40話
うぅ...時間がないです........
遅れて申し訳ない。
「うーーーん...どうしたものかね」
本当にどうしよう。エリックの家にて、盛大にお悩み中です。
えっ?何にそんな百面相してるかって?
「はぁ、闘技場...どうしよう........」
そう、闘技場の件である。
どうしよう........
本番は明日。目標ーーーいや、優勝が義務付けられてしまった。でも、優勝すればウェンディと付き合え...あれ?
「...ウェンディ本人が付き合うって言ったか?いや、言ってない。ということは........嵌められたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うるさいわよ!!」
「すみません!」
隣の部屋から初代が文句言いに来た。俺が叫んでからノータイムで。
「...もう何度目よ!流石に慣れたわよ。で?何に悩んでるのかしら?」
「えっ?」
「何よ?相談に乗ってあげるって言ってるの分からない?」
呆れ顔でやれやれ、と呟く初代。
アオトは絶賛混乱中だ。
(えっ?相談に乗ってあげる?どの口が発してんだ?初代?まさか。アイツは俺を散々貶してきた奴だ。でも、もし改心していたとしたら?確かにドラゴン狩った後辺りで態度が若干柔らかくなった気がしなくもないけど。でも、でも...“もし、初代のことを出来るのだとしたら?”...したい。誰かを...信じたい。独りはもう、嫌だ)
「まだかしら?」
「........人は信用できない。したいけど...出来ない」
「はぁ...そういうのは、理屈じゃないでしょ?そうしたいなら、そうするべきよ。自分の気持ちにまで嘘を付く必要があるというの?」
胸を打たれたような気がした。アオトは誰も信用したことがなかった。だって、信用したところで全てエリックの方へ行ってしまうから。結局全て無になる。そして、恐らくルルとサラによる情報操作により、誰一人として俺のところに帰ってこない。むしろ、俺を蔑むような視線を送ってくる。過去に何度もあったからこそ確実に言える。犯人は絶対にアイツらだ。...失うことは怖い。だから、信用しない。だれにも、背中を預けることは出来ない。
その点ウェンディは...何故か信用することが出来ない。俺は多分、ウェンディのことが好きなんだと思う。でも、心理の奥深く、本能が告げている。“あの女は危険だ”と。理性と本能が叫ぶ。共鳴し、融解し、一つになる。“それ”が俺に必死に伝えようとしている。近づけないようにしている。
でも、と。それでも俺は誰かに愛されたいんだ、と。“俺”の根本を造るナニカがその感情に支配される。この感情があるときは、そのときだけは、“生きている感じ”がする。これが生きていることなのか、と実感することが出来る。だから、だから........
「...分かりました。信じてみることにしますよ。こんな俺ですが、よろしく頼みます」
被っていたフードをとり、滅多に使用することのない表情筋を総動員してなんとかぎこちない笑みをつくる。フードをとったことが、俺にとって精一杯の誠意だ。
因みに初代に対して敬語なのは、幼い頃ひたすら体を苛めぬかれた経験により初代に頭が上がらなくなったのが原因だ。初代との鍛練...がくぶるがくぶる。
「........................」
「...おーい、初代?大丈夫ですか?」
すると、初代は苦虫を噛み潰したような顔をしながら「勿体ない...」と呟いていたが...何の話だろうか?
「まぁいい。で?何があったんだ?」
「あー、あれです。『闘技場』の件で色々ありまして...」
「まさか、優勝しないと退学しろとかか?」
「...えっ?」
なんで?何故この人がその事を知っている?
まさか...国王!お前かっ!確か、この命令事態が国王からとか校長が言ってたしな!......次会ったら取り敢えず全力で殴ろう。そうしよう。頭が吹き飛んでもいい。あの快楽犯に生まれてきたことを後悔させてやる...
「...誰に聞きました?」
「こっ、国王様だ」
「...? まあいいです。それで、俺はどうしたらいいでしょう?」
なんで言葉に詰まったか分からんが取り敢えず放置!
今はこっちの方が大事なんだよ...
「えっと、あの、あれだ。楽しめばいいんだよ」
「はぁ...」
あたふたしてる初代。...くそ、無駄に可愛いだと!?初代のクセに...初代のクセにぃ...!
「だってお前...」
初代の口角が上がる。
「戦うの...大好きだろ?」
つられて俺もついつい笑顔になる。
「えぇ...とっても」
「だったら戦え。戦士としての誇りを持って。自分のプライドを賭けて。...自分が納得出来るまで。戦え。戦って、戦って、戦え。その命が尽きるまで」
そう、俺に説教をするように淡々と告げられる。儚げに窓の外を眺める初代はとても絵になっていた。
不覚にも、綺麗だな...と思ってしまった。これが死の覚悟を決めた者の顔........遠いな。俺には、まだ。
「そして、勝て。何があっても、必ず。勝つためになら全てを捨てろ。人間としての尊厳、威厳...命そのものも。弱者は虐げられ、強者が敗者を従える。それこそ、自然の摂理。...変えられない、不変の常識ーーーーーーさて、アオト。“お前は何を捨てた?”」
「俺が...捨てた物?」
「あぁ、そうだ。お前がそこまでの強さを手にするためには絶対にナニかを捨てている。多分...それが分かったら、自ずと答えも出るだろうな」
俺が.....捨てた........物?
「まぁ、今日はそれを考えておくんだな。...じゃっ!私はもう寝るから!あんたも早く寝なさいよ!...叫ばないでよ?」
「...もう叫びませんよ。おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
バタン 木製のドアを閉める音がする。
「俺が捨てた物、ね...」
本当は、言われなくても分かっていた。...認めたく、なかった。それを認めたら、自分が自分ではなくなってしまう気がして........
「いや、もういい加減認めよう。俺は...
もう、人間じゃないってことを」
俺の身体が最適化されたあの日、異世界の【暗黒魔境】にて、俺は“人間であることを捨てた”。...すべては、勝つため。...必要な、ことだった。仕方が、なかったんだ........
そこで、俺の意識は途切れた。
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名前:アオト
年齢:19
種族:ーーー
レベル:ーーー
適正職業:ぼっち
______________________
△▼△▼△▼
「ーーーーー以上、『闘技場』の開会式を終わりにする!皆のもの!頑張って優勝を目指すのじゃ!!」
「「「おおおおおお!!!!!」」」
会場が沸く。個人的にとてもうるさいので勘弁してほしいところであるのだが...
「うーん...ウェンディがいないな.......」
さっきからウェンディを探していたのだが、全く見当たらない。ぶっちゃけ、闘技場とかどうでもいいのでウェンディと一緒に居れればそれだけでいい。まぁ、幸い俺の試合までは後30分あるのでその間に探すとしよう。
~30分後~
いない。ウェンディがどこにもいない。あっ、そういえばエリックとかもいないじゃん。...アイツらはあれだな。いるだけで目立って仕方ないからどこかの特別席にいるんだろう。ルルとかサラ、その他のハーレムメンバーも。あー、あと噂の王女様とかも?
「はぁ、羨ましいよまったく。どうして俺はいつも一人なんだ?」
まあ、フードを被った怪しい人に嬉々として近づいてくる奴も危ないとは思うけど...
『次の試合はCクラス、カヤック・ハルリ選手とDクラス、アオト選手の対決です!両選手のご入場ですっ!!』
わぁぁぁぁ!! と会場が騒がしくなる。まさに、拍手喝采!と言った感じだ。......カヤック・ハルリのところだけ。俺のサイドはどうやらとても寒そうだ。俺のサイドだけ氷点下を下回ってそうだね。向こうの熱気を分けて欲しい。
『おやぁ?アオト選手サイドは一人もいないようですが?カヤック・ハルリ選手サイドとはまるで真逆!これほど極端な試合も珍しいです!』
クスクス...と周りから嘲りの笑いが聞こえてくる。
イラッ...我慢我慢。俺は我慢が出来る子。
あれれぇ?向こうさん...中々のイケメンじゃないか。ふふふ...悪いな。君の未来は“絶望”の言葉さえ生易し........ハッ!?暗黒面に堕ちるところだった。まだカヤック・ハルリの性格がクソとは限らないからな!いい奴だったら優しく気絶させてあげるところだけど...
「ぷっ、庶民の癖に貴族である俺様と当たるからこうなるんだよ!残念だったな。ぶ さ い く!!!」
「きゃー!カヤック様ー!頑張ってー!!」
「カヤック様ー!そんなにザコ瞬殺しちゃって下さい!」
あぁ...これは駄目だ。
切れちまったよ...久々にな........
『レディー........ゴーー!!』
始まる。が、両者とも動かない。
「...どうした!?来ないのか!?」
「1秒だ」
「はっ?」
「1秒で片付けてやる」
「....ふふ、ふはは、ふははははは!貴族である俺様にそこまで減らず口を叩けるとはな!いいだろう!受けて立つ!!さぁ、来ーーーーー」
バキッ バキバキバキバキボキボキボキボキ!
大方、人間の身体が鳴ってはいけない音がカヤック・ハルリ氏の顔から流れる。
「かっ...きひゃっ...ふひゅ........」
「あっ、やっちまった...人って結構脆いんだな....」
バタン........ グラウンドの一角は静寂に包まれる。
「さて、1秒たったな。おい、どうした?受けて立ってくれるんだろ?立てよ。ほら」
“顔だけ”がボッコボコになり、至るところが陥没しており、最早誰かわからなくなったカヤック・ハルリに向けてしれっとそんな言葉をいい放つアオト。
「大部手加減したんだけどな........」
トドメの一言。この言葉を聞いた人は、流石に理解が及ばなくなっており大半の人間が放心しているか顔の造形が変わったカヤック・ハルリ氏を凝視しているかのどちらかだ。
「さぁーて、次の相手は誰かな?」
アオトが不敵に笑った次の瞬間、
「「「すみません、勘弁してください」」」
アオトの次の対戦者が、そのまた次の対戦者がそのまた........と芋づる式に可能性のある選手が音速に手を掛けるくらいの早さで土下座をしたという。
『...えぇーと、あまりの展開に正直まったく付いていけないのですが...取り敢えず、アオト選手の本選出場が決定しました!』
「ふーん、闘技場って以外と簡単な行事だったんだな」
そんなわけないだろっ! 会場の全員の意見が初めて一致した瞬間であった。
因みにアオトさん、魔法のチカラで自分の全パラメータを1/100にしていたりします。つまり、本当に手加減していた状態であれでした。手加減しないで普通に殴るだけで大抵の物は砕け散ります。チカラを抑える魔法については後程触れると思うのでこの辺りで...
お読み頂きありがとうございました。




