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【七十話】貴方……だったんですね……

「空君~なんか女の子が来てる~」


 セツナが津奈ちゃんとやらを呼び出した次の日、俺が自室でインターネットサーフィンをしていると、リビングに居た桜がそう声を掛けてきた。


「ちょっと待って、今行く!」


 恐らく桜の言う女の子とやらは津奈ちゃんに違いない。一旦パソコンの電源を落として、俺はリビングに向かった。


「すいません、お待たせしました!」

「いえ、そんなに待っていないので、お気になさらず。初めまして、渡邉津奈(わたなべつな)です」

「……」

「えっと……、大丈夫ですか?」


 昨日のセツナからの急な呼び出しにも関わらず、渡邉さんはきちんとセツナから聞いていた集合時間に来てくれたようで、桜に呼び出された俺は急いでインターホンのモニターを見るが、俺はモニターに映るぴしりと背筋の伸びた少女の容姿を見て完全に固まってしまった。


 なぜなら、セツナからそこまで詳しく渡邉さんについて聞いていなかった俺も悪いが、モニターに映る少女はそもそも、この世界に来た時にテレビに映っていたイギリスの迷宮を人類で初めて攻略したスーパー女子高生そのままだったのだ。


 確かに考えてみれば、同じくそれなりの頻度でスーパー女子高校生としてテレビに呼ばれているセツナであれば、そこまで歳の変わらない渡邉さんの連絡先を持っていても不思議ではないが……


 なぜもっと早く気が付かなかったんだと、リビングのソファーでぐうたらしているセツナに全く関係ない恨みの籠った目線を送ってしまう。


「あの?聞こえてますか?」

「……は、はい。え、と、どうぞ?」


 俺の恨みの籠った目線に気が付いたのかセツナはこちらを向いてとぼけたように首を傾げていた。

 そんなことをしている間にも、エントランスで待たされている渡邉さんがいよいよ困ったように再度こちらに声を掛けてくるので、未だに混乱したまま、エントランスの扉を開くボタンを押した。


「有難うございます。それじゃあ上まで行きますね」


 モニター越しの渡邉さんは、自動ドアが開いたことに気が付いたのか、ペコりとこちらに向かって会釈を返してから、インターホンのカメラからいなくなった。


「津奈ちゃんきた?」


 セツナは俺の視線を受けて俺のすぐ隣まで来ていて、俺の混乱なんて知らんと言わんばかりにぽけーっとした様子で言う。


「……来たけど、来たけどさぁ!先に言ってくれよ!滅茶苦茶有名人じゃんか」

「聞かれてないし」

「……そうだね、うん。……そりゃセツナが推すわけだ」

「え、何?この女の子そんなに有名な人なんだ?ピコピコの人?」


「いや、ダンジョン関係の人……」

「へぇ~お茶とか出した方が良い?」

「とりあえず庭で色々教えてもらうつもりだから、後で呼ぶかも」

「分かった~」


 桜も流石に俺の混乱具合に来客の事が気になったのか、そう聞いてきたが桜はインターホンに映る少女を見ても有名人だとは分からなかったようだ。


 ――――――――


 コンコンと家の玄関の扉がノックされ、俺は玄関の扉を開くと、モニターに映っていた時よりもはるかに可愛らしい少女が目の前に現れた。


「……あら、せっちゃんから聞いていた以上ですね」


 目の前の渡邉さんは少し驚いたように口を手のひらで覆って言った。


「……因みにどんな風に聞いてるんですか?」

「意外とムキムキ、超イケメン。女顔」

「あ、そう」


 俺が渡邉さんの言うせっちゃん、恐らくセツナの事だろうが、セツナからどんなふうに聞いていたのか気になってしまったのでそう聞き返すと、渡邉さんが答える前に後ろに付いてきていたセツナが答えてくれたが、セツナのあんまりの良いように少し呆れてしまう。


「津奈ちゃん久しぶり」

「せっちゃんも」


 俺を差し置いて、セツナはとことこと渡邉さんの方へ歩いて行き、抱き着いた。

 渡邉さんもセツナに抱き着かれて嬉しそうに抱き着き返してポンポンとセツナの背中を叩いていた。


 俺はというと二人の間で急に始まった百合百合しいコミュニケーションに呆けてしまう。


「にしても、空さん結構やれそうな体ですね……?」


 渡邉さんはセツナの肩に顎を乗せながら、まるで漫画の強敵が言うような言葉を放つが、如何せんセツナの肩に顎を乗せながら言われても締まりが悪かった。


「……分かるものですか?」

「死なないとは言え、それなりに津奈もダンジョンで過ごしていますから」


 調べたところによるとダンジョンで出てくる敵の半分以上は人型のモンスターが多いようなので、そんな奴らとさんざん戦っていれば案外渡邉さんのいう事もあながち間違っていないのかもしれない。


「思っていたより、上玉で少し楽しみです」

「はぁ。取り敢えず、広い庭があるので、そこで色々教えてもらいたいんですが、大丈夫そうですか?」

「はい。構いませんよ?一応得物は持ってきていますしね」


 そう言って渡邉さんは肩にかけている、竹刀袋をこちらにも分かりやすくクイと引っ張る。


「それじゃあ、僕も刀持ってくるので、少し待っていてください。セツナはどうする?」

「ん、一緒に見てるよ」

「了解」


 俺は渡邉さんを待たせるのも悪いし、大急ぎで自分の部屋に置いてある刀を取りに向かった。


「すいませんお待たせしました。案内しますね」


 俺が急いで刀を取って玄関に戻ると、さすがにずっと抱き合っているわけもなく、既に二人は体を離していた。


「まぁ、案内と言われましても直ぐそこですけど」

「みたいですね、凄い良い所に住んでいるみたいで、最初せっちゃんから住所を聞いて下に着いた時には驚きました」

「あはは、ですよね……僕もまだこの家使いきれていないんですよ、庭だって今日初めて使いますからね」


 俺がそう言うと一緒についてきているセツナが口を開いた。


「今度バーベキューしようよ」

「良いかもな」


 確かにセツナの言う通り、皆の知り合いを呼んでバーベキューとかをするのも悪くない。


「ウチはそこまで大きい家ではないので、好きに体を動かせるのは羨ましいです」

「そうですかね?っとつきました」


 三人で話しているうちに、庭の入り口に着いた。

 俺は初めてこのマンションに住んで庭の入り口を開くので、多少緊張したがそんな俺の小さな緊張は二人には分からないだろう。

 庭に入る扉を開いて中に入ると、二人も続いてだだっ広い庭に入った。


 俺はしゃくしゃくと芝生を踏みしめる感触が思ったよりも気持ちがよく、今までこの庭を使っていなかったことを少しだけ後悔していた。

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