【六十話】畳にマットレスってどうよ
相も変わらず投稿が遅れて申し訳ありません。
未だにひんひんと泣いている一葉さんに元に行き慰めている鏡花さんを横目に見ながら何か話が付いた様子の桜とセツナに話しかけてみる。
「何が決まったのよ?」
俺が二人に話しかけると二人は初めて俺の存在に気が付いたように小首をかしげて口を開いた。
「ん?決め事の事だよ~」
俺の質問にセツナは桜に目をちらりと向けるだけで今回の返答は桜に譲ると言わんばかりにジッとしていた。
なんと言うか、そんなセツナの様子を見るだけでセツナ自身のわがままさ、というか傍若無人さが和らいでいる気がして感動してしまった。
「決め事って、俺たちの夫婦生活の?」
「そうそう。細かいところは今は良いとして、基本的には私が順番的にも優先になりました!」
「私は、桜の補助?二番?幻の二人目?そんな感じ」
桜は心なしか胸を張りながら俺の方を見つめてきていた。
セツナは未だにぼーっとしてどこを見ているのかよく分からない目線を送ってきている。
俺は桜の言った言葉ではいまいち意味を掴みかねていたが、セツナの言った言葉で何となく分かったような気がした。
ようは桜が正妻的な立場で、セツナが第二夫人的な立場に納まると言うことだろう。
まぁ勿論本当に第一、第二と決まっているわけではないだろうが、形として第一、第二と決まったということだろう。
「そういえば、鏡花さんはどんな立場になるんだ?」
先ほどの二人の相談に参加せず俺と話し込んでいた鏡花さんがもし本当に俺と結婚すると言うことになるのであればどのような立場になるのか気になってしまった俺は一葉さんを慰めている鏡花さんの方を向く。
「いや~僕は二人に合わせるよ~」
「え、それでいいの?」
俺は先ほど鏡花さん自身が言っていたことと、今鏡花さんが言ったことに少しの違和感を感じて同じことを聞き直してしまった。
「いいも何も、二人が第一、第二って感じで決まったなら順番的に僕は第三になるだろうしね~、勿論その立場に批判的な意見もないし」
「鏡花さんはそれでもいいんだ?」
余りにも鏡花さんがあっけらかんとした様子で言うモノだからつい聞いてしまった。
「いや~じゃなきゃ、さっきあんなに上から目線で講釈垂れた僕がバカみたいじゃないか。少なくとも僕はそこで自信満々に胸を張ってる二人よりは一般的な重婚に対して理解があると思ってるしね」
鏡花さんに軽く揶揄された二人は少しムッとして鏡花さんに何かを言おうとしていたようだが、その言葉に対して自分でも図星のところが有ったのか噛み付くことも出来ずに悔しそうに歯噛みしていた。
「まぁそんな感じかな」
話はこれで終わりだと言わんばかりに鏡花さんはパンと手を叩いて話を締めくくった。
「あ、そういえば今度家の親に挨拶しに来てね」
話を締めくくったと思ったら鏡花さんがそう付け足した。
「あ、私も」
鏡花さんが言った言葉に続いてセツナも思い出したように続いた。
何となく親御さんに挨拶というのは桜との結婚の時にはしていなかったので緊張してしまうが桜との結婚が例外だったというだけでこの世界でも親御さんに挨拶をするのは変わらないのだろう。
その両親への挨拶という二人の言葉で不意に桜の事が気になってしまって視線を向けると桜はなんだか申し訳なさそうと言うべきか、気まずそうと言うか、何とも言えない様な表情をしていた。
桜自身親御さんに相談もせずに俺と結婚したことに何か思うことが有るのだろうか、いざ結婚という時に気を使って桜の親の事を話題に出すことは出来ず、ずるずるとそのまま来てしまったが、そのことを桜はどう思っているのだろうか……
そう思った俺はそっと桜の傍に寄り、こっそりと話しかける。
「……そう言えば桜の親御さんは大丈夫なの?」
俺の質問に桜は少しその表情を硬くして答えづらそうにしていたがギリギリ聞き取れるか聞き取れないかのレベルで返してくれた。
「挨拶……行きたい?」
「いや、絶対行きたいというか、行った方が良いのかなってさ」
何となく言葉を選びながら俺がそう返す
「いいよ。行かないほうが良いと思う。嫌な思いさせちゃうと思うし……」
桜は口調こそ弱々しいものだったが、はっきりとした拒絶のようなものを感じた。
「まあ、桜が良いなら俺はもう何も言わないけどさ、別に親御さんに挨拶しないとちゃんとした夫婦になれないって訳でもないと思うし」
「うん。そうしてくれると嬉しい」
桜はこれ以上この話を続けることはしたくないようで畳にのの字を書いて黄昏ている一葉さんの方へ行ってしまった。
俺は桜が一葉さんの方に行ってしまったせいでまたもや一人取り残されてしまい、一葉さんの周りに寄り添って励まし始めた、三人を横目に特に意味はないが部屋から出て旅館の中を探検することにした。
◇
俺が一人四人が居る部屋を抜け出して旅館を探検していると中庭だろうか、ソファーに腰かけてガラス張りの日本庭園のような庭を眺めることの出来る場所にたどり着いた。
俺は近くにある自動販売機で紙コップにコーヒーが注がれていく様子を眺めて居ると、不意に後ろから誰かに話かけられた。
「こんばんは、休憩ですか?」
俺が後ろを振り向いて話しかけてきた人物を確認すると、セツナと混浴をする羽目になった少し前に俺に話しかけてきた女性その人だった。
「……さっきの」
「はい。また会いましたね?skyさん?」
その女性はまたも俺の事をskyとVPEXでの名前で呼んだ。
俺の事をそのニックネームで呼ぶということは恐らくARの関係者だとは思うが俺はなぜ二度もその女性に話しかけられるのか不思議に思ってしまう。
「あ、そういえばまだ自己紹介をしてませんでしたね」
俺が不思議そうにその女性を見ているのが分かったのかその女性は自己紹介を始めた。
「雪原セツナのマネージャーをしてます。斎藤 芽衣です。よろしくお願いします」
女性が胸元から名刺を取り出して俺の方に渡してくれるが、今になってなぜこの女性があの時に俺に話しかけてきたのかが腑に落ちた。
「……あぁ、ご丁寧にどうも」
前世の癖でつい低姿勢で斎藤さんから名刺を受け取って俺も胸元をまさぐってしまったが、この世界では俺は名刺を持っていないことを思い出し、行き場の無くなった手を隠すようにして下げる。
俺のその様子が可笑しかったのか、斎藤さんは笑いながら顔の前で手を振って口を開いた。
「ふふ、良いですよ。その恰好で名刺を持っているとは私も思っていませんし。……それにしても妙になれた様子ですけど、確か15歳でしたよね?」
斎藤さんが言うように今俺は浴衣しか着ていないので、世界とか前世とか関係なしに名刺を持っているはずがなかった。
「あぁ、いや。あはは」
俺のその名刺を取り出そうとする仕草を指摘され、俺は返答に困ってしまってただ曖昧に笑ってごまかすことしかできなかった。
勿論そんな風に笑ってごまかす俺の事を見て斎藤さんは不思議そうに首をかしげていたが、これ以上はぼろが出てしまいそうなので何か言いたそうな斎藤さんの視線を無視して話をすり替える。
「そういえばセツナのマネージャーさんがどうして俺に?」
「セツナ……?いつの間に呼び捨てに?」
「あ、いや。まぁ気にしないでください……」
俺は斎藤さんに言われてつい自然と雪原の事を呼び捨てにしていることを気付かされ気恥ずかしさから顔を伏せて呟くようにそう言うことしかできなかった。
「まぁ今は良いですか……本題に入らさせていただきます。私たちとしても雪原があなたと関わることを好ましく思っているのですが、雪原はプロゲーマーとは言え、容姿が整っていることもあり、アイドルの様にみられている側面がありますので、そのあたりを気にしていただけると有難いと思い話しかけました。」
そうして斎藤さんが本題と言って話し始めたことは改めて考えれば確かに、と思える事だった。
ただ、もうすでにその忠告は手遅れな気がするが……
「因みに……気にすると言うと……?」
俺は恐る恐る斎藤さんに質問をする。俺の質問を聞いて斎藤さんは一つ頷いてから口を開いた。
「男女の関係や、それと思しき関係に発展する、した、場合は一度ARを通していただけると有難いです」
ヤバイ……
完全に手遅れだ
「……」
「まさか、もう既に?」
斎藤さんの返答を聞いて沈黙してしまった俺を見て斎藤さんは目を見開いてそう聞いてきた。
「……雪原は俺と結婚するみたいです」
「見たいですって!なんで他人事何ですか!……ちょ、ちょっと待ってくださいね、確認します」
俺が観念して正直に答えると斎藤さんは非常に慌てた様子で携帯をポケットから取り出して、どこかに電話を掛け初めた。
「……やだって……んなこと言っても……でも……」
俺は電話をしている斎藤さんを眺めながら、話している間に出来上がっていたコーヒーを取り出してちみちみとすすっていると斎藤さんの電話から漏れる声や、斎藤さんの返答からして恐らくセツナと電話をしているのだろうなとおぼろげながら思った。
既にぬるくなっていたコーヒーから冷たさを感じ始めた頃、斎藤さんがセツナとの通話を終えたようで額に汗を滲ませながら俺に話かけてきた。
「と、とにかく一度雪原と一緒に話す場を設けても良いですか?」
「あぁはい。大丈夫です」
斎藤さんの放った言葉で俺はまだ今日は眠れそうにないことをもうすでに日が落ちて中庭が電球でライトアップされている光景を遠い目で眺めながら察した。




