騎士団訓練所 1
「「――行きたいの!」」
二人が声をそろえて訴えるのは、久しぶりかもしれない。
私を見上げる柘榴石のような瞳は潤んでいるし、頬は紅潮している。
ハルトの腰に二振り下がっているのは、双剣になった魔剣。
ルティアの腰に下がっているのは、呪剣だ。
聖剣は旦那様とともに仕事へ出かけている。
二人が行きたがっているのは、旦那様が向かった騎士団総本部、そこに併設されている騎士団訓練所だ。
ジェイルは先日、騎士団訓練所の試験を受けて、首位で合格し騎士団候補生になった。
首位入学の最年少記録を塗り替えたらしい……。
使命感に燃え、努力家であり、イースト卿と同じように才能もあるのだろう。
「いきたいの~!」
「「だよね……行きたいの~!!」」
レイまで真似し始めた。
もう、収集がつかない。
そのとき、背後から声が掛けられた。
「良いのではないか?」
振り返るとそこにいたのは、お祖父様だった。
「……お祖父様、いつ領地から戻られたのですか?」
「陛下から、レイの話を聞いた……連絡したが、急いできたため先触れより先に着いてしまったようだな」
「……そうでしたか」
「「ひいおじいさま!!」」
ルティアとハルトが、お祖父様にしがみついた。
お祖父様は年齢を感じさせない安定感で、二人のことを受け止める。
「おや、まだレイは人見知りをするのかな?」
「レイ、おいで?」
「ひいおじいさまだよ?」
「……うん」
ルティアとハルトに呼ばれると、レイはお祖父様の元に向かった。
そして両手を上に上げる。
「じいじ、だっこ」
「おお、よしよし」
お祖父様が、レイのことを抱き上げ私に視線を向ける。
「――儂が一緒に行こう」
「お祖父様がそうおっしゃるなら」
「どちらにしても、あと六年もしたら二人も入るのだ」
「……」
お祖父様の言うとおりだ。魔剣と聖剣に選ばれたハルトとルティア。
しかも二人は、代々第一騎士団長を務めてきたフィアーゼ家の血を引いている。
「それから、これが呪剣か」
お祖父様がレイを抱き上げたまましゃがみこんで、ルティアの腰に下がっている呪剣を見つめた。
途端に、ルティアとハルト、そしてレイが耳を押さえた。
「――この剣は赤子のようだと聞いていたが」
お祖父様はレイを抱き上げていたため耳を押さえられなかったようだ。
だが、お祖父様にも呪剣の声が聞こえているようだ。
「うん……赤ちゃんなの」
「千年も誰とも会わずにいたんだって」
「剣も……人見知り、するのか?」
お祖父様が、不思議そうに首をかしげている。
剣が人見知りするなんて聞いたこともないが……呪剣がこの家に来てから、誰かが来るのは初めてだったかもしれない。
「大丈夫だよ。私たちのひいおじいさまだもん」
「家族だよ? 怖くないよ~!」
「かぞく!」
三人になだめられて、呪剣は泣き止んだらしい。
それにしても、不思議だ……。つまり呪剣には、魔剣や聖剣のように誰かの命が流れているのだろうか。
――子どもの? 背中がゾクリと粟立つ。
「……違うって」
「ルティア……?」
「うん、剣として生まれたんだって」
「ハルト……?」
魔剣は以前、私の心を読めると言っていたが、呪剣も読むことができるようだ。
子どもの命が流れているわけではないという事実にほっとするが……謎はますます深まってしまった。
「本当は、持ち主と一緒に成長するんだって」
「でも、一回しか使われなかったんだって」
「そうなの……」
ルティアの腰に下がった呪剣は紫色の宝石をチカチカと光らせている。
しかし、ハルトの腰に下がった魔剣は、ぴかりとも光らずに黙り込んでいる。
呪剣を連れ帰って以降、ずっとこの調子なのだ。
「え、魔剣さん、疑ってるの?」
「でも、赤ちゃんだよ?」
「「え? 無邪気と残酷は紙一重? どういう意味なの……?」」
レイブランドの言うことは一理ある。
幼子は時に残酷だ。
まだ、善と悪を理解していないのだから……。
「泣いちゃった!」
「魔剣さんひどい!」
「ひどいの!!」
ルティアとハルト、そしてレイに同時に叱られて魔剣はタジタジだ。
初めのうちは言い返しているように強く光っていっていた宝石の光が、徐々に小さくなっていく。
「さて、それぐらいにしてやりなさい」
「「ひいおじいさま……」」
「どちらにしても、ほかの騎士団長たちの意見も聞きたい。陛下からことの詳細は聞いているが、リアムとレイブランドとも話し合わねばな」
「……」
視線を向ける。千年前から存在する魔剣であれば、呪剣のことも知っているかもしれない。
もちろん、その会話には聖剣も交える必要があるだろう。
「さて、動きやすい格好に着替えておいで」
「「は~い!!」」
「こちらに用意してありますわ」
アンナが現れて、ハルトとルティア、そしてレイを連れていった。
そして、しばらくすると三人を連れて戻ってくる。
「「見てみて~! 騎士様の服みたいでしょ!」
ハルトとルティア、そしてレイは、動きやすそうなズボン姿に着替えてきた。
騎士団の服に少し似せた服装……とても可愛らしい。
「みて!」
レイはルティアとハルトと上着はお揃いだが、ズボンは短くカボチャのように膨らんでいる。
その可愛らしさに、思わず口元が緩んでしまう。
「でも、こんな服あったかしら?」
「このような機会が訪れるのではと用意しておりました!」
アンナが自慢げに胸を張る。
おそらく陛下から聞いたのだろうが、準備がいいことこの上ない。
「奥様もお召し替えいたしましょう」
「え……私は」
「第一騎士団長の妻として、騎士団に行くのは初めてでいらっしゃいますよね?」
「……そうね」
騎士団長就任式以降も、旦那様が勲章を受けるような活躍をするたびに王城に出かけ、騎士団長様たちにはお会いしているし、ハルトとルティアを鍛えてくださっている近衛騎士団長ベルセンヌ卿とはお会いしているが、騎士団に出かけたことはない。
それであれば、きちんとした服装にする必要があるだろう。
「――そういえば、ベルティナ・ロレンシア様も騎士団総本部にいらっしゃっているそうです」
「……ベルティナが」
「騎士を、引退なさると……」
姉である私よりも、アンナの情報が早いのはおそらく陛下から聞いたからであろう。
ベルティナは、半年前まで前線で戦っていたが……。
「元気なの?」
「……お会いすればわかると思いますわ」
「そう……」
どちらにしても、騎士団総本部に行く理由はあるようだ。
「アンナ、お願いするわ」
「かしこまりました。奥様の美しさをさらに輝かせてみせましょう」
アンナはやる気のようだ。
私はクローゼットルームへ向かう。
そこで、ものすごく気合いが入ったアンナに飾り立てられるのだった。





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