黒い森 3
あの日から1週間、旦那様は騎士団本部から戻ってきていない。
アンナは、掃除洗濯を終えるとすぐにいなくなってしまうし、セイブルも忙しそうだ。
「「ひいおじいさま、見ててね!!」」
「ああ、見せてくれ」
今日はお祖父様が、私たちの様子を見に来てくださった。
今日は庭師の服ではなく、騎士団の服を着ている。
すでに騎士団を引退しているお祖父様まで働かなくてはいけないなんて、よほどの事態に違いない。
――ふと、陛下の笑みが脳裏に浮かんだ。
ハルトの腰に下がるのは、2つに分かれた魔剣。
最近、私はずっと考えていた。『象徴』とは何かを。
魔剣の心が、宝石がある側にあることは間違いない。そしてもう片方は『象徴』だという……。
初代騎士レイブランド。『象徴』と言えばやはり『騎士』『英雄』『初代国王の右腕』であることか。
今の魔剣は、騎士ではない、英雄でもない、ましてや初代国王はもういない。
チカチカチカ、ハルトのそばで、魔剣の宝石が赤々と光っている。何か考えているようだ。
キラキラキラ、ルティアのそばで、呪剣の宝石が楽しそうに瞬いている。
「どうして呪剣さんは赤ちゃんなのに、ボードゲームこんなに強いの!?」
「魔剣さんと一緒に戦ったのに、負けた!!」
ルティアとハルトはいつものようにボードゲームをしている。
私は二人にとっくに敵わなくなっている。
そして、以前旦那様が口にしたとおり、魔剣には数百年の盤面の蓄積があるはずだ。
「え、本当に、ルティアと呪剣の勝ち――しかも圧勝」
旦那様ですら、ハルトと魔剣の組み合わせには負け越している。もちろんハルトだけを相手にしたときは、まだ負けることがないが……。
「「データぶんせき?」」
呪剣に顔を近づけ、ルティアとハルトが声を上げた。
魔剣がチカチカ光っている。
「まさか、神代以前にもボードゲームがあったの?」
ハルトの瞳が輝いた。呪剣の機能を分析する気満々のようだ。
「……ふーん、なかったんだ。でも、似たようなものはあったんだね」
「魔剣さん、さっきから黙ってどうしたの?」
今度はルティアが魔剣に話しかける。
「え、悔しかった? 次は負けない?」
ルティアとハルトが、顔を見合わせて笑った。魔剣は子育て指南もできるし、旦那様と戦術的な会話もできるし、何より千年生きてきた。
赤ちゃんのように泣いてしまうらしい呪剣に負けたことが、よほど悔しかったのだろう。
「そっかあ……じゃあ、新しい作戦を考えようねっ!」
ハルトは魔剣を手にニッコリ笑った。
今のところ、呪剣対魔剣のボードゲーム勝率は五分五分。
戦いになったらどうなのだろう。
ふと、浮かんだ考えは魔剣に届いてしまったようだ。
チカチカチカチカ光っている。
魔剣の声は、私には聞こえない。
ルティアとハルトの様子を見る限り、子どもたちに聞こえるように話しているわけでもないようだ。
――魔剣は、ルティアに呪剣を抜かせる気はない。そんなことを言っているような気がした。
それはたぶん、私が魔剣ならこう考えるだろうと、理解し始めているからなのだろう。
「ルティア、少しばかり儂にも打たせてくれ」
「うん!」
お祖父様までボードゲームに参戦した。
「「ひいおじいさま、強い!!」」
「ふふん、まだまだ捻りが足りん。それに陛下はもっとお強いぞ」
「「えー!? すごい!!」」
――結果はなんと、お祖父様の圧勝だった。





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