第七章 23 凍土の二毛作
「ショウユ」の香ばしい匂いが残る開拓村の朝。150人の胃袋は満たされ、広場には久々に人間らしい活気が戻っていた。だが、藤代 湊(inダグラス)の視線は、既に「次の冬」いや「これからの数か月」へと向けられていた。
「みんな、お腹は一杯になった?……だけどさ、これで安心しちゃダメだよ。今回収穫した豆はもうほとんどショウユの仕込みに使っちゃったんだ。つまり、僕たちの貯えはまた底を尽きかけているんだ」
「ダグラス様、でもこの凍土では一年に一度、野生の豆をぎりぎり育てるのが限界だ……と。僕たちの小さい力やダグラス様だって、畑を無理やり成長させるだけの力は残ってないでしょ?」
ボアくんが、悲しそうに言うと、湊(inダグラス)は静かに首を振り、広場の向こうに広がる「あの豆の畑」を指差した。
「ううん。ボアくん……僕たちの力(魔力)はもうほとんど残ってないけれど……僕のあの『一度きりの大技』はちゃんと今も生き続けているんだよ。みんな、あの畑を見てごらん」
人々の視線が畑へと向く。凍てつく風が吹く辺境の地にあって、ダグラスがその力を叩き込んだ一画だけは、雪すらも近寄らせな黒々とした、それはそれは生命力に満ちた土が湯気をうっすらと立ち上らせていた。
「僕の大技は、野生のくず豆を進化させただけじゃない。この痩せこけた凍土そのものを『奇跡の土壌』に変えたんだ」
(……軍神のダグラスが残してくれた、最高の遺産なんだよ)
湊(inダグラス)は心で感謝していた。
アルトが驚愕して、その黒い土を掬い上げる。
「……もはや、土壌の質自体が全く別物だ……特級農地のようにふかふかで温かい」
「そう。だからこそ、この最高の土を眠らせておく手は無いんだ!」
湊(inダグラス)は木の枝を手に取り、地面に大きな円を描いた。
「力(魔力)が切れた今だからこそこの奇跡の土壌をハックする。僕の故郷に伝わる最強のリサイクル農業――『二毛作』を始めるよ」
二毛作。聞きなれないその言葉に、ボアくんが丸い目を瞬かせる。
「……二毛作って、何?」
「一年のうちに、同じ畑で二階、別の作物を育てるんだ。豆はね、根っこに『根粒菌』っていう、土をさらに豊かにする妖精みたいなものを住まわせる性質かあるんだ。僕の力で、覚醒したこの土なら、豆を収穫した後に寒さに強い『小麦』を植えても、お互いが栄養を補い合って、信じられないスピードで育つはずなんだ!」




