【五十七話】本当に申し訳ない
「それじゃあ、この状況について説明してくれるよね?空君?」
机を挟んで正座している俺と女の子座りをして相も変わらず俺の肩にもたれ掛かっている雪原を鋭い目つきで見つめる鏡花さん、一葉さんからの視線で俺は縮こまる事しかできない。
唯一の救いは桜の表情はそこまで怒っているようには見えず、ただこの状況を説明してほしそうな表情をしているということだが、ある意味その平坦な表情が余計に恐怖感を煽ってくる。
「その、何というか、誘惑に負けたと言いますか……」
「skyは私とキス出来て嬉しかったよね?」
俺がたどたどしくも弁解を始めると、雪原は俺の肩に頭を乗せ火に油を注ぐ一言を放った。
「……ちょっと雪原は黙っててくれ」
「ぶ~……」
――こいつ酔っぱらってるんじゃなかろうな……
「空君?」
「は、ハイッ」
俺が雪原に胡乱げな視線を向けると、桜が無その物と言っても良いぐらいに平坦な口調で俺の名前を呼んだので俺は肩をビクッと跳ねさせながら返事をする。
「説明。出来るよね?」
「はい……。実はもともと話そうとは思っていたんだけど、俺が一人で温泉に行ったときに、なぜか雪原が温泉に入ってきて、そこでちょっとARカップについて話したんだよ。それで、三人が温泉に行った後にも雪原がこの部屋に来て誘惑されてあの状況になってしまったというか……」
「ん?それじゃあ、空君と雪原セツナは混浴したってこと?」
俺がこうなった経緯を簡単に説明していると、鏡花さんが俺の言った一緒に温泉に入ったということに反応して聞いてきた。
「……一応雪原は水着だったけど、まぁそうなります」
「ふ~ん?水着とは言え混浴には違いないよね~?」
「そうですね……」
「一葉ちゃん、奥さんが居ながら他の女と混浴する空君どう思う?」
「えぇ!?私ですか?……まぁあんまり良い事ではないとは思いますけど……」
「だよねぇ~」
鏡花さんは一葉さんにそう問うと、一葉さんは少し考えた後、至極まっとうな返答を鏡花さんに返したので耳が痛い。
「まぁ、混浴してたこととか、キスしてたことはそんなに怒ってないんだよ?」
桜は鏡花さんと一葉さんの会話を聞いて軽く頷いてからそう言った。
「え、そうなんだ~」
「そうなんですか?桜さん?」
その桜の言葉は鏡花さんや一葉さんには驚きだったようで、二人は目を軽く見開いて桜にそう聞いている。
「うん。ただ!問題は私に雪原さんの事を言わなかったことが、私は嫌なの。どうせ空君は私以外にも新しい女の子を見つけてくる気はしてたしねぇ」
実際に雪原と行為に及んでしまったわけで、俺としては非常に耳が痛い。
「本当に申し訳ない」
「だから、そんなに怒ってないってば。とりあえず、その子の事を教えてほしいなぁ。多分空君の新しい女の子になるんでしょ?」
どうやら桜がそこまで俺と雪原との事にあまり怒っていないのは本当のようで、桜は雪原に微笑みながら話しかける。
「鏡花さん?こ、これが、正妻の余裕ってことなんですかね……?」
「いや~。僕にはよくわからない世界だね~」
そのなんだかんだ俺の事を許してくれた桜の様子を見て、一葉さんと鏡花さんは二人でわけが分からないとばかりに話し合っていた。
「やっぱり、桜は話が分かる。私は雪原セツナ。17歳。よろしく」
「あれ?雪原セツナってなんか聞いたことあるけど……」
「ん。たまにテレビにも出てる。私プロゲーマー」
「あ、空君のピコピコ関係の子なんだねぇ。じゃあ鏡花さんとか一葉ちゃんと同じ感じ?」
雪原は自分がプロゲーマーであることを自信満々に胸を張って言ったが、桜にピコピコと一蹴され、肩透かしを食らったようにうなだれてしまった。
――分かるぞ、ピコピコって言われるとなんか肩の力が抜けるよな……
「いや~。雪原セツナはどっちかっていうと、僕たちの敵だった子だね」
「あ、そうなんだぁ」
鏡花さんが桜の言葉に補足するかのように言うと桜は軽い調子うんうんと頷いていた。
「それじゃあ、なんで敵だったのに空君の事好きになったの?って、雪原さんは空君の事好きだよね?」
「ん。skyの事は好き。」
「まぁ、あんなキスしてればそうだよねぇ」
桜はそれもそうかとでも言いたげに一人で納得していた。
それより、雪原順応早すぎじゃないか?俺は未だに申し訳なさでびくびくしてるって言うのに。
「まぁ、これから空君と付き合うなら、空君の事ピコピコの時のニックネームじゃなくて、本名で呼んだ方がいいんじゃない?」
「ん。じゃあ空?」
「良い感じ良い感じ」
「うん。なんかもう、そんな感じでいいなら、そう呼んでくれ」
俺は桜に怒られると思っていたら、実はそこまで怒ってなくてさらには、雪原と仲良くしようとしている節まである。
そのかなりの急展開に追いつけない俺は俺の顔を真っすぐ見詰めながら「空」と本名で呼ぶ雪原とそれを楽しそうに見ている桜にそう返すことしかできなかった。
「あと、私は空と付き合うんじゃなくて、結婚するから」
「あ、それも良いかもねぇ。」
「それも良いのか?桜?ほんとに?」
いつものように平坦に結婚というワードを出した雪原とそれに驚くほど軽い調子で同意する桜に俺はポカンとしてしまう。
「え?でも、私と結婚した時もこんな感じじゃなったっけ?」
「う、まぁ確かに」
確かに桜の言う通り、俺と桜が結婚した時も割と軽い感じで結婚に踏み切ったことを思い出し、俺は言い返す言葉がない。
「じゃあ、決定?」
「うん!私は良いよ。セツナちゃんとも仲良くなれそうだしね」
「じゃ、暫定お嫁さん二号決定。いえい」
雪原はなぜか机を挟んで展開の速さに俺と同じように困惑している鏡花さんと、一葉さんにピースサインを向けて言った。
「ふ~ん。雪原セツナはそういう事してくるわけね……」
「え、え?なんで私たちにピースサインしてくるんですか?」
雪原にピースサインを向けられた鏡花さんは少し腹立たし気に、一葉さんは何が何だか分かっていないように鏡花さんに詰め寄っていた。
「あ、そっか、鏡花さんと一葉ちゃんはどうか分からないけど、また話さないとね」
雪原は相変わらず自慢げに胸を張って二人にアピールしていて、鏡花さんはその雪原の様子を憎たらし気に見て、一葉さんは未だに何が起きているのか分からないようでポカンとしている。
その二人のリアクションを見た桜は思い出したかのように何やら含みを持たせた一言を放った。
「まぁ、でも。とりあえずセツナちゃんとの話は片付いたんだから、皆でご飯でも食べようよ。私お腹すいちゃった!」
「賛成」
「まぁそれには僕も賛成だけど、雪原は自分の部屋に帰った方がいいんじゃない?」
「ふっ。負け犬の遠吠え」
「なっ……!」
「喧嘩はやめましょ?ね?ね!?」
「一葉ちゃんがそう言うなら~」
「引くのも勝者の余裕」
「セツナさん!」
ご飯の話をしていたはずなのに火花を飛ばし始めた鏡花さんと雪原を見て、一葉さんがわたわたと両手を広げて二人の間に入って二人の火花を遮っていた。
鏡花さんもその一葉さんの様子を見て一先ずは矛を収める気になったのか大きくため息をついていたが、未だ雪原は挑発的な態度を崩さず一葉さんに怒られていた。
正直未だに俺は何が何だか分かっていないが、どうやら今回の騒動はひとまず一件落着したかのように和気あいあいと談笑?をする四人の態度を見て、長い事正座をしていたせいで痺れた足を崩すことにする。
「空君はまだ正座しててね?」
「え?」
俺がなるべく痺れを感じないようにゆっくりと足を崩していると、それを見つけた桜に当然のことのように正座の続行を求められてつい、オウム返しのような返事を返してしまう。
「好きでしょ?正座。」
「……うん!正座大好き!」
冗談を言っているようには見えない真面目な桜の声のトーンに俺は何も言い返せず、痺れている両足をもう一度正座の姿勢に戻した。
まぁ当然と言えば当然なのだが、桜は怒っていないと言っていたので勝手に安心していたが、確かに怒っていないというだけで別に俺の事を許したわけではなかったようだ。
再度正座をした俺の事を見てにこりと微笑んでいる桜の背後には般若が浮かんでいる様に思えて仕方がなかった。
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by白熊獣




