【六十九話】サイバーパンク+刀は良いぞ
先日、初めてダンジョン用品店でダンジョンに挑むための装備や各種備品を購入してから、市役所に行って届け出を出したり、と様々なダンジョンに入るために必要な届け出を出し終わってから、初めての休日の真昼間。
今日は、鏡花さんと桜が二人で出かけているので、リビングでだらだらと何かするわけでもなく、暇をつぶしているとVPEXの世界大会に向けての練習がひと段落着いたのか、のそのそと少し疲れたような表情のセツナが自分の部屋から出てきた。
「何してるの?」
「何もしてない」
「そ」
刹那は俺の返事を聞いて表情を変えずに、そのまま俺が寝転がっているソファーの隙間に体を無理やりねじ込んで狭い所に入りたがる猫の様にすっぽりと収まった。
「練習は良いのか?」
「今日はもう終わり、スクリムもないし」
「ほえ~」
足の裏からセツナの体温を感じながら、俺は何となく練習について聞いてみたが、どうやら今日は一旦練習は終了らしい。
――ピーンポーン
二人でぼーっとしていると不意にインターホンのベルが鳴った。
「……セツナ、マウスパッドとか買った?」
「買ってない」
「お、じゃあ俺のだ」
体を起こして俺がインターホンのモニターに映る宅配業者を見ながらリビングで未だにだらけているセツナに一応の確認をしてみるが、セツナは特にネットで買い物等はしていない様だ。
基本的に今この家に住んでいる人の中で、頻繁にインターネットで買い物をするのは、俺かセツナだけなので消去法でこの荷物は俺充てということになる。
そして、最近俺がインターネットで買ったものは特にないので、恐らくダンジョン関係の物が届いたに違いない。
「いまでまーす」
俺は少々心を浮つかせながら、インターホンの向こう側に映るそれなりに大きな段ボールを二つほど抱えているお兄さんにそう声を掛けて荷物を受け取るために玄関に向かった。
――――――――
「セツナ、ついに来たぞ!」
「なにがー」
「ダンジョンの奴!」
「……!」
俺はお兄さんから受け取った荷物の発送元の住所がダンジョン用品店であることを確認して、この喜びをリビングにいるセツナにも共有するために、それなりに重い段ボール箱を落とさないように気を付けて抱えながらセツナに声を掛けると、三人の中でも唯一ダンジョンに興味を示してくれたセツナは、俺の言葉を聞いて興味津々の様子で俺の方へテトテトと歩いてきた。
「何が届いたの」
「多分店で買った奴全部、刀と防具とか」
「早く開けよ」
「おいおい、そんな急かすなって」
セツナは下手したら俺以上にダンジョン用品に興味があるのか、ぐいぐいと俺のきているTシャツを引っ張って早く段ボール箱を開けるように急かしてくる。
「……よし、開けるぞ」
「……うん」
俺はカッターを取りに行くのも忘れて素手でガムテープを剥がして、そう俺の肩越しに段ボール箱を覗き込んでいるセツナにそう言うとセツナが固唾を飲みこむ音が聞こえてきた。
「「おーー」」
意を決して一つ目の段ボール箱を開くとその中には木箱に入った恐らく刀が収まっていた。
俺達二人は直ぐにその木箱の中には刀があるだろうと当たりを付けて、間抜けな歓声を上げてしまった。
「開けよ」
「おう」
俺とセツナは段ボール箱から取り出した木箱を前にして堪える事なんて出来るわけもなく、直ぐに木箱を止めている太目の紐をほどいて蓋を開いた。
「……かっけぇ」
「やばい」
蓋を開くと木箱の中には予想通り真っ白な拵えの刀が収まっており、ソレは店で見た時よりもなぜか格好良く見えた。
「じゃあこっちは防具?」
「ん、多分な」
俺が恐る恐る刀を木箱から手に取って感動を噛み締めていると、セツナは直ぐにもう一つの方の段ボール箱が気になるのかガムテープを取り払って箱の中から薄手の上着とインナープロテクターを取り出した。
「サイバーパンク?」
「確かに、そんな感じだよな」
「悪くない」
「かっこいいよな」
セツナは箱から取り出した、防具を広げて分かりやすい感想を漏らしていた。
確かに言われてみれば、インナープロテクターや上着は何となくサイバーパンク調でこの装備を纏って刀を腰に佩くことをイメージすると男の子としてロマンが疼きだして仕方がなかった。
「刀見せて」
「結構重いから気を付けろよ?」
「うん」
俺はセツナが子供がお菓子を欲しがるように広げる両手にそっと手に持っていた刀を手渡すと、さすがに少し重かったのかセツナは少し苦しそうに顔を歪めたものの、直ぐに自分の手の中にある刀を舐め回すように見つめて目をキラキラと輝かせていた。
「……良いね」
「うん、良いな」
「私も行きたい」
「世界大会の練習忙しいって言ってなかったか?」
「……そうだけど」
完全に武器や防具といった普通に生きていれば、まぁお目に掛かれない品を前にして語彙力の喪失した俺とセツナだが、セツナは実際こうして武器や防具を目の前にしてダンジョンが心惜しくなったのか、俺にはどうしようもないがとても悲しそうに眼を伏せた。
「そんな顔すんなって、ダンジョンの中の写真とか撮って送ってやるからさ」
「それじゃあ生殺し」
「……どうすりゃいいんだよ」
「世界大会終わったら、一緒に連れてって」
「そりゃ勿論。てか、大会が終わって暇なら誘うつもりだったし」
「ならいい」
セツナは俺の言葉を聞いて満足そうに頷いた。
「というか、ダンジョンでダメージ受けるとめっちゃ痛いらしいけど大丈夫か?」
「……当たらなければどうということは無い」
妙にキリっとした決め顔でセツナはそう言い放った。
この世界にもその言葉あるんだ……
「それに、遊びは大得意。ゲームならもっと」
「そりゃそうだ」
やけに自信満々だと思っていたが、実際この世界ではダンジョン攻略は体を動かすゲームと呼ばれることもあるらしいし、ゲームと言ったらセツナ。セツナと言ったらゲームと言えるほど世界で活躍するプロゲーマーの雪原セツナは伊達ではない、はずだ。
「でも、セツナそんなに体動かすの得意じゃないよな?」
「……」
「不安だなぁ」
「問題ない、はず」
黙りこくってしまったセツナを見て、不安になってしまう。
実際セツナ自身、余り体を動かすのは得意ではない自覚があるのか、珍しく言葉が尻すぼみになっていた。
「何なら、今度ダンジョン用品店で貰ったチラシの道場行くけど、一緒に体動かしに行くか?」
「……あ。それ、ちょっと待って」
俺がそう聞くとセツナは何か思い出したのか、ポケットから携帯を取り出して、何やら素早い手つきで画面をタップしていた。
「どうしたんだよ、道場みたいなのは行ったほうが良いだろ?」
「それはそうだけど、もっといい先生がいる」
「え、何、なんか知り合いいるの?」
「うん。……あ、帰ってきた」
俺がセツナに聞き返しているうちにセツナの持つ携帯から通知音が鳴った。
「空、明日暇?」
「まぁ、特に予定はないけど」
俺がセツナにそう返すと、セツナは無言で携帯の画面を俺に見せつける。
その画面にはセツナの知り合いの子との会話が映し出されていた。会話の言葉尻からして女の子らしいという事と、画面の上部に移された名前が津奈という事と、余りに急なセツナの呼び出しに対しても物腰は柔らかく返信していることが分かった。
「……この子が、適任?」
「むしろ津奈ちゃんしかいない」
「てか、この子女の子だろ?ダンジョンとか詳しいのか?」
「当たり前。明日津奈ちゃん家に呼んでも良い?」
「……俺は別にいいけどさ」
「りょうかい」
妙に自信満々に津奈ちゃんとやらを推すセツナに少し不安になりながらも、セツナが言うからにはそれなりにちゃんと教えてくれる人だと思いたい。
それに体を動かすのにも、家と同じ階層には体を動かすのにはうってつけの芝生の敷き詰められた庭もある事だし丁度いいと言えば丁度いいのだが……
「津奈ちゃん、来れるって」
「おう……」
セツナと津奈ちゃんの間でトントン拍子に話が進んでいて、少し取り残されたような気がしてならないが、わざわざ道場に通わなくても先生が家まで来てくれるというのであればむしろ有難いと思うことにした。
「津奈ちゃんと会うの久々」
セツナはそう言って楽しそうに、携帯の画面をのぞき込んでいた。
俺はセツナのそんな様子を眺めながら、逆にここまでセツナが推してくる津奈ちゃんがどんな人か気になり始めてきてしまった。
一体津奈ちゃんは何者なんだ……(棒)




