Episode.5
フソー星系第7番惑星クラミツハ、その第2衛星マガツヒは、アテラス國、イザナ共和國が共に領有権を主張する政治上の要所であると同時に、軍事・戦略上の要所でもあり、この衛星をめぐり両國は激しい争いを繰り広げてきた。
キサラギが所属する第12駆逐戦隊は、マガツヒ基地化の部材を輸送する船団を護衛する任務に就いていた。船団を取り囲むように7隻の駆逐艦が配置されている。先の戦いで大破した3番艦ヤヨイは、未だ人工惑星ツクヨミのドックで修理作業中である。
操舵手のタクヤ・イセ軍曹は、若干気抜けして操艦レバーを握っている。
(球形陣は気が楽だ、単縦陣ほど艦の位置がシビアじゃないからな。)
そんな心の内を見透かされているのか、時折、艦長ズイカ・ヤマムラ少佐や副長ユーハン・リン大尉から喝が飛んでくる。
「操舵手!船団に寄りすぎだ!80を維持しろ!」
「はい!」
その度に返事だけは元気よく返すが、緊張感はなかなか持続しない。ヤマムラは艦内の気の緩みに懸念を持っていた。
「いまいち、緊張感が足りないな。行程は順調だし、敵襲の可能性も高いとは言えないが。気に入らんな。」
「一戦交えたことで高まった緊張感の揺り返しでしょうかね。ある程度は許容せねばならないかとも思いますが。」
ヤマムラもリンも溜め息を吐く。同様の懸念は各艦の艦長・副長、そして戦隊司令のスニール・ラジ少将も持っていた。
「どの艦も弛んでるな。マガツヒに到着して復路航行に出るまでに2日か、それまでの間に気合いが入ることを何かしたいものだな。」
参謀長トン・タイン准将がひとつ提案する。
「紅白戦はどうでしょうか。それぞれの艦に指揮をさせてみるのも、面白いのではないでしょうか。司令部が被害を受けた時の参考にもなりますし。」
ラジは手を叩く。
「面白そうだな、そうしよう。」
第12駆逐戦隊の各艦に訓練計画書がまわる、ラジやタインの予想通り部隊は盛り上がった。
「対戦表でたか、お、一回戦は紅組、ムツキ、ハヅキ、白組、キサラギ、ウヅキ、サツキ、ミナヅキ、フミヅキ、2隻対5隻かよ。さすがにラジ司令も甘く見過ぎじゃねぇか。」
対戦表は下記の通りであった。尚、各組先頭に記載の艦が指揮艦となる。
紅組 白組
1 ム、フ キ、ウ、サ、ミ、ハ
2 ウ、ミ、フ、ム サ、ハ、キ
3 ミ、ム、キ、 ハ、ウ、サ、フ
4 フ、ミ、サ キ、ム、ハ、ウ
各艦の乗組員は対戦表を片手に、勝敗の予想と賭けレートの設定を始める。若干の個性はあっても基本性能は変わらない同型艦同士の戦いである。乗組員の技量を測るには絶好の機会と言える対戦に船乗りは燃える。そして大抵の場合、若者が張り切る、タクヤもライアンも気合いが入っていた。
「おっしゃ!ムツキをコテンパにしてやる。」
「おーよ、ラジ司令に日頃の恩返しだ!」
盛り上がる艦内で、キサラギ艦長ヤマムラは対戦表を見て溜め息を吐く。
「初戦で2対5か、勝って当然、負ければ無能。しかし、ラジ司令がそう簡単に勝ちを譲ってくれるとも思えんな。」
副長リンも頷く。
「ラジ司令に負けて、無能呼ばわりは無いでしょうが…我が白組は数の有利を活かして紅組を包囲したいところですね、司令がどう出てくるか。」
彼らは単艦の指揮はしていても、複数艦の指揮は初めての経験であった。
「だが、司令と戦えるのはキサラギだけだ、やるからには勝つ!」
ヤマムラにも気合いが入る。
第1回戦、白組の指揮艦として出撃したキサラギは、紅組のムツキとフミヅキを探している。より実戦を意識した対戦とするため、各組は出港後、位置を秘匿した状態でスタートするのだが、紅組のムツキとハヅキは姿を隠したまま現れようとしない。
対戦の勝敗は撃破艦艇の数で決められる。同数の場合は開始時に参加艦艇が少ない方が勝ちである。即ち、このまま撃破艦が双方無ければ、紅組の勝ちだ。
「まずいな、時間切れまでこのまま粘る気か。ラジ司令らしくない手だが、負けは負けだ。」
白組の面々、特に指揮艦のキサラギ艦長ヤマムラは焦っていた。
「やむを得ないな、索敵範囲を広げよう。各艦に発光信号、本艦を中心に400まで進出、艦偵も上げて周囲をくまなく探せ。」
だが、やはり見つからない。一方のムツキら紅組からは白組の姿を捕捉していた。ラジはほくそ笑む。
「ヤマムラ少佐もまだまだだな。と言うか、考えつかないのだろうな、優等生には。」
タインは呆れ顔だ。
「悪戯小僧が考えそうな手ですよね。ヤマムラ少佐が可哀想に思えてきますよ。」
「戦場では全てのモノ、状況を味方につけねばならん。良い勉強になるだろう。では、行くか。」
ムツキとフミヅキがマガツヒの簡易港湾から躍り出る。彼らは一旦出港した港に再び戻り、身を隠していた。発見されれば、なすすべもなく撃破される危険な賭けであった。
踊り出たムツキとフミヅキは、近くを索敵行動中だったミナヅキに襲いかかる。
「主砲斉射、用意、てぇ!」
と言っても、レーザーカノン代わりの可視光線だが、ミナヅキは不意を突かれ、両舷から光を浴びて撃沈判定となる。
「ミナヅキ撃沈!ムツキ、フミヅキ、背後から本艦に向けて全速航行!」
ヤマムラは慌てて指示を出す。
「まずい!操舵手、全速で前進しろ、ウヅキと合流するぞ!通信士、各艦に打電、『ウヅキを目標に集合』だ!」
リンが舌打ちをする。
「出港した港で姿を隠すとは、き…」
「汚くはない。思い至らなかった我々が未熟なのだろうな。だが、勝負はこれからだ。」
キサラギは一気に加速しウヅキに接近していく、その後をムツキとハヅキが追いかける。
「通信士、ウヅキに本艦の後ろに付くよう打電しろ。サツキ、ハヅキも後ろに続け!」
ヤマムラの意図は4隻で単縦陣を組み直し、改めて決戦を挑むことだが、戦いながら艦列を組むことは実は難しい。サツキとハヅキは譲りあってしまい、列が間延びする。それを見逃すラジではない。サツキを両舷から挟み込み光を浴びせる、救援のため減速したハヅキがサツキと舷側を並べたところで、まとめて撃沈してしまった。
「ハヅキ、サツキ撃沈!」
この時点で3隻撃沈判定された白組は負けが決まった。
「負けたか。だが、一矢報いるぞ!回頭180°!」
キサラギとウヅキは大きく弧を描いてムツキ、フミヅキに向かっていく。
「操舵手、回避航行始め!全て躱してみせろ!」
「はい!」
タクヤは操艦レバーを操り、ムツキとフミヅキの照射を躱す。キサラギとウヅキは、ムツキを捉えようと照射するが、ムツキも軽快に回避して有効打とならない。一旦互いに行き過ぎて、再度向かいあい、照射を行いながらすれ違う。2度交戦したところで時間切れとなった。
タクヤら白組の者たちは天を仰ぐ。
「やっぱ、すげー、ラジ司令。2対5でも圧勝か。」
「やばい、これは取れると思っていたのに…」
所属艦の負けにはかけづらい。キサラギは白にかけている者が多く、幸先は悪かった。だが、大抵の者は明るい顔をしていた。自分たちの司令官の実力を改めて確認できたからである。
ヤマムラは顎に手を当て考え込んでいる。
「あの時、追撃を受けた時、どうすべきだったんだろうか。反転して反撃…いや…副長、意見はないか。」
「1つにはサツキ、ハヅキの序列を指定すべきだったかと、少なくとも1隻は助けられたかもしれません。また、そもそも合流を図るべきでなく、散開させる戦術を取るべきだったのかもしれません。いずれも結果論に過ぎませんが。」
「なるほど。とにかく良い勉強になった。残りの対戦も努力しよう。」
7隻の姉妹艦は再び艦列を揃え、新たな組み合わせで技量を競い合う。




