【七十一話】確かに言われてみれば同じだ
実際庭に来てみると、意外とただ芝生が敷き詰められているわけではなく、広い公園の様にベンチが置かれていたりと刀の扱いを教えてもらっているうちにも休憩できるような場所もあり、ひとまず俺たちがその休憩できるようなスペースに着くと、渡邉さんが口を開いた。
「かなり良い感じですね、取り敢えずこの辺りに荷物を下ろしても良いですか?」
「あ、はい良いですよ」
渡邉さんは俺の返事を聞いて、公園にあるようなベンチが真四角の机を挟んで四列あるスペースに肩に掛けていた竹刀袋を下ろした。
「ここで座って見てるね」
セツナもこのスペースが観戦するのに丁度いいと思ったのか、ベンチに腰かけて言った。
「おう。セツナも体動かしたらどうだ?」
「……また今度」
セツナは今度今度と言いながらやらない奴として典型的な言葉を言い残してそっぽを向いた。
「まぁ、せっちゃんにはゲームがありますから」
「でも、セツナ世界大会が終わったらダンジョン入りたいみたいですよ」
「あら、それなら今のうちに体を動かしておいた方が良いですね」
「また今度、また今度」
渡邉さんは最初こそ擁護するつもりだったが、セツナの二度目のまた今度を聞いて俺の方へ体を向けて肩を竦めて見せた。
「それじゃあ、取り敢えず今日は空さんに教えますね」
「はい。お願いします」
「因みに、空さんの武器は刀で良いんですよね?」
「そうです、これなんですけど……」
俺は刀を入れていた店で買った箱のロックを外して渡邉さんに見せる。
「へぇ、YATUKAを選んだんですね、YATUKAの製品は結構ダイバーの評判良いですよ」
「ダイバー?」
流石に、日本一ダンジョンに詳しいともいえる渡邉さんは直ぐに俺の刀のブランドを言い当てた。
だが、渡邉さんの言葉の中に聞き覚えの無い単語があったのでついオウム返しの様に聞いてしまう。
「あ、ダイバーは、ダンジョンに潜る人達が自分たちをそうまとめて呼ぶんですよ」
「なるほど」
どうも、ダイバーとやらは特有の呼び名らしい。
「渡邉さんはどんなのを使ってるんですか?」
「津奈のは、量産品ではないので、少し空さんとは勝手が違うんですよね……職人さんにオーダーメイドで作っていただいてるので、メーカーとかは無いんですよ」
「職人さんってことはもしかして……」
「はい。鋳造ではなく鍛造で作って貰ってます。刃引きはされてますが、本物の日本刀です」
本物の日本刀。この言葉はとんでもなくロマンを刺激してくる。俺の買ったYATUKAの刀はそれっぽく作られてはいるものの、大量生産品なので鋳造である。
切れ味とかは謎技術で統一されていると店員さんは言うが、それでも職人さんが作った本物の刀の持つロマンは計り知れない。
「因みに、見せてもらえたりって」
「はい、良いですよ?」
軽い調子で、渡邉さんは竹刀袋に入った刀を取りだして俺に手渡す。
「ちょ、ちょっと軽すぎません?」
「まぁ、家に予備の刀は何本かありますので」
「にしても……」
「まぁまぁいいじゃないですか、刀にロマンを感じる人は仲間ですから」
「おい、セツナも見せて貰わなくていいのか?」
「私は何回も見せてもらってるからいい」
「せっちゃんもこういう大好きだもんね」
セツナも俺の刀が届いた時は大興奮していたので、一緒に渡邉さんの刀を見ようと誘ってみたがセツナは既に何回も見ているようでそこまで興味はなさそうだった。
俺は腕に確かな重みを伝えてくる渡邉さんの刀を鞘から抜く前にその拵えの美麗さに驚愕してしまった。
下げ緒の辺りと鐺の付近に控え目に桜の螺鈿細工がされており、漆で黒く染められた鞘を華やかに彩っていた。
「抜いても?」
「勿論」
自分の得物を他人に自慢するのが楽しいのか俺の問いに渡邉さんはとても嬉しそうに満面の笑みで返した。
「……すご」
「綺麗でしょ?」
「はい」
鞘から刀身を抜いて改めて全体を眺めると、女性が持つためか全長は控え目で二尺三寸ほどで身幅は少し狭く、何より目を引くのが刃が付いていない事を忘れてしまいそうなほど恐ろしさを感じる刀身である。
刃が付いていないのにも関わらず、このままだと何かの拍子に指でも落としてしまいそうで俺は恐る恐る刀を鞘に納め渡邉さんに返す。
「有難うございました、良いものが見れました」
「はい。髭切は私の一番の宝物ですから」
一番の宝物を簡単に軽い調子で人に渡すなと言いたいところだが、見せてもらった手前そんなことは言えるはずも無かった。
「って、髭切?」
「そうなんです、職人さんがお茶目な人で」
妙に聞き覚えのある銘だったので、渡邉さんに聞き返すとやはり、あの髭切にあやかって名付けられた刀だったようだ。
確かに言われてみれば渡邉津奈である。
日本で最強の武士を挙げてくれと言われれば必ず名前の挙がる渡辺綱と漢字こそ違うが実質同姓同名である。
前の世界と同じように渡辺綱がいることに少し違和感を感じなくもないが、鬼殺しと実質鬼と言えなくもないモンスターを切っている渡邉さんとの奇妙な一致だった。
「かの渡辺綱にはまだまだ及ばないから少し恥ずかしいんですが」
「いやいや、どっこいどっこいでしょうに」
「そうですかね?」
「えぇ十分に」
実際渡辺綱と比べても世界初でイギリスの迷宮を26階層まで踏破している渡邉さんはそこまで目劣りするものではないだろう。
それこそダンジョンの中では酒吞童子もかくやと言えるモンスターと戦ったこともあるに違いない。
「やらないの?」
俺と渡邉さんが二人で刀談義で通じ合っているといい加減待つのに疲れたのかセツナが少し呆れたように聞いてきたので、本来の目的を思い出して渡邉さんに刀の扱いを教えてもらうことにした。
ついつい前の世界で発症していた中二病のせいで変に詳しくなってしまった知識のせいで、そもそもの目的を後回しにして熱くなっていたことに少し自分の顔が赤らむのが分かった。




