黒い森 7
しかし、状況は悪い方に変わっていった。
『ピピピピ……』
「「ぴーちゃん!!」」
『ピピ……ピピピ……ッ!』
装甲が傷だらけになったぴーちゃんが戻ってきたのは、それから一週間後のことだった。
ぴーちゃんを連れて帰ってきたのはアンナだった。彼女の表情は珍しく曇っていた。
「ハルト坊ちゃん、ルティアお嬢様、それにレイ坊ちゃん。少しの間、隣の部屋で蜘蛛型魔導具を見ていてあげてもらえませんか?」
「うん! 任せて! 治せるところは僕が治す」
「ええ、蜘蛛型魔導具をお願いします」
ハルトがぴーちゃんを抱き上げた。
ルティアとレイが、ぴーちゃんに話しかける。
「ぴーちゃん、大丈夫?」
『ピピ!』
「いたいのいたいのとんでけ~」
『ピピピ!』
ルティアとハルト、そしてレイは蜘蛛型魔導具を連れて別室に向かった。
アンナは再び私に向かい合った。ここからは、子どもたちに聞かせるような話ではないということなのだろう。
「聞かせて……」
「リーゼ卿とイースト卿が対応していましたが、あの高位魔獣は別格です。リーゼ卿は負傷し、戦闘機能が落ちた蜘蛛型魔導具とともに帰還したようです」
「リーゼ卿とイースト卿二人がかりでも敵わなかったの?」
……近距離と遠距離、とても相性が良い。二人であれば、大抵の魔獣には後れをとらないはずだ。
アンナの瞳の色は、元に戻っている。
ずっと光彩に輝いていた赤い光は今はない。
「高位魔獣……」
「ええ、第二騎士団と辺境騎士団が合流しましたが、その高位魔獣を足止めするために、小物は逃がしてしまったようです」
聞かなくても、わかる気がした……。たぶん、その魔獣の姿は。
「翼の生えた獅子の魔獣でした」
「……」
やはりそうだったか……。
黒い森に眠るという獅子の魔獣は、千年前にレイブランドが封印し、三百年前に再度封印を施したという。
初代騎士であるレイブランド自身が、そして魔剣に姿を変えたレイブランドを手に戦ったという三百年前の騎士が、ともにとどめを刺すことが出来ずに神代の魔導具で封印するしかなかったという魔獣。
「――神代の魔導具は、もうない」
「そうでございますね。倒す以外の選択肢はないでしょう」
それほど強い魔獣が目覚めてしまったというのなら、王都はもはや安全な場所とは言えないだろう。
「――ああ、お帰りになりましたね」
「……」
「私は坊ちゃんたちとお嬢様を見て参ります」
アンナと入れ替わるように部屋に入ってきたのは、旦那様だった。
旦那様は、あの初夜の時と同じ表情をしていた。
無表情に見えるけれど、今の私にはわかる。
彼は、私のことを愛しく思い、自分のことよりも案じているのだと……。





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