第六章 12 絶対防衛線と焦らしの週一配給制
「……サッカー部共よ、耐えてくれ!『飢え』こそが最高の調味料なのだ。……火曜日までその牙を研いでおけ」
木曜日。家庭科室の窓の外では「ラグビー部が旨そうに特製豚汁と豚の塩麴焼きを貪り食べる姿」を指をくわえて見ているサッカー部員たち。彼らの胃袋に刻まれた嫉妬と飢餓感は、すでに限界を突破していた。
本当は週三日で構想していた調理研究クラブだったが……やがて、サッカー部とラグビー部の賄い部と化してしまっていた。このままだと、週三日100人ほどのご飯を作る羽目になってしまう。
そこでダグラス(in湊)の案により、木曜日はラグビー部、火曜日はサッカー部 金曜日はクラブ部員の日に振り分けられることになったのだ。金曜日にはもちろん家庭科部の女子も交えてお菓子作り大会になる予定である。
翌週の火曜日――満を持して迎えたサッカー部専用の配給日である。
放課後のチャイムが鳴り響くと同時だった。家庭科室には例のごとく、すた丼の材料が運ばれてきた。
「藤代さん!約束の火曜日だなっ!……分かっているだろうな?」
今やなだれ込んできたサッカー部主将を筆頭とする者たちは、昼の弁当とは別にプラスチック容器に詰められた白米を持参してきている。「放課後すた丼用ライス」である。
窓口に並べられた五十個のタッパーの列を前に、ダグラス(in湊)は不敵にも口元を上げ、エプロンの紐を強く結んだ。
「フン……。よくぞ規律を守り、己の主食を調達してきてくれたな。面白いぞ。……これより我が調理クラブの『火力調整』を開始する!……阿久津!サキ!白河隊長!位置につけ!最高の状態で一気に痛め挙げるぞ!」
「「「うっす!!」」」
ゴォォォォォォッ!!
一番から四番調理台のコンロが一斉に点火され、激しい炎が中華鍋を包み込む。
今回は炊飯の工程が一切ないので、四人の全神経が「すた丼の炒め」だけに集中できる。
限界まで焦らされたサッカー部の執念に応えるように、阿久津の中華鍋が爆音をたてて肉を躍らせ、サキと白河隊長のフライパンからも、ニンニク醤油の悪魔的な香りが吹き荒れる。
「よし、全軍、器を出せ!兵糧を投下する!」
ダグラスの号令と共に、完璧なライン生産が始まった。
部員たちが持ってきたタッパーの白飯の上に、四人がかりで炒めあげたすた丼の肉がドサドサ敷き詰められ、仕上げの卵がポトリと落とされる。
「いただきまっす!!」
その号令と共に、サッカー部が一斉に箸を動かした。
「う、うんめぇぇぇぇぇっ!!」
「これだよ!これを待っていたんだよッ!」
「……先週、ラグビー部が旨そうに食ってたから、余計に身体に染みるなぁ……」
肉の旨味とニンニク醤油のパンチが白米を一層美味しくひきたてていく。
家庭科室の窓辺のブルーシートの上に座り込み、すた丼を猛烈な勢いで平らげていく部員達。
「週一度しか食べられない」という希少価値を、木曜日に味わった「お預け」の焦らし効果によって、ご飯の美味しさは何倍にも跳ね上がっていた。
ダグラス(in湊)の狙い通り、完璧な胃袋の完全掌握である。
「フゥ……終わった……。おかずだけで五十人前なら、我が部は誰も倒れることなく最高の手際で捌ききれるな」
白河隊長とサキが、心地よい疲労の中で麦茶を飲みながら笑顔を見せた。
「本当っすね。一日五十食……これが俺たちのクオリティを保てる絶対防衛戦だな」
阿久津も満足げに中華鍋を片付ける。
ダグラス(in湊)は腕を組み、食べ終えたタッパーを大事に抱えるサッカー部を見下ろしながら、フッと小さく笑った。
「一日五十人分がやっと―――だが、戦線を曜日ごとに完全分離し、週一回の配給に制限すれば、最小の兵力で最大の賄いを作れる。これが我が調理研究クラブの絶対の法だ」
しかし、このサッカー部とラグビー部の「週一の熱狂」を見た他の運動部たちが、黙っているとは到底思えない。
さて、平日の残り枠……賄い日争奪戦へと突入していくのは、まだ少し先の話であった。
なんだか、凄い話になってきた(笑)




