第六章 11 休戦なき前線と次なる獲物 4
そして迎えた木曜日の放課後。家庭科室は、コメを炊く工程がひとつなくなったことによって、完全に「おかずと汁物」に特化した機能的な工場と化していた。
今日は話し合いの末、サッカー部の賄いを断り、ラグビー部のみとすることとなった。
まず五番六番の調理台。家庭科部からは女子部員たちの手によって、美しくいちょう切りにされた大根や人参が織田先生の指揮のもと巨大な鍋でグツグツと煮込まれている。豚バラと出汁とみその芳香な香りが、家庭科室を満たしていく。
そして一番~四番調理台が「火力戦闘セクター」だ。
ダグラス(in湊)、阿久津、サキ、白河隊長の四人がコンロにつき、塩麴に付け込まれて、柔らかくなった豚肉を一斉に焼き始める。勿論、辛くなり過ぎないようにみりん、酒を適宜加えるのも忘れてはいけない。
ジュ-ーーーっ!という良い音と友井、ショウガや塩麴の香ばしい匂いがグラウンドへ流れていく。
やがて、部活終了の合図とともに、一階の家庭科室の窓が開け放たれ、なだれ込んできたラグビー部員たちは持参した白米入りのタッパーを抱え、その上から肉を乗せて貰っていく。ブルーシートの上に座ると、今度は家庭科の女子部員たちがそれぞれ、豚汁を配っている。
「……味わって食うのだぞ……」
ダグラス(in湊)が言い終わらないうちに、一斉に部員たちは、ご飯をかき込み始めた。
「すげぇぇっ!これ……美味すぎっ!……なんだこれぇぇぇっ!」
「塩麴のお陰で、肉がめちゃくちゃ柔らかくてジューシーだ!」
「豚汁もサイコーだな。旨い旨い!」
「朝から、ご飯を炊いて持ってきた甲斐があったな!……毎日やってくんないかな?これ……」
家庭科室の前は、瞬く間に飢えた野獣どもの歓喜の宴となった。
家庭科室の火力を「おかずと汁物」だけに集中させることにより、最高の状態で五十人前の豚の塩麴焼きと豚汁を完成させることが出来たのだった。
洗い物は例のごとく、食べた部員が洗って返すシステムになっている。
「ふぅ……終わった……。炊飯だけでも今回は無かったもんね」
白河隊長とサキが心地よい疲労の中で、冷たい麦茶を飲みながら笑顔を見せている。
ダグラス(in湊)は腕を組み、タッパーの底まで奇麗に平らげていくラグビー部を見下ろしていた。
『……ねえ、ダグラス……僕の料理の腕と君の采配で、こんなにみんなが喜んでくれるとは思わなかったよ。ただのエプロン坊やだった僕がね……ふふっ』
湊が脳内で笑っていた。
「フン、これでも一日五十人がやっと……だな。……だが今回は主食を現地調達させることによって質は向上させることに成功したわけだ。―――これが、我が調理研究クラブの絶対防衛線ということだな」




