表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄、家事野郎に転身しました ~中身は主婦系男子の派遣労働~ 2  作者: AKIRA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/14

第六章 1 男の兵糧、女子の誘惑

 その日の朝、高校の校門をくぐるダグラス(in湊)の姿は、明らかに周囲の男子生徒とは一線を画していた。

通学カバンとは別に、ずっしりと重い保温サブバッグを提げている。その中身は、現代の魔法の魔法瓶__スープージャーが綺麗に四つ入っている。

白河さんに、付いて来てもらって揃えたものだ。


(ふん、昨晩からじっくり仕込んだ根菜の熱気、これは一滴たりとも逃さぬ優れものだな。現代の職人の技術とは、恐れ入るものだ)


中身は40代おっさんのダグラスの呟きである。彼にとってはお弁当仲間である白河隊長、サキ、阿久津の分まで作ることはもはや「作戦」の一環のようになっていた。サウナ上がりのように代謝を上げて、午後からの学業を乗り切るために、スープジャーを四つ仕込むことなど、重装歩の行軍に比べれば、造作もないことだった。


しかし、さすがに昼休みの屋上で、男子高校生がカバンから大きな円筒状のジャーを四つも並べる光景は、異様の一言に尽きた。


「ちょっと湊君、それ全部スープジャーなの?」


サキが目を丸くして突っ込む。おまけに弁当箱四つ。どこの給食業者だという大量の荷物である。


「四つって……。まさか私たちの分まで、温かい汁物を用意してくれたの?」


阿久津が驚きながらも、既によだれを耐えきれない顔をしている。


「当然だ……ほれ、白河隊長、お前の分だ」


ダグラス(in湊)は、白河隊長の前に差し出した。蓋を開けたとたんに立ち昇る、濃厚な味噌と豚バラ肉のとろみのある熱気。


「……凄い!熱い……っ」


白河隊長は感激していた。レンコンをシャキシャキと小刻みに咀嚼しながら、五臓六腑に染み渡るスープを啜った。三人とも口をきかずに一心不乱に食べすすめる。

ダグラス(in湊)その光景を満足に眺めていた。

しかし、彼のように、屋上の給水塔の影からこちらを覗き込むもう一人の影に、まだ誰も気づいていなかった。


「__ちょっと、そこの君たち!屋上で一体何をしているの……っって、何?この匂いはっ!」


現れたのは家庭科担当の織田先生だった。屋上に勝手に集まる生徒達を抜き打ちで見回りに来たつもりが、屋上を支配する「暴力的なまでに美味しい豚汁の香り」に引き寄せられてしまったのだ。


「あ、先生!これは校外に出て買ってきたものじゃないですよ。湊君が作ってくれたんで……」


白河隊長が慌てて弁明しようとするが、教師の目はダグラス(in湊)手にするスープジャーとその奥に見える「完璧に乳化したスープの照り」に釘付けである。


「これ、藤代君が作ったの?この根菜の切り方、火の通りを均一にするための乱切りよね……。それに、この出汁、ただの味噌汁じゃないわね。豚……豚汁?」

「いかにも。兵の身体を芯から温め、自己免疫力を最大に高めるための『兵糧』だ。温かな汁物と乾いた服こそが、人間の尊厳を守る。これを軽視する者に集団を率いる資格はない」

「ひょ、兵糧?……尊厳……?」


高校生から飛び出すはずのない、あまりにドスの効いた「調理哲学」に教師は圧倒された。しかし同時にこの天才的な腕前を持つ少年を、このまま野放しにしておくのは教育者として、いや、料理人として失策であると直感した。


「……決めたわ。藤代君、あなたは、調理部に入りなさい!今年の全国大会の秘密兵器として、貴方を推薦するわ!」


だが、ダグラス(in湊)はフッと鼻で笑った。


「断る。某は、コンクールなどという他人に評価されるための見世物には興味がない。某が飯を作るのは、目の前の部下を養うためだけだ」

「は?……部下って」


織田先生と一同は目を丸くしている。

交渉は決裂かと思われた。しかし、此処で動いたのは白河隊長だった。彼女は豚汁のジャーを愛おしそうに抱えながら、織田先生に向かって真っすぐな目を向けた。


「先生、湊君は……湊君のお料理は、みんなを元気にする魔法なんです。調理部で行われるような『作品』としての料理とは、ちょっと違うんです。だから……いっそのこと、湊君が自由に料理を作れる『新しいクラブ』を作らせて下さい」

「えっ、白河さん?」


サキと阿久津も驚くが、白河隊長の目も本気だった。ダグラス(in湊)の作るご飯が、どれほど自分たちの心の支えになっているか、一番よく知っているのは彼女だった。織田先生は腕を組み、暫く黙っていたが、四つのスープジャーから漂う圧倒的な説得力に、ついに折れた。


「……分かったわ。ただし、部員は最低四人。それと、私の目の届く家庭科室を部室として使うこと。活動内容は、大会を目指す『家庭科調理部』と区別して純粋に食生活を探求するその名も【調理研究クラブ】。これでどう?」

「四人ならもう揃っています!」


サキがすかさず、自分と阿久津、そして白河隊長とダグラス(in湊)を指差した。こうして屋上のスープジャー四つをきっかけに、学校後任の「ダグラス(in湊)の厨房」が誕生することとなった。

家庭科室という名の「最新鋭の調理陣地」を手に入れたダグラス(in湊)は、ずらりと並ぶガスコンロや調理器具を見渡し、満足げに口元を歪めた。


『良かったね、ダグラス。これからスープジャーを四つも抱えて登校することもなくなるよ。白河さんとみんなで明日の放課後からここで料理が出来るんだ』


「うん、宜しくね!湊くん」


白河隊長は、彼の中身が「大人の軍神」であることなど知る由もないが、その頼もし過ぎる背中に、益々胸の鼓動を高鳴らせていくのだった。

湊は、弁当以外カバンに入れていないかもだな(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ