黒い森 5
――それは、ごく普通の恋文だった。
辺境伯小国で使われていた古い文字で書かれている以外、特別なことが書いてある訳ではない。
愛する恋人の身を案じ、何も出来ないことを悲しんでいた。
「……何度も読まれた手紙」
この手紙の受け取り主は、きっと何度も読み返した。
はっきりと言い切れるわけではない。ただ、そう思った。
大切な――誰かへの手紙。
気がつけば、涙がこぼれていた。
『――今から十代前、フィアーゼ家の騎士は、姫君と恋に落ちたという……。もちろん、かの騎士もレイブランドを手にしていた』
それは三年前、ロレンシア辺境伯領から戻る馬車の中で黒い森を眺めながら旦那様が語った物語。
十代前――つまり、三百年前の出来事だ。
「姫君ってウィンブルー王国の王女ではなくて、ロレンシア小国の王女だったのね」
フィアーゼ家には、家系図が残されている。
「バーレン・フィアーゼ。フィアーゼ家の長男、でも家督を継いだのは二男」
これ以上踏み込めば、いくら時間が合っても足りない。
そろそろ、アンナもいない今、子どもたちをいつまでも魔剣に任せておくわけにもいかない。
私はいったん家系図と手紙をしまい、子どもたちへの元へと戻った。
* * *
「いない、どこにいったの……」
子ども部屋には子どもたちの姿はなかった。
だが、外から賑やかな声が聞こえてくる。
外に出てみると、ルティアとハルトが魔剣の端と端を掴んで鞘から抜こうとしていた。
レイは手を叩きはしゃぎながら、二人を応援している。
「「抜けないねぇ」」
「ざんねんね~! レイもやりたい」
「「あぶないから、だめ~!!」」
ルティアとハルトが、慌ててレイを止める。
「魔剣さん、レイには抜けるんでしょ?」
「え? 聖剣と違って俺は強いから、不意打ちされなければ、抜かせたりしない?」
先日、レイが聖剣を鞘から抜いてしまったことは記憶に新しい。
あのとき一体何が起こったのかについては、私も気になるところだ。
「どうしてレイには抜けるの? 僕たちより弱いはず」
「そうだよまだ、二歳よ。それに私たちみたいな魔力もないのに」
魔剣がチカチカ光っている。
考え込んでいるようにも見える。
呪剣がピカーッ、ピカーッと光った。
「え? 呪剣さんがいた場所では、みんな抜くことができた?」
「じゃあ、なんで今は抜けないの」
「「え? ロレンシア家の祖先は、呪剣さんがいたところから来た?」」
多分それは、千年以上前の話だ。
千年以上前の呪剣だからこそ知っているのだろう。
「三百年前にも抜ける人がいた?」
「魔力がなかったの? お母さまによく似てた?」
ルティアとハルト、そしてレイの視線が私に向けられた。
呪剣の言葉は、先ほどの私の予想を肯定しているかのようだ。
――もう少し詳しく教えてほしい。
ルティアとハルトに、質問を投げかけようとしたとき、地面が大きく揺れた。





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