騎士団訓練所 2
「お美しいです、奥様……」
「ありがとう」
アンナのメイクの技術はさらに上がったようだ。
その理由は、私に化粧をし続けたから……だけではないのだろう。
「ご一緒したいのですが、所用がありまして」
「そう、残念だわ」
「代わりに、蜘蛛型魔導具をお連れください」
『ピッピ~!』
アンナと出会ってから、蜘蛛型魔導具はほとんどの時間彼女と一緒に行動していた。
だが、たまに別行動をすることもあった。
「ぴーちゃんが来るのはいいけど、戦うわけではないのよ?」
「蜘蛛型魔導具と、視界が共有されているようです」
「え?」
「宝物庫の中で、魔法回路を吸収した……あのとき」
「では、扉が閉まるのを止めたのは」
「私の指示ですわ、奥様……」
ここにいるのは、私とアンナだけ。
蜘蛛型魔導具は、言葉を理解し、私たちを守ろうとしていたが……まさか、操ることができるのだろうか。
「アンナ、大丈夫なの?」
魔導具の力を最大限に引き出すには、魔力が必要だ。
魔力がない私とレイにも不思議なことが起こるのだから、魔力だけとは言い切れないが……。
「問題ございません」
「アンナ……」
「奥様やお嬢様や坊ちゃんたちと、常に一緒にいられてうれしいです。それに、眼鏡をしているときには、不思議と何も見えないようです」
「その眼鏡も魔導具なの?」
「いいえ、これは見えづらくするために強い度が入っているだけのただの眼鏡ですわ」
アンナの瞳は、魔力の流れで相手の気持ちや考えを察することができる不思議な力が宿っているのだと思うが……。その力は五感と関係しているのだろうか。
そう考えると、私やレイが魔剣や聖剣、そして呪剣の光を見ることができる力や、旦那様や子どもたちがその声を聞くことができるのも魔力以外の力によるのかもしれない。
立ち上がれば、ドレスの裾がふわりと揺れた。
生成りの布地は、優しく軽やかな印象だ。
口紅やアイシャドーは、ほのかに白銀の光がきらめいている。
「イヤリングはこちらをお勧めします」
「可愛い!」
耳元に控えめに揺れる小さな薔薇。
その色合いは、ルティアとハルト、そして旦那様の瞳の色だ。
階段を降りていくと、ルティアとハルトがこちらを見上げて微笑んだ。
そういえば、子どもたちの服も生成りとブラウンでお揃いだ。
「ママ~! きれ~!」
「レイこそ、とっても可愛いわ!」
「おや、とても麗しいではないか」
「お祖父様……」
「これがあれば、騎士団本部に入ることができる」
お祖父様が差し出してきたのは、直筆のカードだった。
「「ひいおじいさまは、一緒にいらっしゃらないの?」」
「ふ~む。気にはなるが、儂が一緒に行くと皆が萎縮してしまうだろうなぁ。四人で行っておいで?」
お祖父様に見送られ、私たちは、早速馬車に乗り込んだ。
もちろん、ぴーちゃんは屋根の上にピタリとくっついてついてくるのだった。
* * *
騎士団本部は、フィアーゼ侯爵邸の造りと似ている。
グレーの壁の上には、侵入者を拒むように鉄製のスパイクが並んでいる。
『ピピピピピ~ィ!』
ぴーちゃんが、馬車から飛び降りると壁を垂直によじ登り越えていった。
「「あっ、勝手に入っていっちゃった!」」
ハルトとルティアが、唖然としたような声を上げる。
「……問題を起こさないといいけど」
騎士団訓練所は、騎士団本部の壁の中にある。
壁の向こうからは、訓練をしているのか、活発なかけ声が聞こえてきている。
私たちは、壁を守る騎士にお祖父様からいただいた通行許可証を提示する。
門番の顔色が急に青ざめた。
「猛将、サミュエル・フィアーゼ卿の直筆!?」
「いつも祖父がお世話になっております」
この挨拶でいいのだろうか。夫や祖父の職場に行くのは初めてなので自信がない。
「……っ、フィアーゼ侯爵夫人とご家族の皆様!?」
「……あ、はい」
「どうぞ!」
まだ、新米騎士なのだろうか。
年若い騎士は、ビシッと敬礼をして私たちを中に通してくれた。
――お祖父様の言葉の意味がちょっとだけ理解できた気がした。
「「ありがとう~!!」」
「は……!! 光栄でした!!」
再び敬礼をする門番の騎士を背に、私たちは、さっそく騎士団訓練所に向かうのだった。





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