第六章 5 法(ルール)の防壁と、軍師の屁理屈
「ちょっと藤代くん、大変よっ!」
数日後の放課後、家庭科室に駆け込んできた顧問の織田先生が、一枚の書類を机に叩きつけた。
「やっぱり、教頭先生からストップがかかったわ!『調理研究クラブが他の部活の生徒に振る舞っているという噂がある。保健所の許可や調理師免許無いのに、万が一食中毒でもでたらどうするんだ!即刻中止しなさい』って!」
白河隊長が「ええっ⁈せっかくみんな喜んでくれてるのに……」と青ざめる。
しかし、ダグラス(in湊)はコンロの火を止めることもなく、フッと鼻で笑った。
「フン、お役所仕事の形式主義め。だが、安心しろ、織田先生。我が調理研究クラブは学園の校則もこの国の食品衛生法も全く侵してはいない」
「え?でも、不特定多数に食べ物を出すのは……」
「そこが教頭の、そして先生の誤解であるのだ」
ダグラス(in湊)は腕を組み、理路整然と「法の穴」を突き始めた。
①このクラブの目的は「営業」ではなく「研究実習」である
「食品衛生上、保健所の営業許可が必要になるのは、『不特定または多数の者に対価を得て食事を提供する(営業行為)』場合だ。だが、我が部は生徒から一円の金銭も受け取ってはおらん。これは金銭の発生ただの『クラブ活動内の試作』である」
②運動部員は客ではなく「共同研究の被験者」である
「次に『部外者に食べさせている』という点だが、彼らは客ではない。わがぶが掲げる研究テーマ(運動部における、発汗後の塩分・栄養摂取効率の検証)に協力してもらっている『被験者』だ。部活動の一環として、事前に彼らから『研究協力への同意』を募れば、それは部外者への配給ではなく、我が部の『共同研究の実習』となる」
③衛生管理の責任者は「家庭科教諭 織田先生」である
「最後に調理師免許の剣だが、学校の家庭科の調理実習で、生徒全員が免許を持っているか?持っていないだろう。なぜなら、免許を持った教諭である織田先生の監督下で行われる教育活動だからだ。我が部は先生の監視のもと、完璧な手洗いとアルコール消毒(検疫)を徹底している。教頭が文句を言うなら、それは『織田先生の授業(監督能力)に不備がある』と難癖をつけているのと同じだ」
「……あ」
織田先生がハッと目を見開いた。
ダグラス(in湊)の屁理屈は、完全に「学校の部活動」の枠内に収まっている。
金銭を取らず、名目を「栄養研究のデータ収集」にし、顧問の監督責任を立てにする。これなら保健所が介入する余地もなく、学校側も「授業の延長線上の研究です」と言われればそれ以上強くは言えなくなる。
とどめに、ダグラス(in湊)は月一回の『定期検疫(検便)』の義務も怠らなかった。織田先生には毎月保健所に行って貰うこととなった。
「よし!阿久津。サッカー部の主将の所へ行って、この『研究協力同意書』に部員全員のサインを書いて貰って来い。提出しなければ次からの配給は無しだと伝えろ」
「了解っす!藤代さん、回収してきますよ」
用心棒の阿久津がニヤリと笑って飛び出していく。
数日後、完璧に書類を揃えて教頭を黙らせた織田先生は、家庭科室で、出来立てのつけ麺を啜りながら、
「藤代君……って、本当にあなた高校生?何か変だわ……」
とその隙のないやり口に呆れを通り越して畏怖の念を抱くのであった。




