46話
「久しぶりの本気なんだ。...リハビリくらいにはなってくれよ?」
瞬間、言いようもない程の真っ黒な殺気が開場を濃厚に染め上げる。
もしも殺気だけで人が死ぬのなら、今頃皆殺しであろう。それほどの殺気だった。
「~~ッ!!気を付けろ!コイツはヤバイ!」
アオトのことをチラッと見るエリック。
「コフゥゥー...気が高まるぅ...溢れるぅ...」
「........皆、逃げちゃ駄目かな?」
「エリック!馬鹿なこと言ってないでさっさと準備しなさい!」
「あっ、はい......『限界突破』!!」
へぇ...無詠唱か。中々育ってきてるじゃねぇか。くっくっく...早く闘おうぜぇ...待ちきれねぇ!
でもなぁ...なんか本調子じゃないってゆーかー...まっ、いいか。
「死ねゴルァ!!」
「...なぁっ!?」
なんのへんてつもない、唯のダッシュ。
だが、今のアオトなら時速300㎞は堅いだろう。
からのヤクザキック。おりゃ!
「くっ!」
それを素手で受け止めるエリック。どう考えても無謀なのだが...
キュィィィン! そんな機械じみた音と供に、猛烈な勢いで輝きだすエリック。
「なんだ...力が...溢れる!」
んだよコレ?なんだ?イケメン補整か?イケメンっていっつも輝いてるもんなぁ...
あれ?俺も今輝いてね?真っ黒に。イケメンに対する殺気が俺をコーティングして、真っ黒に輝いてるよ?
...いや、羽があるから駄目か。仕舞えないかな?これ。
バサァ
仕舞えた。やったね!これで俺もイケメンの仲間入りだ!
「ぅぅぅうううおおおお!!」
「へっ!?あっ、ちょ、人が考え事してるときなんて卑きょーーーーー」
「死になさい!」
「正義は絶対勝つのよ!」
「死ねアオトぉぉぉ!!」
エリックに押されるつつある中、背後から魔法が飛んでくる。一や二ではない。三桁もの色とりどりの魔法がアオトの背中を穿つ。
約一名、完全な私怨が混じっている人がいるが気にしてはいけない。人生の半分は妥協でできているのだ。
「痛っ!お前ら!卑怯だぞ!?一人に対して十人とか!!お前らそれでも人間か!?」
「「「お前には言われたくねー(ない)よ!!!」」」
そりゃそーだもん。俺、神だし。
アオトに見事なブーメランが突き刺さる。
「こうなりゃごり押しだ!」
「おっ、お前まだ余力あんのかよ!?」
「まっ、神ですし」
「ちくしょぉぉぉぉ!!」
(........おかしい。なんでこんな締まらないのだろうか。
仮にも神の一柱の討伐をしているのに、なんでこんなに和気あいあいとしているのか!?
さっきまでシリアスだったよね!?殺気とかビンビンに出してたのに!なんで!?なんで今やシリアルなの!?甘くなっちゃってんの!?)
...以上が、遠くから見守っていたイヴとアダムの感想である。
「おりゃっ!」
緩い掛け声と反比例し、鋭く重い一撃はエリックを軽々吹き飛ばす。
「ちぃっ!...今だ!打ち込め!」
「...は?いや、何をーーー」
皆まで言う前に物凄い轟音が開場に響く。
「...『真.火魔法:紅蓮の花』!」
「...『真.闇魔法:悪夢』!」
「...『真.光魔法:有罪判決』!」
ect...
これは...ちぃとばかしヤバイな。ほれ、結界を...あれ?
と、そこでアオトは気づく。“魔法が一切使えないこと”を。“この世界の理から外れる”という意味を。........神になるということを。
直撃。三桁を優に越える大魔法の雨。
いくら神とはいえ、元は人間...人間なのだろうか。あれ?なんだか大丈夫な気が...
「死~~~~ぬッ!!」
「...生きてんじゃなーい」
「ルル...突っ込んだらぁ、負けだよぉ?」
「お前ら...少しは空気を読め。今いいところだから」
「あぁ~ん、エリックぅ~足が滑りましたわ!」
「ちょっ!ライム!?胸!胸当たってるから!」
「「ライムぅ...抜け駆けは許さん!」」
ライムに続き、エリックに抱きつく二人。それを見て、笑い会う皆。
緊張感の欠片もない。そんな“日常”が其処にはあった。
そんな光景がもっともアオトの心に“くる”のだ。目の前でイチャコラされる身にもなってほしい。そんな言いようもない感情がアオトを染め上げる。
が、なんとか持ちこたえる。だって俺には...
(ウェンディがいる!)
未だ魔法に焼かれる身でありながら、なんとか意識を保つ。その精神力は、流石の一言であった。
しかし、そんな諸刃の剣は一瞬にして崩れ落ちる。
「遅れましたぁ~」
ドクン、心臓が跳ね上がる。この聞きなれた声。アオトが間違える筈がない。ーーーウェンディのものだった。
(ウェンディ!まさか...俺を助けに!?)
「だ...め、だ。くう...な!うぇんでぃ!」
なんとしてでもウェンディだけは、その想いだけでアオトは叫ぶ。例え身を滅ぼされようと、君だけは...
そんな誠実な、切実な、願い、祈り、頼み........妄想。
「へっ!?」
すっとんきょうな声を上げるウェンディ。
なぜか、周りの連中までキョトンとしている。
「燃えてるの........アオト君ですか?」
(そうだ!だから早くここから........)
まさに一生のお願い。そのような願いは空虚な妄想であると知らずに。
(頼む...エリック!見逃してくーーーー)
「ふ~ん...なんか、随分あっさりやられましたね~」
アオトは一瞬フリーズする。
(........え?い、今、一体なんて言った?)
「あっ、エリック様~♥お弁当作ってきましたわよぉ♥」
と、言いながら満面の笑みでエリックに弁当を渡すウェンディ。
(え...........ウ、ウェンディ?冗談だよね...?)
「あのさ...ピクニックじゃないんだからね?分かってる?これ、殺し合いだからね?」
「はい!なんたってアオト君を殺すと聞いて真っ先に準備しましたのよ♥」
「あー、ウェンディずるー!」
「流石ぁ、王女様だわぁ。抜け目ないわねぇ...」
アオトの眼前で、イチャつく面々。その光景を前に、アオトは目を見開き、拙い脳で思考する。
(王女...ウェンディが王女........もしかして国王がらみ?俺にエリックをけしかけたのも国王。と、なるとアイーシャ辺りも知ってそうだ。つまりーーーーー)
「お、前ら.....全員、グル..か..ッ!!」
「あれ?まだ喋れるの?以外に頑丈なのね~。いやー、滑稽だったわよ~。まさか、私にスパイされてるなんて思わないでしょ?木を隠すなら森の中、ってね♥」
(あの笑顔、声、全部...全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部!...嘘、だったのか?)
アオトの頭を過るのは、二人で過ごした日々。
初めて話しかけられて嬉しかったこと。
その後、ちょくちょく二人で買い物に出掛けたこと。
一緒にご飯を食べたこと。
...闘技場の観戦に誘われたこと。
上げればキリがない。たった半年、されど半年なのだ。その時間は、アオトにとってどれ程幸せだったのか?そんなの問うまでもないだろう。
ーーーーー過去最高に決まっているだろっ!!
生まれて約18年間、誰一人としてアオトを真っ正面から見てくれなかった。........誰からも、何からも、見てもらえなかった。
確かに、義父さんや義母さんは愛してくれた。ーーーエリックの次に。
結局、アオトはいつもエリックの次。
誰もアオトを“一番”に見てくれないのだ。
(なん、で!そんな顔...俺には見せてくれなかったのに...!!エリックには見せるんだよっ!!!)
やっと自分を見てくれる人が出来た!自分を一番にしてくれる人が出来た!
........だが、それは全て空虚な妄想で、虚実で、まやかしでーーーーー嘘だった。
(嘘嘘嘘嘘嘘嘘ウソ嘘ウソウソ嘘嘘ウソウソウソウソウソ嘘ウソウソうそ嘘ウソウソうそうそうそうそうそうそうそ................そうやって、そうやって俺はまた騙されるのか?また...奪われるのか?)
心の支えを失ったアオトはひたすら自問する。
(俺は........エリックの二番煎じなのか?...否、断じて否!エリックに勝つために...ルルとサラに振り向いてもらうために俺は強くなったのだろう!?)
チラリ、エリック達を見る。皆、幸せそうだ。まるで俺のことなんてもとから居なかったような...そんな雰囲気だ。
(その結果どうなった?エリックに勝てたのか?ルルやサラに振り向いてもらえたのか?........分からない。何も、分からない)
結局アオトは成長していないのだ。
あの、森から。“黒”と“白”に別れたときから。何も進歩せず、チカラに胡座をかいて。何もしてこなかったのだ。
劣等感が、嫉妬が、妬みが、怨みが、嫌悪が、絶望が、憎悪が、空虚さが、切なさが...............殺意が。
突然、アオトは幻聴を耳にする。それは、まるでアオトを誘惑するような甘く、蕩けるような声で、アオトに語りかける。
『俺に身体を譲れよ。楽にさせてやるからよ』
うるさい、黙れ。
『ほれほれ、気取っちゃってさ。本当はもう理性がもたないんだろ?』
黙れと...言っている!
『エリック...だっけ?殺しちゃえよ。邪魔な男をよ』
エリックは...親友だ。ーーーだから、殺さない。
『へぇ...自分を殺すような奴を親友、ねぇ』
........お前には関係ないだろ。
『ふーん、まぁいいか。男を殺したらどうしようかねぇー。そうだ!女どもはエリックの死体の前で犯してやろう!俺の絶望はこんなものじゃないだろう?』
お前に...何が分かるッ!!
『...分かるよ。だって、“俺はお前の欲望”だからね』
俺の、欲望?
『そうさ!君の奥底に眠っている欲望さ!だから、俺はお前で、お前は俺なのさ!』
そうか...俺は、お前なのか。なら........いいかな。もうーーーーーー我慢しなくても、いいかな。
『我慢する必要なんてないんだ。本能のままに、自由に生きようじゃないか!』
もう一人の俺...後は........任せた。俺は...ちょっと疲れちゃったよ。
『あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー任された』
その瞬間、アオトは堕ちた。
最悪で、最低で、........最凶で、最狂。
真の意味でアオトは目覚めた。
『破壊神』としての“アオト”に。
さぁ、いよいよ物語は終盤です。
作者も、これからどうしようか必死に考えております!




