44話
文字が少な目です。
『それでは........レディーーゴーーーーー!!』
試合開始。速攻を仕掛けたいところだが、一先ず落ち着いて相手の出方をーーーー
「........シネ」
「ーーーーッ!!バッカ野郎!危ねぇだろっ!」
馬鹿みたいに鋭い殺気を放出させながら俺に突っ込んでくるエリック。その行動は知性の欠片も見当たらない。
はて?と、首をかしげるアオト。少なくとも昨日まではこんなのじゃなかったのだが...と一人思考にふける。
が、今は試合中。そんな舐めた真似をしていると........
「...クラエ」
「ーーーーーーーーーハッ!?痛ってぇぇぇぇ!!」
ほら、言わんこっちゃない。
エリックの剣を素手でいなしていたところ、ミスって指をざっくりやったらしい。あっ、右手の人差し指が落ちた。実に痛そうである(他人事)
そんな一連のやり取りに会場が沸く。
「いいぞーー!そんな奴瞬殺だぁっ!」
「インチキ野郎がっ!だが、テメーもここまでだ!!」
などなど、散々な言い様である。
『インチキ野郎』、ソレが今のアオトのあだ名だ。
曰く、Eクラスなんかが俺達に勝てるわけない。
曰く、アイツの攻撃が見えなかった。あれはトリックだ。
こんな根も葉もない噂が会場中を流れ、いつのまにかソレこそ真実だ!と言われていたのである。もっとも、そんな噂がなくてもアオトへの声援は一切合切無かっただろうが...
ともあれ、アオトはいわれのない罪で罵られ、非情に機嫌が悪い。なので、ここらで少し黙らせておこうと思う。
「........キエロ」
「いい加減片言をやめろぉぉぉぉっ!!」
八つ当たり気味に...いや、事実。八つ当たりである。
剣を半身で右に避け、すれ違い様に渾身の左ストレートを叩き込む。
グホォッ、と咳き込む声を聞くが早いか、エリックは会場の壁までぶっ飛んでいった。
会場が一斉に静まり返る。それを見て、思わず苦笑いをする。
「ハハハ...流石に素手で鎧を殴るのは痛かった........ってか、鎧固っ!ガチ殴りで壊せないとかどんだけよ...」
会場の壁に半分埋まっているエリックを見て、つい感想を漏らしてしまう。殴られた部分は見るからに凹んでおり、アオトのガチ殴りの壮絶さを物語っていた。
実は、その鎧は“オリハルコン”という滅茶苦茶固い鉱物で出来ており、殴られたくらいでは決して凹むはずはないのだが...
そんなことをアオトが知るはずもなく、己の弱体化をひたすら悔やんでいた。
だが、お陰で分かった事もある。
「エリックは...洗脳されている」
はたしていつだっただろうか。アオトは一度洗脳された魔王と戦ったことがある。その時もあのような目をしていた気がする。
あのときは怖かったなぁ...と対戦者を思い出して恐怖するアオトだが、今はソレよりも質の悪い相手と対峙していることを思いだし、気を張る。
「........シネ。シネ、シネシ、ネ.....シネシネシネシネシネシネシネシネ!!!」
「うおっ!?コワッ!!!」
もう型もクソもない剣術で突っ込んでくるエリック。さっきよりも数倍スピードが上がっていることに戦慄し、意識を切り替える。
「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ」
上、左、下、右、下、と的確にエリックの剣撃を避けていくアオト。内心、恐怖でいっぱいいっぱいなのだがなんとか悟られないように努めて無表情を作っていた。
(...さて、どうやって洗脳を解こうかねぇ)
思い出す。魔王(洗脳ver)との戦いを、弱点を、必勝法を。
「ζεκθαΧγαγκΧΥλζΧ........駄目か」
今試したのは、精神操作系の魔法を解くためのパスワードだ。因みに、コレは暗記でなんとかなる。
(コレが駄目だとなると...即興でやるには、ちとキツイ、か。まぁでも........)
「やるしかねぇか!」
エリックを倒したら俺、ウェンディと結婚するんだぁ。と、己を奮い立たせる。
(狙うのは脳!そこに冷気を直接送り込んで、洗脳の術式をショートさせれば...いけるっ!)
「ちょっと痛いけど我慢してくれよ....」
脳に冷気を送り込むのだが、なにも頭に穴を開けようとかではない。送り込むのは“腸”だ。
脳は端末器官と繋がっているため、腸に冷気を流すと脳が活性化しなくなり、一時的に不具合が起こる。不具合が起こると、基本的に術式は停止する。根源である魔力の供給が絶たれるからだ。
そのためには...
「気合いだぁぁっっ!!」
指の一本足りない右手を犠牲にしてエリックの剣を受け止める。途方もない痛みが体を駆けるが、この際気にしてられない。...もう少し魔力が回復していたなら腕に魔力を纏って衝撃を和らげたのになぁ、と軽く場違いなことを考えながらも素早く次の行動に移す。
剣を止められたことで一瞬。刹那の時間だが、エリックの動きが止まる。それを見逃すほどアオトは甘ちゃんではない。
「くぅぅらぁぁえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
体に残る僅かな魔力を纏い、いつになく本気でエリックの脇腹を抜き手で刺す。
「グッ?...ギァァァァァァァァァ!!」
アオトの抜き手はオリハルコンの鎧をも貫通してエリックの脇腹に深々と突き刺さる。
アオトは上手く内蔵を傷つけないようにして、腸までたどり着くと、残っている魔力を全てつぎ込んで『絶対零度』を発動する。
...分かっている。本来、ここまでの大技を発動する必要はない。でも、でもだ。........見せ場が欲しい!一重にこの思いだけでの行動なのだ。アオトに残っていた最後の意地ってヤツだ。
「帰ってこい........エリックッ!!」
1分、2分、3分...と、時間が経過する。
試合終了の合図はない。まだ、試合中だ。
........逆探知完了、だ。
アオトは密かに魔力の残滓を追っていた。そしてたどり着いた。...たどり着いて、しまった。
「................嘘だ」
こんなの信じたくない。コレではまるで、まるで........
「俺を殺すためか?国王ッ!!」
エリックを洗脳したのは、アイーシャの旧知の友にして、先代の勇者パーティーの一員。そして何よりアイルギアの王、アダム・ニルヴァーナ・ディュオ、その人だった。
皆さんも冷たいものの飲み過ぎには注意してくださいね!
そして、何気にフルネーム初登場の国王様です。




