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【五十六話】なんのとは言わないがヤクザですね?あなた

毎度の事更新が遅れて申し訳ないです。

雪原は俺に最大級の困惑を置き土産とばかりに残して去っていったが。なんだかんだと長い事温泉に入っていたこともありそろそろ俺も温泉から上がることにした。


「それにしたって、なんで……」


俺は体をタオルで拭きながらそんな雰囲気になったわけでもなく急に訪れた口付けを思い出しながら悶々としていた。


何度考えたところで、あの状況で口付けをされるとは思っていなかったし、途中まではどちらかと言えば俺に対する愚痴というか八つ当たりが主な会話の内容だった気がしたのだが。


「あぁ~もうっ!分からん!」


ブンブンと頭を振り、あの湿った唇の感触を振り払おうとするがどうしたって簡単に振り払えるものではなかった。


俺がそうやって悩んでいる間にも体は拭き終わり、髪の毛も乾いていく。


「部屋もどるか……」


考えたって明確な答えが返ってくるわけでもなく、思いついたのはそんなことだった。


服や濡れたタオルを袋に詰め、俺は更衣室を後にした。




相変わらず人気のない廊下を歩いて部屋の前に着くと、襖の向こうから未だに話し込んでいるのだろうか、三人の少し控え目な笑い声や話し声が聞こえてくる。


俺は出来るだけ三人の談笑の邪魔にならないように静かに襖を開く。


「あ、空君帰ってきたんだ~長かったね~」


俺が部屋の中に入ると、直ぐに鏡花さんが俺に気が付いて話しかけてきた。

鏡花さんの言葉で桜や一葉さんも戻ってきた俺に気が付いたのか、こちらに視線を向けてきた。


「まぁ、いろいろありまして……それより三人は温泉行かないんですか?気持ちよかったですよ?」

「ん~確かにそろそろ温泉行く?」


俺の言葉を聞いて鏡花さんは桜と一葉さんに視線を向けてそう聞いた。


「そうだねぇ、結構話し込んじゃったし……」

「ですね……八百万温泉まで来て温泉に入らないのも勿体ない気がしますし」


「じゃあ、温泉いこっか!」


三人は鏡花さんの決定に賛成のようで、各々でお風呂セットを準備し始めたので、俺はまだ温泉の熱を持っている体を冷やすために窓際に置かれている椅子の方へと歩いて行き、少し窓を開けてから椅子に座りこんだ。


「じゃあ、俺はゆっくりしてるから楽しんできて」


「ここ混浴もあるらしいよ~どうする?」


俺が準備を終えた三人に向かってそう言うと、鏡花さんがにやにやとしながら爆弾を落としてきた。


「……いいよ。さっき入ったばっかだし、桜とならまだしも二人は困るだろ」


混浴と聞いて先ほどの雪原との入浴をまた思い出してしまいこれ以上考え事を増やされたくはないと少し辟易としてしまう。


「空君。私となら良いんだ?」


「桜とは何度か家で入ってるしね」


「えぇ!?一緒に入ってるんですか!?」


桜の軽口に俺がそう返すと、一葉さんがなぜか一人でびっくりしていた。


「……今の15歳はこんなに進んでるんですね」

「ほら、一葉ちゃん温泉に入りに行きましょうね~」


鏡花さんは壊れたロボットの様にぶつぶつと呟く一葉さんの手を引いて部屋から出て行った。それに続いて桜も笑いながら部屋を出て温泉に向かったので、俺は一人部屋に取り残される。


窓の隙間から入ってくる風呂上りには少し寒いぐらいの風を感じながら、ぼーっとさっきの雪原との事を思いだす。


途中までは俺は雪原のゲームに対する熱意を改めて感じ、雪原の鬱憤晴らしに付き合わされて、なぜかキスされた。


「だから、なんでそうなるんだろうな……」


「何が?」


俺が一人で黄昏ながらつぶやいた言葉に返してきたのは、いつの間に部屋に入ってきたのか分からないが俺の悩みの種の雪原本人だった。


――もう驚くまい


「はぁ……いつの間にって聞きたいところだけど、何となく返ってくる言葉が分かるからいいよ……」

「……つまらない」


どうせまた権力を使って俺の部屋まで来たに違いない。雪原はなんだか拗ねたように少し頬を膨らまして不満げに呟く。


「良いよ、そういうのは……で?なんでまた俺の部屋に来たんだよ」

「そろそろskyが私に会いたくなってるかと思って」


雪原はそれが当然だと言いたいかのように毅然とした態度でそう言った。その自信がどこから出てきているのか気になるところだが、一旦置いておこう。


「なわけないだろうが。お前のおかげで、どうやって桜に伝えようかとかこっちは悩んでるんだぞ」

「桜って誰?」


雪原は俺が言った桜に反応して小首をかしげながら聞いてくる。

俺はその雪原の反応で雪原には桜の事を言ったことがない事を思い出す。


「そういえば言ってなかったか。桜は俺の奥さん。今日もこの旅館に一緒に来てるぞ、今は温泉に入りに行ってるけど」


「むっ。結婚してたの?」


「なんだよ、俺が結婚してたら悪いか?」

「いや、それなら悪いことをしたと思って」


雪原はあの口付けを思い出したのかシュンとしてそう言った。


「本当だよ……」

「skyが私に惚れちゃったから、桜には悪いことした」


「お前のその自意識が怖いよ」


雪原はキョトンとして俺のその返答に不思議そうにしていた。


「でも、今skyは私の事しか考えてないでしょ?」


雪原は痛いところをついてくる。確かに今は雪原の事ばかり考えさせられているが、それは恋愛感情なんかではないはずだ。多分。


「ぐっ……まぁ、それはそうだけど、まさか急にキスされると思っていなかったから」


「ぶい。それも作戦通り」


小憎たらしく雪原はピースサインをしながら言うが、その小憎たらしさまでもが絵になってしまう顔の良さがさらに憎い。


「そもそもなんで急にキスしてきたんだよ」


俺が自分から聞くのもなんだか気持ち悪い気がするが、自分で考えても答えが出なかったのだ。素直に本人に聞いた方が納得のできる答えが返ってくると思い、一番気になっていたことを聞いてみる。


すると雪原は少し頬を赤らめながらも教えてくれた。


「君が、欲しい物だったから。私は欲しいものを手に入れるためなら何でもする」


「なんで俺が欲しい物になるんだよ、そこまで俺ら関わりなかっただろ?」


「君が私に勝ったから。」

「またそれか……」


雪原はまた勝ったからという言葉を繰り返す。


「雪原は自分に勝った奴に毎回そんな風にするのか?」

「しない。」


「じゃあなんで?」


「分かんない」

「でも、君と温泉で話して、キスしたくてしょうがなくなった。ダメ?」


少しずつ尻すぼみになりながらも雪原が出してくれた答えは多分俺に分かる事ではないし、きっと誰にも分からない事だ。


これがもし、俺に桜という大事な人が居なければ問題はなかったはずなんだろうが、問題は俺には桜が居るということだ。この世界では重婚が合法的に出来ると言っても、未だに俺はそこに違和感を感じているし急にそこまで雪原に対して情が湧いてくるわけでもない。


「なぁ……友達からじゃダメか?」


確かに雪原は魅力的な少女だと思うし、据え膳食わぬは男の恥とも言うが。

雪原のゲームに対する姿勢を聞いたからか、今の俺にはそんなことしか言えなかった。


軽い気持ちでこの少女に手を出すのは失礼になるのではないかと、思ってしまったのだ。


「嫌」


「嫌って言われてもな……俺には桜が居るし、雪原だってもっとゆっくり考えたら、もっといい人が居るぞ?多分」


「私より弱い人は嫌。それに君の事が、好きなんだと思う。どうしようもないぐらい」


雪原は自分で言いながら恥ずかしくなってきてしまったのか、顔を真っ赤にしながら迫ってくる。

じりじりと俺との距離を詰め、椅子の手すりに手をかけてまだ言いたいことが有るのだろう雪原は言葉通りの目と鼻の先で口を開く。


「多分君より、良い人なんかいないし、君が良いって言うなら今からだって、ね?」

「私は、君が欲しいの。桜には後で謝ろ?……一緒に」


遂には雪原は俺の膝の上に乗り、俺にまたがりながら鼻と鼻が付きそうなほどの距離で悪魔の囁きを、小さいけれどはっきりと聞こえる声量で残す。


俺は雪原の顔を少し見上げるようにして、その見た目からは想像できないほど、妖艶で蠱惑的な雰囲気を持った瞳に吸い込まれてしまう。


「ダメだって……」


俺がそう抵抗したところで、その抵抗すら雪原にはスパイスでしかないのか、口角をゆるく上げ耳元に軽く唇を触れさせて軽く噛む


「私は良いって言ってるのに?」


かすかな水音を残して耳元から雪原の唇が離れる。俺は耳に残る湿気と温度に興奮と淫蕩にふけってしまってぼんやりとしてしまう。


雪原の唇の間からちらりと除く真っ赤な舌から目が離せなくなって、俺は光に吸い寄せられるかのように少しずつ雪原との距離が近づいて行く。


「……きっと桜も許してくれるよ」


少しずつ近づいて行く距離感に雪原はポツリとそう呟き、距離がゼロになった。


温泉の時は急すぎて分からなかった柔らかさとか、瑞々しさが暴力的なまでに襲ってくる。


どれだけ長い事重なっていたのだろうか、ぼんやりとしながらも雪原の小さな舌が俺の唇を開こうと動くのが分かってしまう。


――もう、いいんじゃないかな


もう何も考えられずに理性とは裏腹にゆっくりと唇が受け入れるための隙間を作っていく。目をつむっていたが不意に目を開くと雪原は淫魔の様に微笑んでいた。


「よくできました」


雪原がそう言って隙間から舌を俺の舌と重なり合わせて混ぜる。

その快楽は桜との行為とはまた違うモノを俺に感じさせて、いつか戻ってくるだろう三人の事なんて頭から追い出されてしまった。





「ただいまー……失礼しました」


俺が雪原に完全に堕とされて享楽にふけっていると、急に襖が開いて温泉に言っていた三人が戻ってきた。

先頭を歩いて部屋に入ってきた桜は、俺たちの行為を目にして固まって、ゆっくりと襖を閉じてしまった。


「桜!これは、ちょっと、不幸な!そう!不幸な事故なんだ!」


「やめちゃうの?」


雪原は未だ俺の浴衣の裾をつまんで引き留めようとするが、今はそれどころではない。


俺は襖を閉じてしまった桜と同様にまさか今帰ってくるとは思っていなかったので固まっていた体を無理やり動かして、未だ俺にしなだれかかっている雪原をゆっくりと床に下ろして襖のほうへ急いで向かう。


俺が自分でも意味の分からない言い訳をしながら襖に詰め寄って襖を開こうとすると、握りこぶし一つ分ほど襖が開き桜が聞いたことの無いほど低い声で言った。


「空君?」

「は、はい」


「お話があります。お部屋に入っても良いですか?」

「……はい」


こればかりは終わったと思った。聞いたこともない低い声で話す桜もそうだが、襖を開けて入ってくるゴミを見るような目で見てくる鏡花さん。

いまいち何が起こっていたのか分からずも、鏡花さんと桜の反応で俺が何か良からぬことをしていたことは分かるのだろう軽蔑したような目で見てくる一葉さんの視線に晒されて俺はただ正座するしかない。


「ねぇ、どれが桜?」

「今は黙っててくれ……」


すすすと俺の隣まで寄ってきた雪原は未だ熱に浮かされたような表情で俺の浴衣の裾を引くので小声で諫めると、その様子を見た三人と言うよりは鏡花さんと、一葉さんが先ほどよりもキツイ目で俺の事を見てくるので縮こまるしかない。


「それじゃあ、お話。しよっか?」


俺の隣に雪原、机を挟んで俺に軽蔑の視線を送る鏡花さん、一葉さんの間に桜という構図で()()が始まる。



運営さんユルシテユルシテ……ギリセーフデス。多分。

ベッドヤクザ雪原さんでしたね……


Twitter始めたので、もしよければフォローしてみてください。執筆状況や、他愛もない呟き、最新話の更新をお知らせしております。

@shirokumakemono


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― 新着の感想 ―
[一言] おい!(口)開けろぉ!(お前の本当の気持ち)出てこいよゴラァ!
[良い点] 肉食系セツナちゃん。 セツナちゃんカワイイヤッター [気になる点] テンポの良さは良いけど、いくらなんでも空君チョロ過ぎでは?? 先に桜ちゃんに話すくらいの誠実さは欲しかった。新婚数ヶ月…
[良い点] 雪原さんかわいくね? [気になる点] かわいいよな? [一言] かわいいよ!
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