第六章 2 予算と布陣 調理研究クラブの基本規約
【放課後:作戦会議(部室にて)】
放課後の家庭科室。最新鋭のガスコンロや調理器具が並ぶこの陣地で記念すべき第一回調理研究クラブの会合が開かれていた。
黒板の前に立つのは、部長に就任した白河隊長である。
「えー本日より、我が調理研究クラブの活動を開始します!私は部長として、みんなの活動を全力でサポートすることを誓います!」
「異議なし!白河隊長、今日の放課後のおやつ……じゃなくて、試作は何ですか?」
サキが真っ先に手を挙げる。
「先、焦らないの。まずは活動方針を決めなきゃね。ねえ、先生?」
阿久津の横でパイプ椅子に深く腰を掛けていた顧問の織田先生が、ふんす、と鼻息荒く立ち上がった。
「そうよ!クラブとして認められたからには、予算と活動日の管理は厳格に行います。まず、一大事な『材料費(部費)』についてだけど……」
織田先生は黒板に『部費:学校負担(ただし条件付き)』と大きく書いた。
「本来なら予算なんて雀の涙だけど、今回は私の『顧問裁量枠』から予算を捻出しました!その代わり……藤代君。あなたが作る料理は、毎回必ず五人分作りなさい。いいわね?」
「五人分?私たち四人と……あ、先生の味見用ですか?」
サキのニヤニヤ顔を、織田先生はコホンと咳払いで誤魔化した。
「ち、違うわよっ!顧問として、食品の衛生管理と味のチェック(検食)を行うのは当然の義務でしょう?決して、お昼に食べた藤代君の豚汁が忘れられなくて、放課後もタダで美味しいものが食べたいから、なんて理由じゃないんだからね!」
分かり易過ぎる織田先生の「職権乱用」にサキと白河隊長はクスクスと笑った。
腕を組んで静かに聞いていたダグラス(in湊)が、一歩前に出る。
その顔は、十代の爽やかな藤代 湊だが、口を開けば重厚なオッサンの覇気が流れ出す。
「……フン、五人分か。たった一人分増えたところで、我が兵站に揺らぎはない。部費が出るのであれば、なおさら好都合だ。織田先生、感謝するぞ」
「な、なによその落ち着き……あなた本当に高校生?」
織田先生が少し頬を赤らめて気後れする中、ダグラス(in湊)はホワイトボードにペンを走らせた。
「活動日は火・木・金の週三日とする。これ以上の連戦は、食材の仕込みのサイクルを乱し、部員の胃袋を疲弊される。休息と栄養のバランスこそが、最強の軍隊を育てるのだ」
軍隊?湊は一体何を言っているんだと、部員はみんないぶかし気に聞いている。
「週三日!丁度いいわ。月・水は塾があるし……」
「そうだな。週末に向けてテンション上がるかな」
サキと阿久津は賛成する。そして部長である白河隊長も、嬉しそうに胸を張った。
「決まりね!火・木・金は、藤代くんが厨房の『総指揮』を執り、私たちが動く。織田先生は……一番最初のお客さん(検食役)ということで!」
「よろしく頼む、白河隊長。お前が前線を支える限り、某は後方から無限の支援を送り続けよう」
ダグラス(in湊)が十代の爽やかな笑顔で、しかし四十代の包容力を持ってそう告げると、白河隊長は「う、うん……!」と真っ赤になってうつむいてしまった。




