第七章 24 凍土の二毛作 2
豆が土のポテンシャルを維持して、小麦がその恩恵を受けて加速して育つ。魔力というチートの日が消えた極限の辺境で、自然の摂理とダグラスの遺産を掛け合わせた、持続可能な「黄金の食料リサイクル」。
その圧倒的なロジックに、アルトは鳥肌を立て、ボアくんは興奮で鼻を鳴らした。
「なるほど……!それなら、兵士たちの残り僅かな小麦の種もみが、この奇跡の土で化けるかもしれない……では、ダグラス様、俺たち工作隊は今度は何をすればいい⁈」
アルトが積極的に身を乗り出してきた。
「……アルト君には、このふかふかの土を最大限に活かす『クワ』と凍土の冷気を防ぐための『畝』の器具を作って欲しい。土を高く盛って、種をお布団みたいに護るんだ」
「任せてくれ!この栄養たっぷりの極上の土なら、俺の作る農具もちゃんと応えてくれるだろうさ」
アルトの目が職人として再び輝きだした。
「ボアくんは、採取隊を率いて、畑の周辺の見回りをお願い。狩猟隊も協力してね。これだけ良い土になると、森の奥から変な虫や野生動物が餌を求めて引き寄せられてくるかもしれないからね」
「そうだ!畑の平和は僕たちが守るんだ!」
ボアくんは、その短い足で、仲間たちの元へと飛び出していく。
魔力という名の奇跡の直接行使は暫くは使えない。しかし、藤代 湊の知恵と人々の絆によってダグラスが作った「奇跡の畑」は今、辺境の難民キャンプを揺るぎない「豊穣の村」にするための、大いなる挑戦の場へと変えようとしていたのだった。
各々が新たな持ち場へと走り出していく後姿を見送りながら、湊(inダグラス)は泥と煤にまみれたダグラスの大きな手のひらをじっと見つめた。
視界の隅で、かすかに揺れる己の魂の輪郭に語り掛けるように、心の中でポツリと呟く。
(ダグラス、ごめんよ。こんなに沢山力を使わせてしまって……このままいったらお互いに、もう元に戻れなくなっちゃうかも……)
すると、その強靭な胸の奥、深く温かい暗闇から、フッと不敵に笑う軍神の気配が、脳裏に直接響いてきた。
『小僧、案ずるな。こっちの世界も悪くはないぞ。某も随分楽しんでおる。お前も楽しいならそれでよいのだ』
その言葉に、湊は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。元に戻れるかどうかへの恐怖は、もうない。
湊とダグラスの挑戦は、これからもまだまだ続きそうである。




