円卓 2
「さあ、姉様、少しお話ししましょう?」
「ええ……」
ベルティナは、私たちのために再び扉を開いてくれた。
彼女の振る舞いは、令嬢ではなく騎士のそれだ。
十三歳のときに騎士団訓練所に入所し、半年ほどで騎士になった。
――魔力と才能がある、というだけでは説明なんてできない。
退団を決めてすら、彼女には騎士としての振る舞いが染みついているのだ。
「ベルティナ殿……」
声を掛けてきたのは、ベルセンヌ卿だ。
「貴殿は近衛騎士団に入団するつもりはないか。実績は問題ないだろう? 王城内であれば、十分役目を果たすことができるはずだ」
「ありがとうございます。ですが、私が騎士になったのは辺境伯領を守るためですから」
「……」
ベルティナの声音はあくまで穏やかだった。
だが、その言葉には有無を言わさぬような響きが込められてもいた。
「レイもいらっしゃい」
レイがベルティナのことを見上げた。
会うのは久しぶりだ。もしかすると、人見知りをするのではないかと思ったが……。
「おなじ」
「……え?」
「どうして、かくしてるの?」
レイはベルティナの眼帯を指さした。
幼心に、自分と同じ色の瞳が黒い眼帯に隠されていることが不思議だったのだろう。
「ああ、色合いのことね。……そうねぇ、どう説明したらいいのかしら姉様」
「怪我をしたからよ」
「いたいのいたいのとんでいけ!」
「まあ……ふふ、うれしいわ」
ベルティナは微笑み、レイの頭を撫でた。
淡い金色の髪に、アイスブルーの瞳。レイの色合いはベルティナと同じだ。
「隣の部屋をお借りしてもよろしいですか?」
「ああ、構わない」
扉を閉めるとき、地図の上に駒が並べられていくのが見えた。
王都、穀倉地、黒い森、山脈――そしてロレンシア辺境伯領。
街道はそこで途絶えている。
ロレンシア辺境伯領より向こうには、砂漠が広がっている。
駒には五つの騎士団を象徴する色がつけられている。
金色の駒――近衛騎士団は王都に。
赤い駒――第一騎士団は王都周辺に。
青い駒――第二騎士団は散在している。
緑の駒――第三騎士団は黒い森に。
そして、辺境騎士団を示す銀色の駒は――街道に沿うように王都を目指しているように見えた。
本来であれば、辺境騎士団は砂漠に配置されているはずだ。
心臓が壊れそうなほど高鳴る。これは非常事態を示している。
――ロレンシア辺境伯領周辺の魔獣が急になりを潜めた。
そのことについては、以前ベルティナとのやり取りで聞いていたため把握していたが。
「辺境騎士団は」
「先日、辺境伯領の砂漠の魔獣がなりを潜めたのはお話ししましたね」
「ええ……」
「魔獣の一部が砂漠から抜けだし街道に向かいました。すでに討伐されたとの情報を得ていますが」
私と旦那様が結婚した直後、旦那様は王国の北端に出征した。
そのとき戦った高位魔獣は、知性を持ち王都を目指しているようだったそうだが……。
「黒い森に現れた魔獣は、砂漠に現れる魔獣の特徴を有していました」
「そんな……」
ハルトの腰に下げられた魔剣が、まばゆい光を放った。
その光が見えたのは私と……「まぶちっ!」と目を押さえたレイだけなのだった。





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