第六章 16 完璧なる週三日体制 1
調理研究クラブ、織田先生、家庭科部の生徒たちが、お菓子を堪能している間にも、窓の外では甘い香りに釣られた生徒が中を覗き込んできた。
「おい、おまえら!なんでそんなところで菓子なんか食ってんだよッ!!ふざけるな」
「
「……何をいうか!これは立派なクラブ活動であるぞ。決して遊んでいるわけではない」
ダグラス(in湊)は窓を薄く開け、冷たく言い放つ。
「今日は、金曜日!当部と家庭科部の神聖なる労いの日だ。お前たちは部外者である……」
「……関係ねえよっ。中庭までめちゃくちゃ甘いいい匂いが漂ってんだよ!聞けば火曜日と木曜日にはサッカー部とラグビー部だけに美味いもんを食わせて金曜日は自分たちだけでそんな旨そうなもんを食ってるってマジかよ⁉ズルいだろ?役職の濫用だ!」
「そうだ!俺たち一般生徒や他の部だって、それを食う権利はあるはずだぞ!」
完全な言いがかりである。殺気立つ部外者たちの剣幕に、家庭科部の生徒たちは追わず身をすくめ、阿久津が「あぁん?藤代さん、俺が、なんならやってやりましょうか?」と拳をポキポキと鳴らした。
だが、阿久津が動くより早く、ダグラス(in湊)がスプーンを静かにお皿へ置き、冷徹な眼光で乱入者たちを睨みつけた。その背後に、かつて数多の戦場を支配した軍師の威圧感が立ち上がる。
「……文句があるなら受けて立つ」
「……!」
「えっ……⁉ちょ、ちょっと藤代くん……⁉」
その言葉に一番驚いたのは、調理研究クラブの白河隊長だった。
まさか、いつもは合理性と防衛線を何より重視するダグラス(in湊)が、部外者の生徒たちを相手に真っ向から「受けて立つ(宣戦布告)」などと言い出すとは思わなかったからだ。
このままでは、学園を揺るがす大乱闘、あるいは部活停止の不祥事に発展しかねない。
白河隊長はあわててダグラス(in湊)の制服の袖を引っ張り、必死になって彼を止めに入った。
「まって、藤代くん、ストップ!喧嘩はダメだよ!これ以上敵を増やしてどうするの?相手はただお菓子が食べたくて興奮しているだけの一般生徒なんだから、ここは穏便に、ね?」
しかし、ダグラス(in湊)は白河隊長の生死を片手で制し、不敵な笑みを浮かべた。
「誤解するな、白河隊長。私は拳で語り合おうと言っているのではない……おい、お前ら」
ダグラスは乱入してきた部外者たちを指差した。
「我が部が火曜と木曜に提供している兵糧も、今お前たちが羨んでいるこの金曜日の勘身もすべては我が部の兵站システムの元に成り立っている。我々は遊んでいるのではない。今週一週間、食堂のバックヤードで血のにじむような仕込み(労働)を行い、その正当な対価(部費)としてこの果実を得ているのだ」
ダグラスはホワイトボードを厳然と叩いた。
「汗も流さず、規律も守らず、ただ匂いに釣られて略奪にやってくるハイエナどもに、この神聖なる報酬を分ける道理など微塵だがもない。だが――我が調理研究クラブの『クラブ活動』としての存在意義に、どうしても文句があるというなら、受けて立とう」




