第六章 7 五十人前の熱狂と戦略配給 2
「調理研究クラブの部員達全員、コンロへ付け!タイミングを合わせろ、同時に仕上げるぞ!」
一番から四番の調理台コンロに一斉に青い炎が灯り、ラードの煙が天井の換気扇に吸い込まれていく。
一番調理台の阿久津は持ち前のパワーで巨大な中華鍋を豪快に煽る。二番調理台のサキ、三番調理台の白河隊長もすこし小さめのフライパンを構え、絶妙な手つきで肉を躍らせていく。そして四番調理台のダグラス(in湊)も自ら菜箸を握り、肉の火の通り具合に鋭い視線を光らせた。
ジュ―――――ッ!! バチバチバチッ!!
四つの調理台から同時に熱い熱い熱気が上がり、豚肉の脂と大量の刻んだニンニク、ネギ、そして秘伝のダグラス(in湊)が作った醤油ダレが一斉に弾けた。
「織田先生!最終チェックを!」
「はいっ!……んんん-っ、バッチリよ藤代くん!ニンニクのパンチが聞いてて最高!」
「一応、教頭先生にも試食用をね」
顧問の織田先生が差し出す太鼓判と同時に、ダグラス(in湊)の合格サインがでる。炊き立ての白米がつぎつぎとプラスチックの(使い捨てでない)お椀に盛られ、その上から四人がかりで炒めた茶色い肉の絨毯が敷き詰められていく。部費で調達した仕上げの生卵がポトリと落とされた瞬間、ちょうどグラウンドから部活終了の先生の声と挨拶の声が響き渡った。
「…………はぁはぁ。……死ぬほど走らされたわ」
「……マジ、腹減って死ぬ……」
「ようし、配給を開始する」
ダグラス(in湊)の掛け声と共に、家庭科室グラウンド続きの窓側に、簿勝つ終わりのサッカー部員がそれぞれ集まってきた。
最初の一つを受け取った、顧問と主将が待ちきれずに近くに陣取り、肉と飯を豪快に口に掻きこむ。
「おおお……っっっ⁉……美味すぎる。なんだこれえええっ!!」
その絶叫が合図だった。
「肉が柔らかくてタレが神懸ってる!」
「メシが止まらねえぞ!ずっと食える!」
サッカー部マネージャーが部室からペットボトルのお茶を運んでくる。
家庭科室の窓側には、瞬く間に飢えた獣たちの共演の場と化した。五十人の高校生たちが一斉に飯を貪り食う熱気は、すさまじい光景となった。
ダグラス(in湊)は腕を組み、窓からその光景を満足げに見下ろしていた。
『いいねえ、ダグラス。僕とダグラスの合作でこんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ』
「フン、素晴らしい喰いっぷりだな。だが、覚えておけ、サッカー部共よ。我が部の手札はこれだけではないのだ」
「藤代 湊っ!湊様、次は何を持ってきたらいいんだっ!!」
サッカー部はもはや調理研究部を崇めている。
「おい……なんだよ。そのサッカー部の騒ぎは」
その時、グラウンドの反対側から、泥まみれの巨漢たちの一団が鼻をヒクヒクさせながら、家庭科室へと近づいてきた。
「ラグビー部」の面々である。
「おいっ!サッカー部!てめぇらだけそんな旨そうなもん食って……ズルいだろ!!」
学校のもう一つの巨大勢力が、ついにダグラス(in湊)の仕掛けた「旨い飯の罠」の射程圏内へと足を踏み入れたのだった。




