32話
体の謎の痛みについて考えながら、音の速さでエリック家の前まで帰還した二人のアオト。家の前まで来て“あること”に気がつく。
...俺氏、二人いるのだがどうしたらいいだろうか?
若干遅すぎる疑問のような気もするが、一先ず置いておくとして...やべぇ。どないしよう?
「...おい“黒”、どうするよ?」
「お前が分からんなら俺が分かるわけないだろ」
さも当たり前の事かのように真顔で即答する“黒”。
くっ、忘れてた。コイツ馬鹿だった...やべぇよ。「義父さん!俺、二人になったよ!」とか言っても病院に連れてかれる未来しか想像できないし......
「あれっ?俺が魔剣に戻ればいいだけなんじゃ...」
“黒”の小さな呟きを超高性能イヤーで聞き取る“白”。
「“黒”、君は天才だ。これからは参謀は君に任せるとしよう」
「ヤメロ。俺が知恵熱の出しすぎで頭がドロドロに溶けてもいいなら、俺は全然いいけどな」
知恵熱っていったい......そして頭がドロドロに溶けても復活させるので問題ない気がするが...
「......貴方達は人様の家の前で何をごちゃごちゃと言い合いをしているのですか?」
「「わっ!?......誰?」」
「それはこっちの台詞です。貴方達はこの家に何かご用がおありでしょうか?それとも嫌がらせの類いでしょうか?それなら残念でしたね。この、パーフェクトメイドことライムが相手をしてあげましょう」
...はて? エリックの家、メイドなんか雇ったんだ。
ん?この生体反応は...
「ねぇ、君ってもしかして吸血鬼だったりする?」
「......ほう。貴方達、可愛い顔して裏の方の人ですか。ですが、私は裏の顔は足を洗った身。今の私はパーフェクトメイドのライムとしてエリック様に使わせてもらっています。もしも、裏でのことを掘り返すようでしたら...」
おっと、なんだか話が変な方向に逸れていってるぞ?ねぇ、なんでこの人魔力を集め始めたのかな?ちょっと、それ危なくない?大丈夫?
「なぁ...俺は帰ってきただけだから、とくに敵対する理由はないと思うよ?」
「問答無用っ!喰らえっ!『真.闇魔法:悪夢』!!」
なんでエリックの周りの女達は人の話聞かないかなぁ...?
おっ、この魔法。俺が町でチンピラに使ったやつじゃん。どうしよ、喰らってあげようかな~?同じ闇魔法使いとして、この人には是非とも精進してほしい限りである。よし、喰らってあげよう。そんで、この技の弱点と応用を......
「ハッ!!こんな技、俺にぁ効かないぜっ!!」
そんなことを叫びながら『悪夢』を刀で真っ二つに切る“黒”。
oh...折角考えてた闇魔法講座が無駄になっちゃったよ...ってか、よくよく考えると魔剣(人化ver)が刀を持つってなんか変だな。まっ、細かいことは気にしないでいいかね。
「なっ!?私の魔法が二つに...!?」
「おいおいネーチャンよ、ぼけっーとしてていいのかよっ!」
「ッ!!!」
パーフェクトメイド、咄嗟に懐からナイフを取りだし“黒”の斬撃に対応する。俺だから目で追うことが出来るが、普通の町人なら全く見えないであろう速度の剣撃の応酬が行われている。
ああ~、“黒”楽しそうだなぁ...ちょっとだけ混ざろうかな...ウズウズ...ウズウズ...
「おいっ!!なにやってるんだ!!」
『魔法創造:滅びの...』...ふぇっ!?......おっと、勇者様のお帰りのようだ。うまい具合にライムさんの気が逸れてくれた。今のうちに“黒”は回収させてもらおう。
「強制人化解除」(ボソッ)
よしよし、回収成功!さて、向こうではどんな会話をしてるかな?
「-----いえ、ですから、この家に帰ってきたと言っている変な輩が来たものですから...」
「だから、どうしたらすぐ戦闘に発展するのさ!?アイルギアに着いて、レーダー使ったらうちの前で戦闘しているマークがあったから皆を置いてすっ飛んで来たんだからね!?」
「いえ、怪しかったのでついうっかり...」
おいおい、うっかりで人殺そうとしたのかよ。ここのメイド、戦闘民族すぎんだろ...
「うん?まてよ?...帰ってきたと言ったか?」
「えぇ。だから変な輩が帰ってきただけだ、と仰っているので殺そうかと」
「えーと、そこの黒マントの人~。...もしかしてアオト?」
勇者様、やっと気づいてくれたっぽい。
フードを取って微笑みながらエリックの方に向く。
「あぁ。さっきぶりだね。エリック」
......ん?どうしたんだろう?二人とも鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔しちゃって。
「おーい、どうした?」
「...ハッ!?い、いや。なんでもない。さっきぶりだな。アオト」
「...エリック。吐きなさい!?どこで拾ってきたの!?」
拾ってきたて...俺は猫か犬じゃないんだぞ?...存在価値はそれ以下かも知れないが...
「エリックぅ~!大丈夫だったぁ~!?」
あっ、皆帰ってきた。フード被っとこ。
「あらー?その人はどちら様でー?」
「あ、あぁ...アオトだ」
「? どうしたのよー、エリックー?歯切れが悪いじゃないのよー」
本当にどうしたのだろうか?...もしかして俺になにか...思い当たる節が多すぎて絞ることが出来ないな。顔とか顔とか顔とか?
「取り敢えず家に入ろうか。アオトの歓迎会だ!」
「...失礼ですがエリック様、そちらの方とはどういう関係で?」
「あれっ?前に言わなかったっけ?幼馴染みがもう一人いて、今旅に出てるって...」
「あぁ。その方でしたか...あっ、後もう一人の黒髪の方がいないのですが...」
「黒髪?アオトー!誰それ!?」
あー、説明すんの面倒だし自分でやって貰うか...えっと、人化っと...
ボンッ
「話は聞いたぞっ!お前が勇者だな!是非俺と一対一を...」
「アホか。ほれ、自己紹介しろ」
アホには拳骨をプレゼントしてくれた。カッとなって計画的にやった。後悔も反省もしてない。
“黒”が睨んでいるが必殺のスルースキルを発動する。
「なんだ?もう一発いるか?」
「こんにちは!“黒”って言います!よろしくお願いします!ってことで勇者と一対一を...」
「よし、二発目いっとくか?」
「しようと思ったけどこのあと予定が立て込んでるので失礼しますっ!」
ボンッ
逃げた。まったく、忙しい奴だな。
「い、今のは...」
「“黒”だ。俺の魔剣に入ってる。基本的には人化してるが、移動が面倒な時とかはよく剣に戻ってる。えーと...仲良くしてやってくれ」
どうだろうか?女性陣の反応は...
「今の子可愛くない!?」
「そうねぇ...でも所持者がアレだから...」
「可愛かったねー!でも所持者が...」
「..................」
反応はまちまちだが、基本的に俺を貶す方向性のようだ。初代に至っては無言だ。
順番にマリー➡サラ➡ルル➡初代 だ。
「きっとクロちゃんが抵抗出来ないのをいいことに、あんなことやこんなことを...」
「うわぁ...確かにやってそうねぇ...」
「最低ー。解放してあげなくちゃー!」
「..................」
oh...いったい俺の評価はどこまで低いのかな?あれっ?ライムさんの俺への目付きがゴミを見る時のような目付きに変わっていくのですが、いったい......
「...エリック様、追い出しましょう」
「馬鹿言うな。アオトがそんなことする訳ないだろ。そもそも、そんなことする勇気がないよ。アオトには」
あるぇ?エリック君の評価も中々辛辣だぞぉ?
「ハッ!こんな美少女達を侍らせながら未だ誰一人として手を出してないご主人様が言えることですかね?」
おっ、まだ手を出してないのか...って、余計なお世話か...
「そうだよ!エリックお兄ちゃん!何時になったら夜の相手をしてくれるのさっ!?」
「あらあらぁ~マリーにはまだ早いわよぉ。...初めては私が貰うんだからぁ」
「添い寝は毎日やってるのにねー。本当に何時になったら手を出してくれるのかなー?」
「.........はっ!?わ、私も...いいんだぞっ!?」
そっ、添い寝...だと!?それも美少女と...俺なんてたまにゴブ達の死体と添い寝をしたりしていたのに...ちっ、リア充なんて爆発すればいいんだ...
俺の恨めしそうな視線に気がついたエリックは、赤面しながら大声で、
「はっ、早く家に入るぞ!そして、外でなんてこと言うんだ!!...そういうのは、せめて家の中だけにしてくれ...」
「「「「「はーい」」」」」
羨ましいなぁ...多分だけど、アイツら毎日こんな感じなんだろ?なんでなの?顔なの?性格なの?...適正職業なの?
「...アオト。これからもよろしくな」
「...うん」
俺は、沈んだ声を出すのが精一杯だった。
残酷な現実にうちひしがれながらも、美少女達と一つ屋根の下の生活を送ることになった。
...あれっ?義父さんと義母さんどこいった?
ついでに言うと、美少女達の家はどうなったのだろうか...
不可解な、それでいて妙に頭に引っ掛かる疑問を頭に残したまま。ただ、イタズラに時間だけが過ぎていく.........
お読み頂きありがとうございました。




