【六十一話】そりゃあ大変だ
お久しぶりです。
「とりあえず、関係者に連絡をしましたので一度セツナを連れてきていただいても宜しいですか?」
斎藤さんに一度セツナとの話し合いの場を作りたいと言われてからの斎藤さんの行動は早く、セツナは勿論何やらアサルトラビットの関係者のお偉いさん等に連絡をしていくのを俺は飲み終わったコーヒーの紙コップを手の中で弄って待っていると連絡を終えた斎藤さんが携帯の電源を落としてそう言った。
「分かりました。多分セツナは僕たちの部屋でくつろいでいると思うので」
「よろしくお願いします。ちょっとこの件はウチにとっても大事な話なので……」
確かにアサルトラビットの皆さんにとってセツナという女の子がただの可愛らしいだけの女の子ではなくて、非常に大きい商業的な存在であると言うのは一高校生の俺にも分かる話だ。
俺はいくらか呆れた様子の斎藤さんに頷いて一度部屋に戻った。
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「セツナー早くいくぞ」
「げ。」
俺が部屋の襖を開けて先ほどの斎藤さんの電話で何となく今の状況を理解しているはずのセツナを呼ぶと部屋の中のセツナは何処の殿様だ、と言いたくなってしまうほど横になってくつろいでいた。
「……おい。セツナ今の状況が案外やばいっての分かるよな?」
「分かってる。」
「ならいいけど……」
余りのセツナのくつろぎっぷりに少しばかり頭痛を覚えながら俺がそう言うとセツナも流石にこれ以上粘るつもりもないのかそそくさと横になることで乱れていた浴衣をしっかりと整えながら立ち上がってくれた。
何やらただならぬ様子の俺とセツナを見て同じようにくつろいでいた三人も不思議そうに首を傾げていた。
「何か、あったんですか?セツナちゃんさっき電話あってから青い顔してましたけど……」
流石に俺とセツナの様子を見て何か思うところがあったのか、一葉さんがおそるおそる声を掛けてきた。
「うん。どうもセツナがチームのマネージャーさんに秘密で俺との関係を進めてたみたいで、マネージャーさんが予想してるよりも早く関係が進んじゃったから、お偉いさんに呼び出されちゃったんだよ」
「えぇ!?一大事じゃないですか……」
「そうなんだよ。一大事なんだよ……」
「空くんそれは私たちはいかなくて大丈夫なの?」
「確かにそうだよね、僕たちも居たほうがよさそうな気がするけど?」
一葉さんと俺が話す様子を静かに見守っていた桜も何となく今の状況が分かってきたのかそう言って、それに続くように鏡花さんも心配そうに顔を曇らせていた。
「それは大丈夫だと思う……多分だけど、俺たちの関係を辞めさせたいってよりかは、進行具合を一度確認して下手に公にならないようにチームのお偉いさんの方で整理したいだけっぽいから」
俺は心配そうにしている二人に先ほどの斎藤さんの上司に連絡している時の様子を思い出しながら自分の予想を伝えると二人は少し安心したように息をついていた。
「早く行こ。準備できたし」
そう言いながら起き上がったセツナに浴衣の裾を引かれ誰のせいでこうなっとるんだ……と恨み言を言いそうになってしまった。
「……まぁいいや。それじゃあ行くか」
俺のそんな内心も知らずに首を傾げているセツナを見てはそんな気も失せてしまったので大人しくセツナの手を引いて部屋を出た
――――――――
「ここか」
俺はセツナの手を引きながら先ほど斎藤さんに伝えられた部屋の前に着き、そう呟いた。
この部屋の中にe-スポーツ業界で目覚ましい活躍を遂げているアサルトラビットのお偉いさんが居ると思うと何となく気が重くなってしまうが、相変わらず俺と手を繋いでいるセツナのぽけーっとした顔を見てしまうとそう言った緊張感も無くなってしまった。
「?」
セツナは俺に見られていることに気が付いたのか、首を傾げながらこちらを見つめ返してきていた。
こんな状況でも自然体でいられるセツナはやっぱり世界で活躍しているプロなだけあるのかもしれない。なんて思ってしまった。
「失礼します。硯 空です」
「雪原 セツナです」
「入っていいぞ」
俺がある意味セツナのおかげで幾らか落ち着きを取り戻してセツナにも首で俺の後に続くように伝えると部屋の中から想像していたよりは若い男性の返事が返ってきた。
俺が静かに襖を開けて部屋の中には入ると斎藤さんの他にも男性が二人俺達と同じように浴衣姿で座っていた。その男性二人は俺の顔を見て少し驚いたように目を見開いていたが直ぐに元の表情に戻っていた。最近は自宅周辺の人も俺の容姿に慣れてきたのかこう言った反応は久々だったので何とも言えない気持ちになってしまった。
「君が噂のsky君か」
俺と雪原が部屋の中に入って机の二三歩ほど後ろで止まると最初に俺に話しかけてきたのは先ほど襖の前で聞いた声の主であり机の真ん中に座っていた男性だった。
「はい。インターネット上の名義はskyとしてますが、本名は硯空と申します。」
「まぁそんなに固くならなくてもいいよ。今日は僕たち皆が休暇でもあるしね」
その男性は思っていたよりは柔らかい笑みを浮かべており、いくらか不安もやわらいだ。俺の表情が和らいだのが相手にも伝わったのかその男性は満足そうに頷いて再度口を開いた。
「そういえば自己紹介をしないとね。アサルトラビットの社長をしてる瀧本 進一郎です。これから何かと関係を持つことになるだろうから気軽に接してくれると嬉しいな」
そう言って瀧本さんは俺に向かって手を差し伸べてくれたので俺はその手を取り軽く握手を済ませた。
「それでは私も社長に続いて挨拶をさせて頂きます。アサルトラビット広報担当の皆元 太一と申します。」
皆元さんはそう言って瀧本さんの様に俺と握手することは無くお辞儀で自己紹介を〆ていたので俺もそれに倣って軽くお辞儀を返すだけにしておいた。
「それじゃあ、自己紹介も済んだことだし軽く今の状況を整理しようか」
俺が皆元さんにお辞儀を返すと瀧本さんは「パン」と両手を合わせて本題を切り出した。
そこから先はセツナへの事情聴取と言っても過言ではなく、まず俺とどうやって知り合ったのか、これからどういった関係で俺と関わっていくのか等々をかなり細かく問い詰められていた。
「なるほど……雪原君としては空君と婚姻関係を結んでそのままプロ活動も続けていきたい。と」
「うん。」
うんって社長にそんなに気軽でいいのか?と思ってしまうが瀧本さんも斎藤さんも何も言わないことからこれがセツナの普通なのだろう。
「……まぁ僕としてもプロゲーマーに恋愛禁止なんて言っても意味が分からないし特に制限はしてなかったけど、如何せん雪原君はアイドル的な商法が出来てしまう程度には容姿が整っているからね、君に対してアイドルの様に恋愛禁止を求める層が居てもおかしくないのが今回の問題点だよね」
瀧本さんがセツナの返事を聞いて少しばかり困ったように眉根を寄せながら言った言葉は皆元さんも同意見のようで頷いていた。
「そこは何とかして。そもそも私アイドルじゃない」
「まぁ、僕としては雪原君は元々ゲームのプロとして契約していてアイドルとして契約しているわけではないから反論も出来ないんだけど……どうしようかな」
「社長、いっそのこと硯君をアサルトラビットに所属させては?クリエイター部門等で所属させ、硯君が許すのであればメディア等に少しずつ露出させていき、さりげなく雪原君との婚姻を発表すると言うのはどうでしょう」
「……ふむ。硯君はメディアへの露出は嫌かい?」
「え、いや、別に学校生活に支障をきたさない程度であれば特に問題はありません」
「そうか。」
三十分ほどは瀧本さんと皆元さんはセツナと会話していたのでまさか急に俺に話が振られるとは思っていなかったが別にメディアに露出することに関しては何も思わないのでその旨を瀧本さんに伝えると、瀧本さんは少しの間考え込んでしまった。
「よし、その線で行こうか。まだ少し煮詰めるべきところはあるだろうけど、その辺は僕と皆元さんに任せてくれ」
何やら瀧本さんの中で構想が固まったのか瀧本さんは口元を緩めながらそう言った。
「あ、あと硯君の連絡先を教えてもらっても良いかな?また細かいことが決まったら連絡するから」
俺としても何か今から言うこともなかったので携帯電話の番号を書き記したメモを瀧本さんに渡した。
「あぁ、それと雪原君はSNS等で硯君との関係を漏らさないように、しかるべき時にアサルトラビットの公式の方から発表するから」
「分かった。婚姻は?」
「それは問題ないよ。硯君とご両親とよく話し合って好きなタイミングで結んでくれて構わない」
「ん」
「よし。じゃあ硯君も今日は急に呼び出してしまって済まなかったね、また細かいことが決まり次第連絡するよ」
「分かりました。僕もご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありませんでした」
「気にしなくていいよ。……それに連絡を怠っていたのはウチの雪原君だしね」
俺がそう謝罪すると瀧本さんはセツナに釘をさすように視線をよこしながら言った。
セツナは瀧本さんから寄せられた視線の意味を正しく受け取ったのかすっかり縮こまっていた。
「それじゃあ今日は一旦お開きで」
セツナが反省しているのが瀧本さんにも伝わったのか瀧本さんは満足したように笑っていた。
「失礼します」
「します」
何というか少し気の抜けるような最後ではあったが何とか話が付いたので俺とセツナは部屋から出ることに成功した。
「はぁ~」
「緊張した」
俺が襖を閉じて桜たちが待つ部屋に帰る途中にため息をつくとセツナが思っても居ないようなことを言った。
「緊張?何処が」
「社長苦手」
「それにしては普通に話してたけどな?」
セツナと瀧本さんとの会話を思い出してもセツナが瀧本さんに対して緊張しているような様子は見受けられなかった
「今は休暇中だから。普段はめっちゃ怖い」
「へぇ。それまた……ってかその普段の瀧本さんに細かいことが決まったら呼び出されるんだけど!?」
「ん。がんば」
何処か他人事の様にセツナは俺の手を行きと同じようにぎゅっと繋いできたのでこれ以上何か言う気も起きず、誰にも聞こえないように小さくため息をつくことしかできなかった。




