王城の宝物庫 7
「……はあはあ」
振り返れば、黄金の扉は固く閉ざされていた。
「ふむ、結局のところ呪剣がトリガーか」
「……呪剣?」
「ああ、誰にも触れられない千年以上前の原初の剣。無理に抜こうとした者には、呪いが降りかかったという」
「なんて代物をうちの子に触れさせているんですか!?」
――しまった、このお方は王国で一番偉い、国王陛下だった。
「はは……そうやって私に啖呵を切るあたり、ロレンシアの者らしい」
「失礼いたしました――」
「向こうが呼びかけたのだ。問題あるまい――それに、そなたは知っているだろう? 魔剣、そして死神など強すぎる力を恐れた者たちの世迷い言であると」
「……っ」
思わず旦那様を見てしまった。彼は、苦笑していた……。
「死神騎士が参加した戦場は敵も味方も生き残らぬ――敵は魔獣であるし、それだけ過酷な戦場にばかり送ってしまった私に責任がある」
「……」
陛下から感じたのは、苦渋だった。
その立ち位置では、集団と個を秤にかけ選び続けるしかなかっただろう。
「それはそれとして、説明はしていただきたいものです。王国を敵に回したくはありません」
「……そうだな」
陛下は、旦那様に笑いかけた。少しだけうらやましそうでもあった。
そもそも陛下は、私たちだけを宝物庫に送りはしなかった。
閉じ込められる可能性について、考えなかったわけではなかろうに。
「……ひとまず、すべて陛下に」
ティアラ、腕輪に指輪にネックレス。
それらを次々と外していく。
「……何を言う」
「え?」
「私に必要なのは、このスプーンだけだ。その代わり、未来には王国に新たな魔導具を捧げよ――ハルト・フィアーゼよ」
「えっ……僕?」
急に話しかけられて、ハルトが目を見開いた。
彼が持っているのは、私が身につけたアクセサリー型の魔導具ではなく古びた部品ばかりだ。
「剣や弓、武器型魔導具も多数あった。なぜそれを……?」
「――武器は分解しないと魔法回路が見えません。魔剣さんみたいに、認められた者しか触れられない可能性もあります。でも、部品は違う――ここに描かれた魔法回路は、見たことがない文字で書かれている。これだけはっきりと残っていればいつか解読できるはず」
「ふむ……今より未来を選んだか」
「時間があったら、あの剣もあの弓もあの不思議な形の武器だって持ってきたかったのに!」
「そうかそうか……」
陛下はハルトの頭を撫でた。
「……期待している。そうすれば、私も強く心根の優しい者を前線に出さずにすむやもしれん」
「……」
「そして、ルティア・フィアーゼよ」
「私……ですか?」
ルティアは、呪剣を手にしている。
先ほどまでチカチカと光っていた紫色の宝石は、今は光を失っている。
「――その剣を守るために、王城は現在の場所に移されたらしい」
「……え?」
「竜を貫き、この国を守った剣は、その後竜の骸が朽ちても自らを誰にも触れさせなかったと言うからな」
「……」
竜なんて本当にいるのだろうか。
私が見たことがある魔獣は、すべて通常の動物と似た形をしていた。
――でも、ハロルド・スフィーダ卿が率いる第三騎士団の団旗には竜が描かれている。
第一騎士団は『薔薇』と『剣』――レイブランドと魔剣。
第二騎士団は『魔導具』と『翼』――黒い森、翼のある獅子の魔獣。
第三騎士団は『竜』と『槍』――竜は存在したのだろう。
辺境騎士団は『百合』と『女性騎士』――フィアレイアと剣の乙女。
近衛騎士団は『王冠』と『双剣』――双剣になった魔剣は王国を守るはずだ。
――考えすぎよね、きっと。
けれどそれらのモチーフは、まるで過去と未来の出来事を繋いでいるように思えるのだった。





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