42話
エリック視点です。
『次は決勝ですっ!!』
「うぉぉ...そろそろか...ここまで来たんだ。絶対に負けられない...負けられないんだ........」
「ふふふ...そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?私は貴方と居れるだけで幸せなんですから」
そうやって俺を安心させようとしてくれる“ウェンディ”。
すると、彼女に対抗するように声を上げる二人。
「私もー。エリックが勝つに決まってるよー!...私はー、負けちゃったけどねー?エリックなら勝てるよー!!」
「そうだよぉ?エリックが負けるなんてあり得ないんだからぁ~」
はぁ...嬉しいこと言ってくれるぜ!...余計プレッシャーが掛かってないでもないけど、まぁ悪気はないだろう。彼女らはそういうやつらだ。
...そんなところも可愛いんだけどねっ!
おっと、若干惚気が入ってしまった。いけない、集中しなくては。
「........決勝戦はアオト、か」
敢えて、厳かな声をだす。俺は気持ちの切り替えができる子だ。
「...あの男は正直未知数です。気を引き締めて相手をしないと、万が一があります。...気を付けてくださいね?」
「...そうねー。あのクソエルフの事だから法螺かと思ってたけどー........アレはヤバイわねー」
「ふうん...まぁ、エリックのほうが上でしょうけどねぇ...」
アオト、俺の幼馴染みだ。
三年前に突然旅に出ると言い、飛び出していった。...後で父さんに理由を聞いた。どうやらアオトは、ルルとサラのことが好きだったらしい。
アオトは必死にアピールしてたらしいが二人には振り向いて貰えず...いや、存在すら認めて貰えていなかった。で、認めて貰える男になるべく旅に出たらしい。
だが、俺は叶わぬ恋だと悟っていた。...もしかしたら、アオトも分かっていたのかもしれない。自分には勝ち目はない、と。
二人はことある事にアオトの悪口を言っていた。
『なにアイツぅ、キモっ』
『うわー、早く死ねばいいのにー』
最初に聞いたとき、俺は憤った。何故、幼馴染みなのにそんなに悪くいうのだ、と。
そうしたら、二人はこう答えた。
『アイツはぁ人類の害悪なんだよぉ?』
『この世界にはー、居てはいけない存在なんだよー?』
と。
二人が言っていた意味は、今でもよく分からない。でも、そのときの俺は何故かそれだけで納得してしまった。
確かに、アイツの顔は良い方ではないだろう。でも、アイツは中々気の良い奴だ。よく失敗するけれど、どこか憎めない。そんな奴だった。
あるとき...いや、10才の時だっただろうか?二人が行方不明になった。暗くなっても家に帰ってこない。焦った。初めて知人が命の危機にあっているのだ。だが、アオトは冷静だった。
アオトは家の近くに住んでいるエルフに剣を教えて貰っていた。そのためか、アイツは年に比べてどこか達観しているようだった。
アオトの動きは迅速だった。
二人の行きそうな場所をピックアップし、行動に移す。凄い。俺は初めてアオトを尊敬した。同時に羨ましいとも思った。俺にはこんなことは出来ない。...出来ないなら出来るようになればいい。俺も剣術を教えて貰おうかな...そんな場違いなことを考えていたりした。
幼馴染みが危険な状況で、だ。そんな自己中心的な考えに嫌気が差してくる。
最初に向かった場所は俺たちの秘密基地だった。...まぁ、秘密基地と言っても小さな森のそれまた小さな洞窟を勝手に秘密基地と称して遊んでいただけなのだが...
........いた。発見した。洞窟の奥で二人で抱き合って小さくなっている。ほっ、良かった。
「「エリックぅぅぅーー!!!」」
「えっ?.....うわっ!ちょっ、まっーーー」
どーん
二人に押し潰された。まだ幼いが柔らかく、そしてどこか安心するような感覚でーーーーー
ハッ!?危ない。堕ちそうだった...
チラッとアオトの方を見てみると苦虫を噛み潰したような顔をしていた。あのとき、俺はどうしたのだろうか?走ったから疲れたのだろうか?と、自分に都合の良いことを考えていたが父さんにアオトの気持ちを教えてもらった今なら分かる。
........アレは悔しい時の顔だ。唇を血が出るほど噛み、手を爪が皮膚に刺さるまで握り、どこか悲しそうな表情で地面を見つめている。彼は戦っていたのだ。己の醜い欲望と。己の愚かな感情と。
嗚呼、アオト。君はその年でどこまで人間が完成しているというのだ。よし、俺も剣術を習おう。そう、心に誓った。少しでもアオトに近づくために........
どうやら、二人はオリバー伯爵に求婚されたらしい。で、拒否って逃げたところ、追いかけて無理矢理...
巻けたから良かったものの、捕まってたらと想像すると........
うん、オリバー伯爵殺そう(笑顔)
「こんなところに居やがったか、糞ガキども!」
「へっへっへ、悪いな。これも仕事なんだよ。悪いことは言わねぇ、さっさとこっちに来たほうがいいぜぇ~」
突然、後ろから声が聞こえた。
ねっとりとした、とても気持ちの悪い声だ。
アオトの方を見る。彼はーーーーー落ち着いていた。まるで、こう来ることを予想していたみたいに。
本能的に察してしまう。
........勝てない。
俺とアオトだけなら逃げ切ることは出来るかもしれない。だが、二人を担いで逃げるとなると...無理だ。勝ち目の存在しない戦い。人はこれを“無謀”と呼ぶ。
すると隣から........
「僕がアイツらを倒す。その間に...逃げて」
どこか悲痛な表情を浮かべながら俺に告げるアオト。...無謀だ。いくら剣術を習っているからと言ってもまだ子供だ。彼もきっとそれをわかっている。だからそんなに悲しそうな顔をしているのだ。
でも、でも...それ以外に策が存在しない今、無事に逃げられる術が存在しない今。俺の悪魔が囁いた。
『ダイジョウブ。オレガソンケイシテイルアオトナラキットダイジョウブダ。サァ、ニゲヨウ。テオクレニナルマエニ!』
アオトが合図をしてくれる。俺達が安全に逃げられる瞬間に。
飛び出した。二人を担いで。死ぬ気で。必死に。俺は、俺は........見捨てたのだ。友達を、幼馴染みを、親友を。
どれくらい走っただろうか?家に着いた。
母さんが家の前で立っている。とても心配そうな顔だ。どうやら、父さん率いる街の男達はまだ探しているそうだ。
母さんが俺に何か言っている。が、それらも全て無視して自分の部屋のベットに突っ伏した。そして、責任から逃げるかのように意識を手放した。........俺達のために戦っているアオトを忘れて。
朝。
「あっ、アオト忘れてた」
俺の顔が青ざめた気がする。その勢いで急いで洞窟に向かい、アオトの生死を確認する。
いた。........おぉ、大人を殺したらしい。
流石だ。だが、アオトの出血が酷い。骨も何本か折れているようだ。
「........生きてるの?これ」
微妙なところだが、取り敢えず確認してみる。
「アオト!アオトー!!生きてるか!?大丈夫か!?」
ゆっさゆっさと体を揺すりながら反応をみる。
「アオト!アオト!」
「ふぇっ?」
おっ、生きてたな。...なんだよ?なんでそんなに目を逸らすんだよ?まぁいいや。
「やっと目が覚めたか...まったく、心配したんだぞ?」
「っあ...エリック?どうしてこんなところに?」
「どうしたもこうしたも、お前が中々帰って来ないから心配して迎えに来たんだよ」
はぁ、まったく世話が焼けるな。
「いやー、ちょっと殺し合いしてただけだよ。心配しなくて大丈夫だよ?」
「今の言葉の中に心配しなくていい要素がないとでも思っているのか?」
あれ?俺の知ってるアオトって虫も殺せないような優しい子だった気がするんだけど?違う子なの?
「とにかく、立てるか?」
「あぁ、もちろ...っ!!」
バキバキバキッ
「おいおい、大丈夫か?今スッゴい音したんだが...」
「こ、れ...体、うごかせ...そうに、ない」
「はぁ、しゃーねーなぁ...背負ってやるよ。よいしょっと」
まぁ、なんだ。俺達を守ってくれた訳だしな。これくらいしてあげないと。流石のコイツでも今は動けないだろ...いや、なんだかんだ三日後には元気になってそうだが........それなら、コイツはきっと人間じゃないだろう。何か別の生物だ。
アオトの特徴的な、濃い蒼髪がおんぶしている俺に当たってくすぐったかったが、今日はそれすらも心地が良かった。
........生きていた。アオトが。
俺はただただ、その事実が嬉しかったのだ。
さてさて、時は移り三年とちょっと。王様に呼ばれました。王様は師匠と同じエルフで、師匠よりも長生きしているらしい。
短い金の短髪が年を感じさせない。はぁ~、どんな面倒事を押し付けられるのか、今から不安である。
「...勇者エリックよ、そなたが闘技場で優勝した暁には........ウチの娘を貰ってくれぬか?」
「........................はっ?」
いきなりなんて爆弾を投下してくれたのだろうか?後ろからの殺気が半端ない。君達?分かってる?目の前にいるのは国王様だよ?
取り敢えず断っておこう。じゃないと後が怖いです。ハイ。
「あっ、あの!スミマセンが私には心に決めた女性が........」
「重婚」
「へ?」
「...この国は一夫多妻制だ」
「えぇーっと?」
「全員と結婚してしまえばいいだろう?」
おおっと、後ろからの殺気がうって変わって歓喜になった。
えぇ...俺としてはルルかサラのどちらかと結婚しようと思ってたのに........
「まぁ、なんだ。お前のところの女は怖い奴ばっかでな。もう、いっそのこと全員と結婚させちまえって........」
突然口調が軽くなる国王様。
いや、結婚させちまえって........人の人生かかってるんだよ?軽すぎない?
「いやー、ウチの娘とクラス一緒だろ?お前の事ばっかり俺に話して来てよー。ほら、俺って曲がりなりにも国王じゃん?権力の固まりじゃん?今使わないで何時使うの?今でしょっ!」
なんだかキャラおかしくない?
「...あのー、ウェンディさんの気持ちも考えましたか?」
「ーーーーでさ、えーっと...ん?ウェンディの気持ち?聞いたから今ここで提案したんだぞ?後ろの嬢ちゃん達も良いよなー!?」
コクコクコクコクコクコクコクコクコクコク
おおぅ...凄い勢いで首を縦に振ってますわ...
........あれ?逃げ道...断たれた?
「じゃー、満場一致でOKってことで!」
こうして、婚約の話が決まった。
あぁーーーーー。これ、アオトに刺されても文句言えないな...
だって................俺が嬉しいって思っちゃってるんだもん。覚悟、決めるしかないか。
だが、一つ疑問に思ったことがある。
「で?なんで闘技場なんですか?」
「...今年の闘技場は荒れるぞ?勇者エリックでももしかしたら........まっ、がんばれ。応援はしてるぞー」
と、無責任なことを言って王宮から追い出されました。
ふむ、気になるところだが...まぁいいか。こんな可愛い嫁が三人も手に入るのだ。男としてこれ程までにない幸せである。
「今年の闘技場は荒れる、ね...」
だが、そう独り言ちらずにはいられなかった。
△▼△▼△▼
........決勝、か。
アオト、俺は...お前を越えて見せる。
...お前は強くなりすぎた。これから始まるのは戦いではない。一方的な蹂躙だ。.....俺はアオトを殺す。それが俺に与えられた使命。
...あれ?俺、なんでアオトを殺すのだろうか?使命ってなんなのだろうか?まぁ、そんなことはどうでもいいか。
「覚悟、しとけよ。アオト...ッ!!」
無謀な戦いが、今始まろうとしていた。
△▼△▼△▼
「...無事、洗脳は完了したっぽいわね」
「あぁ...始めようかーーーーーーー
ーーーーーー神々の遊びを、ね」
...初めてエリック視点で書きました。
完璧イケメンである彼はアオトのことをどう思っていたのか。そんなことを書きたいなー、と思いながら書きました。
お読み頂きありがとうございました。




