第六章 15 甘美なる金曜日同盟 3
ダグラス(in湊)の下、役割分担が行われた。
まず、主役である高級チョコレートと発酵バターを湯せんでじっくりと溶かしていく。ここでダグラスと織田先生の軍事的計算だ。バターの油分、チョコレートの水分を乳化させ、冷めても中心部が固まらない「とろとろの心臓部」の配合比率を割り出すのだ。
「阿久津、卵を共立て、砂糖と混ぜるんだ。空気を抱き込ませすぎると生地が爆発し、足りないと陥没する」
「うっす……重要な役っすね!」
普段、柔道部やラグビー部を投げ飛ばしている阿久津が、顔を少し赤くしながら家庭科部の女子部員たちに囲まれて、ノリノリで泡立て器をかき回している。その横では、サキと白河隊長が「小麦粉とココアパウダーをダマが出ないように三回粉ふるいで振るう」完璧な連携を見せていた。
溶かしたチョコの沼に、持ち寄った卵、砂糖、小麦粉が混ぜ合わされ、小さな型へと流し込まれていく。
余熱の終わった家庭科室のオーブンへ一斉に投入され、焼き時間のカウントダウンが始まった。織田先生がタイミングを見計らう。
「……では、みなさん、焼き上がりのタイミングを見誤らないで。中心部がレアの状態で引き出すのよ。三分前、二分前……今だわ、出して頂戴!」
織田先生の鋭い号令と共に、家庭科室の巨大なオーブンの扉が一斉に開け放たれた。
「キャーッ!美味しそうううっ!!」
家庭科部員たちの歓声が上がる。焼きあがった極厚ショコラ生地をお皿に移し、仕上げに「純生クリーム」を、先が可愛いリボン上に美しく絞り出した。
「さあ、サキ、白河隊長、阿久津。そして家庭科部のお嬢さん方、焼き立てを食べようぞ」
ダグラス(in湊)の許可が下りるや否や、全員が一斉のスプーンを突き立てる。サクッ、小気味よい音を立てて、表面の焼き生地が破れた瞬間……トロォッ……と中から美しい艶を帯びたアツアツのチョコレートがドロリと贅沢に流れ出してきた。
「美味しいいいぃぃッ!周りはしっとりケーキなのに、焼き立てだから、中はガチで濃厚なチョコの海だよぉっっ!」
「生クリームのコクと、発酵バターの香りが鼻から抜けて、美味すぎて……」
白河隊長も家庭科部の女子たちも、一口食べた瞬間に頬を押さえてとろけそうな笑顔を浮かべた。
「うわっ、これ……マジで旨いっすね……。俺は、洋菓子店なんか行かねえし、ましてや焼き立てが食べられるなんて。……どっかのホテルのデザートみてえなもん、学校で作れるとはな」
阿久津もおっかなびっくり、一切れを口に運んでいる。
ダグラス(in湊)も口に含み目を細める。
「うむ。……なかなかのものだな……」
と見た目は堂々と口にしてはいるが、実際は違って、内心は驚きを隠せない。冷や汗がでる。
(なっ、なんだっ!この甘くてほろ苦く、温かい食べ物は⁉わが国には、こんなものは無かったぞ……湊よ、お前の世界には、まだまだこのような旨いものが沢山あるのだな……なんてことだ!)
『ふふっ、ダグラス、そっちの世界も案外いいでしょ?……これからお互い……いつ元に戻れるか分からないけれど、頑張ろうね。……そうだね……やるしかないんだから』
織田先生と調理研究クラブの面々の嬉しそうな顔を見ながら、ダグラスは、脳内の湊と二人密かにフォンダンショコラを食べながら会話していたのであった。




