第七章 19 大和(やまと)の雫―――開拓地の醸造兵站と一年間の不戦条約 2
豆が蒸し上げる間に、湊(inダグラス)は広場の木の板を使い、部隊を振り分けた。
元兵士の精鋭・武闘派はボア(イノシシに似た動物)ロク(シカに似た動物)ベアー(熊に似た動物)冬鳥などの狩猟担当……そして村の大人や元兵士の負傷者は自生する木の実や野草、キノコの採取担当とした。但し素人では分からないために、村の『ボアくん』と呼ばれている青年を起用した。丸顔で見てくれが何となくボアに似ているので、村人たちにそう呼ばれているが、物知りで大人しい性格だった。
アルトたちは樽の製造、薪の確保、蒸器の見張りを。
女性、子供、老人は木の実のあく抜きやカラ剥き、そして取ってきた獲物の下ごしらえ担当だ。
その中でも一番大変な仕事は、湊(inダグラス)の蒸し鍋の管理だった。
凍てつくような空気の中、ダグラスは必死に蒸し器の火力を維持したのだ。
約五~六時間……この地での蒸し鍋を管理しないと豆の仕上がりが悪い。豆の旨味が水に溶け出さずに、ふっくらと仕上げるには、相当の力が要るのだ。
さて、まず動いたのは、元兵士だけの精鋭で構成された40名だ。
彼らは、職人兵士アルトが即席で作り上げた木製槍、を手に危険な森や沼地付近へと向かった。
「おい、ダグラス様は鍋にかじりついて火の調整をされておられる。俺たちも手ぶらで帰れねえな」
「沼の魔物には気をつけろ!囲い込め」
この間まで、敵味方別れ戦っていた男たちが、生きるために驚異的な連携を見せ、村人の為に、野生の肉や魚を仕留めては、息を切らせて村へと運び込む。
次に地上での宝探しを引き受けたのは、丸っこい身体を揺らすボアくん率いる採取隊だ。30名ほどの人数で、ボアくんの指示のもと凍土の僅かな恵みを掘り返しながら籠に集めていく。
アルト率いる内務工作隊30名は広場で木槌の音を響かせている。
まず『大和の雫』制作の為の樽。そして蒸し器の木枠。次に家の修繕や木の器など村に必要なものを作り上げていく。壊すためではない、みな生きるためのできる仕事をこなしていた。
残りの村の老人、女性、子供たちは支援隊として、ダグラスの座る大鍋を囲んでいた。傍では運び込まれた肉や魚を解体したり、木の実を剥いたり、保存食に加工したりと忙しく動いている。
やがて、木枠の豆が蒸し上がり、濃厚で甘い香りが一杯に広場に広がる。
「……上がった……蒸し上がったぞぉぉぉぉッ!」
歓声が響き渡る。湊(inダグラス)が力を注ぎ、見守り続けた木枠を開ければ、旨味を逃がさずふっくらとモチモチにむ会いあがった艶やかな豆がそこにはあった。極寒の土地で、人々の団結と軍神の執念が、完全に勝利した瞬間だった。




