【七十八話】女性陣は強い
少し長くなりました。
「二人ともお帰り。津奈ちゃんも来てくれてありがとうね~まだご飯出来てないから好きに座って待ってて?」
俺が渡邉さんと一緒に家に帰宅すると、キッチンで忙しそうにしている桜からそう話しかけられた。
「……その本当に来ても良かったんですか?お邪魔じゃないですかね?」
「まあ、桜から誘ってきたからお邪魔なんてことは無いと思うけど」
渡邉さんにそう聞かれたところで、俺もどうして桜が渡邉さんもご飯に誘ったのかはいまいち分からないので何とも言えない。
いまいちはっきりとした答えを出せないのは悪いが、俺たち二人はいそいそと迷宮の荷物をリビングの端に寄せてリビングに向かうと既に皆が集合していた。
セツナはソファーとクッションに埋もれながら携帯をいじりながら俺というよりは一緒にいる渡邉さんに向かってフリフリと手を振っており、鏡花さんはテレビでもよく見る顔である渡邉さんに少し照れているのか頬を掻きながら話しかけてきた。
「いや、なんだかんだこうしてしっかりと顔を合わすのは初めてだね。セツナとか桜から話は聞いていたけど……」
「鏡花さん、今日はもう暇なんですか?」
ここ最近鏡花さんは動画編集等で忙しそうにしていたので、今日の食事会に早くから顔を出しているのが少し不思議だった。
「まあ、暇かどうか言われると暇ではないんだけど……一度ぐらい話題の渡邉さんの顔も見て見たかったし」
「あ、あの、初めまして、渡邉津奈です。えっと」
「あ、どうもどうも、真壁鏡花です一応、空君のお嫁さんやらせてもらってます」
ゆるく話しかけてきた鏡花さんに何と返そうかと固まっていた、渡邉さんもやっと動き始めてぺこりとお辞儀しながら自己紹介をしていた。
てか、一応ってなんだよ
「へえやっぱり硯さんのお嫁さんなんですねぇ……」
「やっぱりってなんですか……僕もいまいち慣れてないですけどね」
鏡花さんの自己紹介を聞いて渡邉さんは少し感心するように呟いた。
「いいじゃあないの、やることはやってるんだし」
「そういう事言わないでくださいよ!?今普通に夕方ですよ」
急に鏡花さんが下世話な話をするものだから渡邉さんも困ったように苦笑いしていた。
当事者の俺としては苦笑いでは済まず、少し声を張り上げてしまう。
「……その、仲が良い事は良い事だと思いますよ?」
渡邉さんは気を使っているのか、絞り出すようにそう言った。
「はぁ……セツナも携帯いじってないでなんか言ってくれよ……渡邉さんと友達だろ?」
「ん、まあ事実ではある」
「……使えねぇ」
にやにやと笑っている鏡花さんに、苦笑いしたままの渡邉さん二人を見て、このままでは埒が明かないと思いソファーに埋もれたセツナに助けを求めてみるも、予想通りと言えば予想通りのセツナらしい答えが返ってくるのみであった。
「まあいいじゃないの、別にいけない事をしてるわけでもないんだしね」
「そうですね、家も母が二人いますし」
「渡邉さんまで、鏡花さんに言いくるめられてるし……」
鏡花さんは何か可笑しなことでも言った?とでも言いたげな表情で言う。
俺は鏡花さんの言った言葉に渡邉さんも乗っかって言う物だから、近頃は余り感じていなかったこの世界の常識と自分の常識に少し憮然とした表情を浮かべてしまう。
「って、渡邉さんのお家そうなんですか!?」
余りにもさりげなさ過ぎて、反応が少し遅れてしまった。
急に声を張り上げた俺に皆はキョトンとして俺を見てくる。
「ええ、まあ。そんなに驚くことですかね?」
「そういえば、今のところ空君のお嫁さんの実家って一夫一妻だったね、家もそうだし」
「そこまで珍しい物でもない?」
鏡花さんとセツナは渡邉さんの言葉を聞いてあっけらかんとした口調で言った。
「家は父がそれなりに稼いでますので……」
「まあ稼いでるからと言って多妻の人はそこまで居ないから、珍しいっちゃあ珍しいかもね」
「あー、権利はあるけど義務じゃないからか」
俺は鏡花さんの補足の説明でやっと腑に落ち、少し落ち着いて返事をすることが出来た。
「うん、そんな感じ。だから空君みたいに若いのにこんなに一杯お嫁さんを抱えてる人は世界中探してもそうはいないだろうね」
「……嬉しくないなぁ」
鏡花さんの誉め言葉なのかよくわからない言葉を聞いて俺はため息交じりに漏らす。
「あはは、まあいいと思いますよ。皆さんも上下関係とかは無いようですし、平等に愛しているのであれば」
眉を下げている俺の顔を見て少し笑いながら渡邉さんは言う。
正直な所流されに流された結果が今の状況である俺としては素直にその渡邉さんの言葉を受け取ることは出来なかったが、うっすらと渡邉さんの言葉尻と表情からして一夫多妻と言う物が必ずしもうまくいくわけでは無い事もあるという当然と言えば当然なことに気が付く。
「……そう言えば今日のご飯って何なの?二人は知ってる?」
とは言え、家庭の事情に首を突っ込むのもなんだかなあなので、この話題はほどほどにして、今日の晩御飯について二人に聞いてみる。
「ん、色々らしい」
「みたいだね、なんか桜が張り切ってて、今日は色々作っちゃうって言ってたよ」
「へえ。食べきれるかな、皆そこまで健啖家って訳でもないし」
「ま、人数居るから大丈夫でしょ。最悪響さんとかも呼べばいいし」
「響さん?」
渡邉さんは鏡花さんの言った響さんがまだ顔を合わせたことのない人だと気が付いたようで辺りをきょろきょろと見渡すが当然等々力さんはこの部屋で暮らしているわけでは無いので、いくら探しても見つけることは出来ないだろう。
「響さんは俺の運転手さんなんですよ。一応階は違いますけど、このマンションに住んでるんですよ」
「へえ、そうなんですね。お金持ちは違いますね」
簡単に響さんに付いて紹介すると揶揄うように笑いながら渡邉さんが言った。
「揶揄わないでくださいよ……渡邉さんも結構稼いでるでしょう?」
「私なんて、スポンサードの収入とたまにテレビに出た時の稼ぎぐらいで、とてもとても」
渡邉さんは謙遜しながら胸の前でひらひらと手を振るが、セツナがテレビに出た時にどのぐらい貰っているのかを知っている俺にとって、余りにも信用なら無い言葉だった。
「なになに?もうそんなに皆津奈ちゃんと仲良くなってるの?」
「あ、桜。ご飯の用意はもういいの?」
「うん。もうできたよ?食べる?」
やいのやいの俺達が話しているといつの間にか夕飯の用意が終わったのか、桜がソファーの後ろから顔を覗かせて会話に入ってきた。
桜の言葉に鏡花さんが反応し、桜が俺達を見渡しながら言った言葉に俺達全員頷いた。
――――――――
鏡花さんとセツナの二人が言っていた通り、テーブルにはいつもの品数の倍以上の様々な料理が並んでおり、いつもですら品数の多さに驚いていた俺にとっては何のフルコースだと言いたくなるほどだった。
一応セツナ以外は渡邉さんに軽く自己紹介を済ませ、始まった食事会ではあったが始まって早々に俺達の中でも一番小食のセツナがダウンしてからは、一応体を動かしてきたのもあり、それなりに腹の減っていた俺と、渡邉さんが主戦力となった。
「うっ……ごめんもうお腹一杯」
「……その、私も」
軽く雑談をしながら食べ進めていた俺達だったが、ついに鏡花さんと桜がギブアップした。
「桜、その美味しいから良いんだけど、作りすぎじゃないか?」
「あはは、そうだよね~ほら津奈ちゃんが来るっていうから作りすぎちゃった」
「でも、本当に美味しいです。少しせっちゃんや皆さんが羨ましいです」
二人がギブアップしたことで残された俺と渡邉さんだが、残っている料理からは目を逸らしながら言う。
いや、本当に美味しいのはこれまで桜の作ってくれた料理を食べている俺は勿論、渡邉さんも分かっているはずなのだ。
ただ、とんでもない量というだけで。
「そう?そう言ってもらえると嬉しいね~」
「はい。ただ、その、量は多いですが」
「……すいません」
「まあ、なんだ無理して食べるのもあれだし、残ってるのは明日に食べようか」
「そうだね……」
「ん、それが良い」
「だね~」
俺達は意見を同じくし、後片付けを始める。
「あ、私も手伝います」
「いいよ~津奈ちゃんはまだお客様だし~」
「まだってなんだよ、まだって」
最後まで奮闘した渡邉さんが手を合わせながら言った言葉に桜は返すが、妙に含みのある言い方で気になってしまう。
「いや~ねぇ?ほら空君だし」
「いやいや渡邉さんとはそういう事にならないって。ねえ?渡邉さん?」
何だか桜からの信頼が無い気がするが、まあそれは自業自得なのでしょうがない。
問題はこの話を渡邉さんが聞いているということだ。
「え?……ああはい。そうですね。収入は十分、顔も二枚目ですし、身体機能も健康そのもので、あのせっちゃんが好いているということは性格も申し分ないですよね。候補としてはこれ以上ない男性だとは思いますけど、無いですよ。多分」
「……ねえ、それどっちなんですか!?揶揄ってます?」
「ふふふ。どうでしょう?」
てっきり俺は渡邉さんは即答で無いですねと答えてくれるとばかり思っていたが、渡邉さんは少し考えた後、揶揄っているのか分からない口調で急に俺の事を褒めだしうっすらと笑いながら「無いですよ」と言った。
「私は津奈ちゃんなら歓迎だよ~」
「ん、津奈なら良い」
「まあ空君だしねぇ」
「ちょっと待って!なんで皆勝手に話進めてるわけ!?」
「私は空さんのお眼鏡にはかないませんか?」
「渡邉さんも揶揄わないでくださいよ!」
渡邉さんもふざけているのかシナをつくってこちらを見てくる。
正直渡邉さんほどの美少女にそんな表情で見られると俺も照れるし、これまでの前科からしてこれ以上は余り良くない気がする。
俺の女性に対する理性の弱さは折り紙付きだ。
「ふふふ、まあ揶揄うのはこの辺にしておきましょうか」
「一応私はいつでも津奈ちゃんなら歓迎だからね~」
「私も」
「いいんじゃあない?」
「先輩たちにそう言ってもらえると私も安心できますね」
「俺を置いて勝手に話進めないでよ……」
相変わらず女性陣は勝手に俺を置いて話を進めていて、俺は完全に置いて行かれながら小さな声でそう漏らすも、俺の呟きは誰にも拾われることは無かった。




