スピンオフ 第二話 沼地の主と新たな出会い
畑の防衛シフトをアルトたちに任せ、ボアくんは、さらに森の奥深くへと足を進めていた。
但し、今回は一人ではない。ボアくんの数歩後ろには、つい先日、村の近くで保護されたばかりの、手製の弓を操る小柄な少女・ルナちゃんが不機嫌そうな顔で同行していた。
「……ねえ、ダグラス様に言われたから付いてきたけれど、なんで私がこんな太っちょさんの護衛をしなきゃいけないわけ?飢え死にしそうな時に吞気に草むしり?」
「吞気じゃないぞ、ルナちゃん!僕の鼻が『何か美味しい匂い』を感知したんだ。……多分、ダグラス様のショウユに絶対会う食材なんだ」
辿り着いたのは、かつて大泥蟹を取った危険な沼地の上流だった。ボアくんが泥だらけになりながら見つけたのは青々とした野生のネギだった。
だが、ボアくんが夢中でそれを掘り起こそうとしたその時、沼の泥を跳ね上げて、大泥蟹の生き残り「沼ハサミ」がギチギチ」と音をたててボアくんにおそいかかった。
「ギャッ!まだ残っていたのかっ!」
足元はぬかるむ泥。ボアくんが身動きを失ったその瞬間――ボアくんの頭上を空気を切り裂く鋭い音がかすめた。
シュウゥゥゥゥン! ボグッ!!
ルナちゃんの放った手製の矢が、泥蟹の目の中心に比較突き刺さる。驚異的な速度で第二射、第三射が放たれ、泥蟹はあっという間に物言わぬ肉塊へと変わった。
「……ふぅ。本当に危なっかしいんだから。ダグラス様が私を付けた理由が分かったわ」
弓を下ろしたルナちゃんに、ボアくんは目を輝かせる。
「ルナちゃん、凄い!助けてくれてありがとう!……流石、ダグラス様が見込んだ狩人だぜ!」
「ふ、ふん。私はただ、ダグラス様に『ボアくんに付いていけば、君が驚くような美味しものを食べることが出来るぞ』っていわれたから仕事をしただけよ。そんな辛そうな草が、本当に美味しくなるの?」
「なるんだよ!村に帰ったらアルトさんも巻き込んでご馳走を作ってあげる」
ボアくんの屈託のない笑顔に、ルナちゃんのお腹がグゥ、と小さくなった。




