥まみれの「黒き壁」があった。
「おいおいおいおいおいっ!! サッカー部の野郎どもだけ、ここでそんな旨そうなもん食ってんじゃねえぞコラァッ!!」
なだれ込んできたのは、ラグビー部主将を筆頭とする、首の太さが高校生離れした巨漢たちの一軍だった。
彼らのユニフォームは泥にまみれ、汗にまみれている。
そして何より、その目は完全に理性を失った「飢えた野獣」そのものだった。
「ひぃっ……!冬眠前の熊がやってきたような殺気だわ……!」
白河隊長がサキを庇うように二人して机の陰に隠れta.
ラグビー部主将は、家庭科室に充満する強烈なニンニク醤油の香りにすっかり参っているようだ。
「おい、藤代ォ……嫌藤代さん!! 俺たちラグビー部も部活後は腹が減って死にそうなやつらばかりだ‼早速俺たちの分も作れ、今すぐにだ!」
「そうだ!俺たちの方がサッカー部よりも絶対に白米を食える自信があるッ!」
後方の部員達も、家庭科室を覗き込み、入ろうとせんばかりである。
その圧倒的な威圧に、さすがの阿久津も「チィッ!このラグ馬鹿どもめ、ちったぁ、空気読めよ……」と、動かない腕で包丁を握り直そうとした。
だが、ダグラス(in湊)は、一歩も引かなかった。じっと自分の手を見る。肉体は限界だ。ここで同じ「すた丼五十人分」を要求されて作れば、部員たちは過労で倒れ、兵站の維持は不可能になる……ましてやもう材料は残っていないのだ。
ダグラス(in湊)は冷酷な、しかしどこか獲物を見つけた猛禽類のような目で、ラグビー主将を見据えた。




