円卓 1
旦那様の案内で、騎士団本部に向かう。
今日の格好は、少しばかり大げさだと思っていたが、騎士団長様方とお会いするのであれば話が違う。
私は心の中でアンナに感謝した。
「……あっ、べる~!」
私と並んであるいていたレイが、一人駆け出していく。
その先にいるのは、ベルセンヌ卿だ。
「べる~」
レイはベルセンヌ卿に懐いている。
「ひのけんしゃん、こーりのけんしゃん!!」
というよりも、火と氷の双剣に懐いているというほうが正確か。
近衛騎士団長と訓練所の所長を兼務するベルセンヌ卿は多忙だが、仕事柄王都にいることが多い。
一時期は修行だといって遠征に参加していたが……。
「……」
旦那様の表情は少し複雑だ。
彼は子煩悩ではあるが、高位魔獣との戦いのためずっと屋敷にいることはできない。
自分は帰ってきたときに、人見知りされるのに――という感情が透けて見える。
だが、ベルセンヌ卿の元に行こうとしていたレイは、視線を上に向けた瞬間、身動きを止めた。
「おとうしゃま!」
レイは回れ右して、旦那様の足にしがみついた。
「おっきいの!!」
やはり、レイがいざというときに頼るのは旦那様のようだ。
旦那様は、レイを抱き上げた。
レイはプルプルと小動物のように震えながら、旦那様に抱きついた。
「おや、怖がらせてしまったようだな」
レイが怖がったのは、第三騎士団長ハロルド・スフィーダ卿だ。
筋骨隆々で長身の彼は、まだ小さいレイにとって山のように大きく見えたことだろう。
騎士団長の中で最年長である彼は、面倒見が良く子ども好きなのだが……。
「スフィーダ卿! お久しぶりです!」
「ハルト! 大きくなったな!」
ハルトが駆け寄ると、彼はいともたやすく持ち上げた。
そして彼は、表情を改めた。
「フィアーゼ侯爵夫人、お久しぶりです」
「スフィーダ卿、ご無沙汰しております」
「……呪剣を手に入れたそうですね」
「……すでにご存じだったのですね」
「我が、第三騎士団は竜との因縁が深いものですから」
そういえば、第三騎士団の団旗は竜とそれを貫く槍だ。
逸話についても伝わっているのかもしれない。
「こちらへどうぞ」
ベルセンヌ卿が先導する。案内された先は会議室だった。
室内には円卓が置かれている。
すでに、騎士団長様たちは勢揃いしていた。
子どもたちと私も席に案内される。
挨拶だけだと思ったのに、会議室に案内されるなんて。騎士団長様たちの会話に混ざってしまっていいのだろうか。
「旦那様、私たちはご挨拶だけして……」
旦那様は円卓の上に広げられた地図に厳しい視線を向けた。
街道を中心に王都からロレンシア辺境伯領までが描かれた地図だ。
騎士団長様たちが揃って立ち上がった。
彼らは優雅に挨拶をする。
「お久しぶりです夫人」
黒髪に長髪、紫色の瞳をしたラペルトリーゼ卿。
彼は優れた遠距離魔導具の使い手でもある。
「ベルティナ・ロレンシア殿については、守り切れなかったことお詫び申し上げます」
「いいえ、妹は騎士です。誰のせいでもありません」
「……ですが」
そのとき、会議室の扉がノックされた。
「どうぞ」
「……失礼いたします。皆様お揃いとのことで、退団の挨拶をしに参りました。姉様もいらっしゃったのですね」
入ってきたのは、妹のベルティナだった。
淡い金色の髪は肩まで伸びて、以前よりも麗しい印象になっている。
だが、それよりもまず視線が向くのは左目を覆う黒い眼帯だ。
「ちょうどこのあと、フィアーゼ侯爵邸にお邪魔しようと思っていたんですよ。ちょうどよかった」
「……お見舞いに行ければ良かったのだけれど」
「小さな子どもがいるのですからお気遣いなく。この通り、生きておりますわ」
優れた弓の使い手であったベルティナは、黒い森の掃討戦に参加して左目を負傷した。
本来であれば、新人騎士たちが訓練のために戦うような森でだ。
熟練の騎士である彼女が、弱い魔獣相手に後れを取るはずがない。
連絡を受けたときも不思議に思ったが、彼女の姿を見ればさらに違和感が増していく……。
「それにしても、今の会話、聞こえておりましたよ」
「ベルティナ殿――」
「リーゼ卿、これは私の失態だと申し上げたはずです」
そう言って、ベルティナは微笑んだ。
その笑みは、不思議なことに以前よりさらに美しいのだった。





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