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Episode.4



(嚮導艦を追おうとするな。嚮導艦を追うな…どういうことだ…)

 キサラギの操舵手タクヤ・イセ軍曹は操艦を続けながら、艦長ズイカ・ヤマムラ少佐の言葉を反芻していた。だが、やはり意味がわからない。

 第12駆逐戦隊の駆逐艦8隻は航宙機の攻撃を受けることもなく、敵航宙母艦とその護衛艦隊を攻撃圏に捉えようとしていた。ヤマムラは通信士ライアン・オーティス軍曹に艦内放送を入れさせた。

「各員、これより戦闘宙域に侵入する。日頃の訓練の成果を存分に発揮して欲しい。以上だ。」

 ムツキに連なり1列となった第12駆逐戦隊8隻が、手負いの航宙母艦とその周囲を取り囲む護衛艦隊に襲いかかろうとしている。敵艦隊は航宙母艦と駆逐艦1隻を先行させ、残りの艦は速度を落とす。

「航宙母艦をなんとしてでも逃したいということか。ラジ司令はどう出るか…」

 答えはすぐに出る。

「ムツキ変進、右30°」

「操舵手、ムツキとの距離を維持して進路辿(たど)れ。」

「はっ」

 ヤマムラの指示にタクヤが短く答える。ムツキのとった進路を副長ユーハン・リン大尉は意外に感じたようだ。

「この進路だと、航宙母艦は取り逃す可能性が高くなりますね。良いのかな。」

「良くはないだろうが、速度を落とした連中の殲滅を優先するということだろうな。何か我々が知らない理由があるのかもしれんが。」

「ムツキより通信、『砲撃戦用意、目標、敵軽巡航艦』」

 ヤマムラが改めて指示を全艦に伝える。

「総員、砲撃戦備え。これは訓練ではないぞ。全員、一瞬たりとも気を抜くな!」


 ムツキは敵軽巡航艦を10時方向に見て突進していく、キサラギ以下の艦もムツキに続く。敵軽巡航艦がレーザーカノンの発砲を始める。ムツキが回避航行を始め、軽快に上昇下降、加速減速を繰り返す。

「本艦も回避航行始め!敵主砲の射程に入るぞ!」

 タクヤは操艦レバーを操作しながら、ヤマムラからのヒントを思い出す。

(嚮導艦を追おうとするな。どういうことだ、やっぱりわからねぇ!)

 タクヤはムツキの動きに合わせて、必死に舵を切る。敵軽巡航艦は第1砲塔をキサラギに向けてきた、タクヤは瞬時に下げ舵をとり、ギリギリで光の槍を躱す。

(まだ、撃たないのか!ムツキは何をやってるんだ!)

 ムツキもキサラギも敵軽巡航艦が放つレーザーカノンを躱しつつ、更に近づく。ヤヨイも射程に入り砲撃を受けるようになって、ムツキが右に舵を切る。敵軽巡航艦の左舷に逆航でムツキ、キサラギ、ヤヨイが並ぶ形となる。ようやくムツキが砲撃を始める。それをみて、ヤマムラが砲撃開始の指令を出す。

「砲撃開始!撃て!」

 キサラギから8本の光が敵軽巡航艦に伸びていく。同様にムツキ、ヤヨイからの砲撃も敵軽巡航艦に集中する。敵はヤヨイに的を絞ったようだ、ひとまわり太い光の槍がヤヨイ後部に突き刺さる。

「ヤヨイ、被弾! 隊列離れます!」

 ヤヨイが抜けた穴をウヅキ、サツキが埋め、より激しく砲撃を浴びせる。敵の駆逐艦が集中攻撃を受ける軽巡航艦を救おうと、ムツキの11時方向からやってくる。

「ムツキより打電、『キサラギは我に続け、他艦は進路を維持せよ。』」

 ムツキとキサラギは接近してくる駆逐艦に突進していく。ムツキは左に舵を切り、敵駆逐艦の行き先を塞ぐ。ムツキに追随しようとするタクヤにヤマムラが指示を出す。

「操舵手、ムツキの逆、面舵だ!」

「はい!」

 タクヤは無我夢中で右に舵を切る。ムツキに行き先を塞がれた敵駆逐艦は、ムツキとキサラギの間を抜けようとするが、そこにはウヅキとサツキがいた。三方を塞がれ、4隻からの集中砲火を浴びた駆逐艦は船体中央に爆発を生じ真っ二つになった。

 軽巡航艦にはミナヅキ、フミヅキ、ハズキと次々に無傷の艦が逆航で砲撃を加える。軽巡航艦のシールドはもはや無く、光の槍で串刺しとなり爆散した。

 残っている駆逐艦3隻のうち1隻が、ムツキに突撃してくる。だが、ムツキは攻撃を受け止めつつ、キサラギ、ウヅキ、サツキの左舷射程内に誘導する。3隻に集中砲火を浴びた敵駆逐艦はそのまま力なく虚空を漂う。

 残りの2隻は交戦を諦め、航宙母艦が逃走した方向に向けて全速航行を始めた。ライアンがムツキからの指示を伝える。

「ムツキから通信、『ウヅキ、サツキを連れ、敵艦を追撃せよ。』」

 ヤマムラは頷く。

「通信士、ウヅキ、サツキに通信、『我に続け。』だ!」

「操舵手、敵の行き先を塞ぐぞ。1時方向に全速だ!」

 ムツキ型各艦は素晴らしい加速性能を見せ、僅か数秒で最高速に達して、敵駆逐艦に追いすがる。ディスプレイに映し出される、敵艦を表す光点と自艦を表す光点とがみるみる距離を詰めていく。

「よし、いいぞ。我らの方が優速だ。」

「操舵手、取舵だ!敵前面に踊り出ろ!」

「はい!」

 ヤマムラの指示に、タクヤが左に舵を切る。キサラギが敵艦の進行方向を塞ぎ、立ちはだかる。観念したのか、敵駆逐艦は速度を落とした。

「通信士、敵艦に発光信号送れ、『停戦せよ、さもなくば撃沈する。』」

 キサラギ、ウヅキ、サツキが敵の駆逐艦を取り囲む。砲を敵艦に指向し、動けばすぐに攻撃できる体勢だ。

「敵駆逐艦より発光信号、『我、降伏す。』」

 ライアンが敵駆逐艦からの回答を報告した。


「だー、疲れたー。」

 タクヤとライアンは兵員室の隅のソファで身を(うず)めている。

「しかし、まいったな。本当に戦争が始まってしまったぞ。そんなつもりはなかったんだが。」

 ライアンの言葉にタクヤも頷く。

「そうだよな。どこか遠い世界のことだと思っていたけど、いきなり当事者になっちまったな。」

「ムツキで6人、ヤヨイで19人が死んだってさ。敵方は…何人くらいが死んだんだろうな。」

 2人は黙る、戦死者の話となると口が重くなるのは至極当然のことであろう。

「まぁ、それはそうと、課題の答えは解ったのか。」

 強引に変えられた話題にタクヤは頭を抱える。

「なんか、艦長も副長も『解っただろ。』って顔してんだよ。しょうがねぇから、解ったような顔しているんだけど…」

 ライアンは呆れている。

「そりゃ、詐欺だな。軍法会議にかけられるぞ。」

「うるせぇ。って、お前は解ったのかよ。」

(言葉のまま、嚮導艦を追いかけようと躍起にならず、自己判断でコースを選択すれば良いってことだろ。実戦中、自分でやっていたじゃないか。)

 だが、ライアンは一言だけ答えた。

「解ったよ。」

 タクヤは唖然とする。

「うそ…教えて…一生のお願い。」

「お前には、何度の生涯が与えられているんだ。」

「望んだ数だけ。だから、これからも何度でも使うけど、教えて。」

「そんな節操のない奴には教えられんな。今日は疲れた、もう寝る。」

 立ち上がり就寝室に戻っていくライアンをタクヤが追いかける。

 

 ともかく、駆逐艦キサラギは初の実戦を切り抜けたのであった。


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