【七十七話】どうせ適当に考えたんだろうな
いや、本当にお久しぶりです。
私の小説をこれまで応援してくれている皆様ならお判りでしょうが、エタりはしません。
ただ更新に間が空くことはお許しください。ぼちぼちこれから最終話まで執筆していこうと思ってます。
「落ち着いて!練習の通りにすれば大丈夫ですから!」
「はい……!」
俺は後ろに控えている渡邉さんからの声援を背に受けながら気合を入れるように手に持った刀の柄を握りこむ。
目の前には所謂ファンタジー世界で一番と言っても良いほど有名なスライムがぬぼーっとした表情でこちらを睨んでいた。
勿論スライムには顔が有るわけもなくぬぼーっとしたというのも俺の勝手な妄想ではあるが。
「よいっしょ!」
とはいえいつまでもまごまごとスライムとお見合いをするわけにも行かないので、俺は適当な掛け声とともに刀を振り下ろす。
振り下ろした刀はスライムの体に触れ、僅かな感触一つ残さず両断する。
「……おぉ、こんなもんか」
「硯さん!よくできましたね!」
スライムを両断したことで得た僅かな達成感と共に、俺は自分の手のひらを見つめていると後ろにいた渡邉さんがぱちぱちと可愛らしい拍手をしながらこちらに歩いてきていた。
「何というか……本当に何も残らないんですね」
俺は両断したスライムの体がうっすらと発光しながら消えて行くのを何とも言えない気持ちで眺めながら言う。
「……えぇまあ。そう言う物ですので」
渡邉さんは俺の言葉を聞いて、頬に指をあてながらそれがこの世界の常識であると言った。
俺としては余りにもこの迷宮と言う物がゲームじみていて、所謂魔石と呼ばれるものだったり、何かアイテムのような物を落としたりするんじゃあないかと思って口にした言葉だったが、いつか家で渡邉さんに教えてもらっていたことを思い出す。
迷宮では、得られるものは名誉だけである。と
無論、迷宮の探索で階層の更新であったり、迷宮の探索をしていくうちに有名になることで企業からスポンサードを受け、収入を得られることはあるだろうが、こと迷宮探索に置いては得られるものは名誉だけなのである。
――――――――
「そろそろ今日は帰還しますか?」
「……そうですね」
迷宮に潜り始めてから既に数時間が経過しており、待ち望んでいた迷宮ではあるものの、いくらスライムやゴブリンのようなモンスターを倒したところであいつらは何も残さず消えるのみで流石に精神的に疲れてきていたので、渡邉さんの提案は渡りに船だった。
「やっぱり、何も残さず消えられると少しあれですね」
「そう言う物であるとはいえ、ですね?」
「そうそう」
「少しは分かります。私も最初迷宮にもぐり始めた時は私もそう思ってました。苦労して倒したのに……って」
「はは、ですね」
そう言う物であるとは渡邉さんが言ったものの、多少は渡邉さんも思ったことが有るようで俺が思っていたことをそのまま言葉にしてくれた。
まぁ苦労してという所は首を傾げざるを得なかったが。
実際の所、渡邉さんの教えもあってそこまでモンスターと戦う上で苦労したり、身の危険を感じたことは今のところ無いし、死の危険を感じたことも無かった。
「そういえば、これで三階層でしたっけ?」
「そうですね。初めての探索で三階は結構順調ですよ?」
「へぇ?そうなんですか」
「ええ、まあ。普通であれば一日で一階層を更新することは余りありませんし、大体は何日か掛けてやっと次の階層に進むんですが」
確かに言われてみれば、一階層は洞窟系の地形だとはいえだだっ広く次の階層への扉を見つけるのにも一苦労だったので、確かに渡邉さんの言う通りなのだろう。
「ま、先生が良かったので」
「あはは、お世辞がお上手ですね。それに、私は今日何もしてませんし」
「でも、やっぱり後ろで渡邉さんが見てくれていると安心して冒険できますよ」
例えば俺が何か失態を犯したところで、うしろにいる渡邉さんが何とかしてくれるだろうと思うと余計な体の力も抜けるってものだ。
「……でも、あんまり私に頼るのは辞めてくださいね?普通は一人か信頼できる仲間と一緒に潜る物ですから」
「油断に繋がる?」
「その通りです。確かに私であればこのぐらいの迷宮なら目を瞑っていても踏破できますが、そういうわけにも行かないでしょう?」
「そりゃあ、やっぱり自分自身の力で踏破してこそですよね」
今の状況を傍から見れば安全策どころかもはや姫プに近いとは俺も思うが今のところは渡邉さんに助けて貰うようなことにはなっていないのでそこは許してほしい。
「そうですよ!それこそが迷宮探索の醍醐味ですから」
「ですね」
「というか、またこれから来た道を戻るんですか?」
適当に二人で雑談をしながら歩いている時にふと思ったことを渡邉さんに聞いてみる。
「いえ、階層ごとの扉で帰りたいと念じれば迷宮の入り口に戻れますよ……って教えませんでしたっけ?」
「え……あれ、そうでしたっけ?」
不思議そうに首を傾げる渡邉さんに言われ、自分で少し不安になってしまったが、記憶が正しければ教えてもらったことは無いはずだ。
「まあそれはさておき、念じるだけで戻れるって言うのは便利ですね」
「確かにダイバーとしては助かりますね」
まあどうせあの適当な神様が手間を省くために迷宮に付けてくれた機能なのだろうが、今は何も言うまい。
そんなことを話しているうちに三階層の扉に着いた。
「着きましたね」
「はい。それじゃあ……」
「「帰りますか」」
そう言って俺たち二人は扉に手を当てると、俺たちの体がぼんやりと光り始め気が付くと迷宮の入り口に戻っていた。
迷宮の入り口付近には迷宮の最寄り駅以上のファンタジーが広がっていた。
迷宮に入るときにも見た光景だが、何度見ても感動してしまう。
「それじゃあ、市役所で貰ったプレートをあそこの人が並んでいるところにかざしてきてください」
俺がきょろきょろと当たりを見渡していると、後ろの渡邉さんがそう言った。
渡邉さんがあそこと言いながら指さした方に顔を向けると、妙に神聖な雰囲気を纏うモノリスに並んでいる人々が目に入った。
「あれは?」
「あのモノリスにプレートをかざすと、迷宮ごとに到達した迷宮の最高階層を記録してくれるんですよ、それが証拠にもなりますし」
「便利なこって」
「どう便利でしょ?」とにやにやとしてこちらを覗き込んでくるあの神様が容易に想像できてしまって少し呆れてしまう。
「まあ取り敢えず行ってきますね」
「はい。私はここで待ってますので」
ひらひらとこちらに手を振る渡邉さんを背に俺はモノリスに向かって足を進める。
モノリスに並ぶ人たちの最後尾に並んで待つこと数分、ついに俺の順番が来た。
モノリスを見上げながらプレートを取りだして、前に並んでいた人がしていたようにモノリスにかざすとプレートに文字がつらつらと記されていく。
【三階層】と記されたことを確認して俺は列から外れ、渡邉さんを探すと渡邉さんは他のダイバー二人組に囲まれていた。
「あの、渡邉さん、一緒に写真とか撮ってもらっても」
「あ、私も!」
「ええ良いですよ」
「あの~」
どうも渡邉さんを囲んでいたダイバーはかの有名なダイバーである渡邉さんのサインを欲しがっているらしく、それに割り込むのも気が引けるので写真を撮り終わるのを見届けてから声を掛ける。
「あ、すいません!邪魔でしたよね!渡邉さん有難うございました!」
渡邉さんと写真を撮っていた二人組の男子の方が俺に気が付いて、ペコペコと頭を下げ、遅れて気が付いた女子の方も男の子に釣られて俺にペコペコと頭を下げて離れていった。
「邪魔しちゃいました?」
「いえ、ファンサービスも仕事の一環なので」
「やっぱり、人気者は違いますね」
「あはは、恥ずかしいですね」
人気者と言われて気恥ずかしかったのか、渡邉さんは少し頬を染めて眉根を下げていた。
「とりあえず、着替えますか」
「ですね」
渡邉さんが男といることに周りのダイバーも気が付き始めたのか辺りがざわつき始めたので俺が言うと、渡邉さんも軽く辺りを見渡して、他のダイバーからの視線に気が付いたのか、こくりと頷いた。
――――――――
俺は着替えを済ませ、更衣室から出るが、まだ渡邉さんは着替えているようだった。
更衣室の前でぼんやりと渡邉さんを待ちながら携帯を見ていると桜から連絡が来ていた。
『もしあれなら津奈ちゃんも一緒に晩御飯食べないかな?誘ってみて~』
「お待たせしました」
「……ん、あぁはい全然」
丁度桜からの連絡に何と返そうかと、思っていると渡邉さんも着替えが終わったようで携帯を見ていた俺を見上げている。
「……どうかしましたか?」
「あー、あのこの後ってなんか予定とか有りますか?」
「?いえ、特に予定とかは無いですけど……」
「ならよかったです。……実は桜が渡邉さんが良ければ一緒に晩御飯どうかって」
「良いんですか?」
「そりゃあ勿論」
「それではご相伴させていただきます」
「ははは……桜にそう連絡しておきます。確か今日は皆いるはずだし」
やけにかしこまった渡邉さんに乾いた笑いが漏れる。
「それは、楽しみですね」
「じゃあ行きますか」
「はい」
どうも今日の晩御飯は少し騒がしくなりそうだ。




