黒い森 4
お祖父様は、ルティアとハルトと一緒に遊んだあと、騎士団本部へと出かけていった。
子どもたちは、魔剣と呪剣と一緒に遊んでいる。
呪剣は時々泣いてしまうらしく、レイもまだまだ手がかかる。
けれど、旦那様が帰るまでルティアとハルトを育てていたときほどには忙しさを感じることはない。
魔剣が子育てを買って出てくれているのだ。
(少しだけお願いしてもいいかしら?)
心の中で魔剣に話しかけると、宝石がチカチカと二回光った。
「ルティア、ハルト、レイ。少しの間、図書室に行ってくるわね」
「「「は~い!」」」
三人は魔剣を囲んで座っている。
「三百年前のお姫さまと騎士のお話が聞きたいの!」
「僕はそのときの魔導具のことが知りたい!」
「まけんしゃん、おはなしして!」
三人は元気いっぱいだ。
ルティアとハルトが七歳になってから、育児もずいぶん楽になった。
――三百年前、黒い森から現れたという魔獣。
そういえば、フィアーゼ家の騎士の一人が姫君と恋仲になったと聞いたことがある。
それも三百年前だというのなら、もしかすると魔導具で魔獣の封印をかけ直した騎士と、姫君と恋仲になったという騎士は、同一人物だったのかもしれない。
「ロレンシア小国がロレンシア辺境伯領になる直前の出来事……?」
今日調べるべきことは、三百年前の出来事なのかもしれない。
私は図書室の扉を開いた。
――フィアーゼ侯爵本邸の図書館は、地下室に作られている。
この場所は、かつてウィンブルー王国の初めの拠点であり、現在でも王都防衛の要であるとされている。
王都は全体が壁で囲まれているが、フィアーゼ侯爵家の本邸も壁で囲まれている。
ロレンシア辺境伯領の中心部の造りによく似ている――つまり、要塞のような造りなのだ。
「レイブランドに聞いた方が早いのかもしれないけれど――」
子どもたちに聞かれれば昔話をしてくれるというレイブランド。
だが、千年もの月日すべてを覚えていることなど出来るのだろうか?
たった二十年と少しでも、思い出せないことやつらい思い出は多いというのに。
――魔剣はいつも朗らかに子どもたちに話しかけているように思える。
けれど、フィアーゼ家の騎士とともに戦い続けてきた日々は、過酷なものだっただろう。
「このあたりが、三百年前の資料ね」
一冊の本を引き出すと、本の間から一枚の紙が落ちてきた。
そこに書かれているのは、ロレンシアの古い文字。
当時のロレンシア小国で使われていた文字だ。
「恋文――?」
女性らしい流麗な文字で書かれた手紙には、バーレン・フィアーゼ様へと宛名が書かれている。
「インクが消えかけているし、紙もボロボロね――古いだけが理由ではなく、まるで何回も読み直されたみたい……」
今にもボロボロになってしまいそうな紙を破かないように注意しながら、私は手紙を読み始めた。





書籍1巻発売中&2巻8月1日発売