26話
さて、下準備は済んだ。後は、この世界に“アオト”という名前を響かせるだけの単純な作業だ。そう、“作業”なのだ。こんなこと、森でのゴブ達との戦闘(蹂躙)に比べたら屁でもない。...よく考えたらあれも作業だった気が...いや、気のせいだろう。
...俺の目的は、勇者パーティーに潜り込むこと。そして幼馴染み達を死なせないこと。ぶっちゃけ、手段を選ばなくていいなら向こうの世界と同じように国王達の記憶を少しばかり弄ればいいのだが、今回はしない方向で行く。罪悪感がスゴいんだよね...なので却下だ。
何?向こうと同じように魔王殺しちゃえばいいって?バッカ!俺が独りで討伐して何になるんだよ!?そりゃー色んな人に尊敬とかされるだろうけどさ...正直、可愛い女の子がいないとポテンシャル上がらないって言うかー、そのー......これ以上ぼっちは勘弁してください。流石に彼女の一人や二人は欲しいです。希望は、ルルかサラでお願いします。
なんやかんやで、今向かってるのは町です。あっ、アイルギアではないです。違う町です。目的は...ずばり!冒険者ギルド!のんびり向かいますよぉ。
『なぁ“白”?』
「んぁ!?...どうした?」
いきなり話しかけられたから若干びびった。
『お前、いつの間に体術なんて極めてたんだ?』
「...お前が剣術を奪ったから接近戦対処できないんだよ。そんで、どうせ極めるならお前も極めてない体術でいいやって思ってね」
『体術でいいやって......そんなに軽々とひとつの分野を極めていいのか?それにしてもいつの間に...』
「おい...まさか忘れてないよな?面倒事全部俺に押し付けておいてよ...」
『ハッ!?...まさか俺が冬眠している3ヶ月の間に...』
“白”のこめかみに青筋がうっすらと浮かび上がる。
「そうだよっ!お前が寝てた時間にやってたんだよ!!森に帰って一人でゴブやら蜥蜴やら延々と素手で狩り続けること3ヶ月......俺の苦労が分かるかっ!?あのアホ共、ろくに寝る暇も与えないで群れになって襲って来やがって...なんか腹立ってきたな。もう一回戻って狩りに行くか?いやでも......ブツブツ」
“黒”は悟った。あっ、これもう手遅れなやつや。下手に触らんどこ、と。そして、このままだと自分に飛び火しかねないと考え、露骨に話題を変える。
『よ、よし!“白”!冒険者ギルドへ行こうじゃないか!時間は有限だぞ!!』
「...ブツブツ...あぁ?それもそうだな。取り敢えず行くか。チッ。ゴブ共、覚えとけよ...」
“白”は邪神を倒した後の3ヶ月間ろくに睡眠を取ってないため、相当荒れている。まさに触るな!危険!である。だが、対価として体術を極められたので本人は特にどうこうしようとは思ってない。...らしい。もっとも、いつかまた向こうの世界へ行ったときは【暗黒魔境】の魔物の全滅は必須だろうが...
『で、俺は何処へ向かってるんだ?』
「えぇーと、確か“ファルカオ”って町だね。ここは、実力至上主義だから強ければ問題ないらしい。俺にはぴったりだな」
ってな訳で...
「『のんびり行きますか』」
△▼△▼△▼
「おぉ...ここが」
『冒険者の町、“ファルカオ”か...』
野宿をしながらのんびりまったり歩いてきたアオト。そこに現れたのは見る限りだと、相当な硬さを誇るであろう巨大な“壁”だった。
どうやらこの壁を通るためには検問を受けるらしい。検問を受ける列がズラーーっと並んでいる。取り敢えず並ぶアオト。並んでいる人は大体商人か、冒険者だ。この町が相当賑わっていることは列の人数から予想できる。
『なぁ、後何分掛かるんだ?コレ...』
「さぁ、門番が身分証だけ確認して通してるならそんなに掛からないと思うけど」
目測だけで100人は越えるであろう長蛇の列を見て、思わず呟く“黒”。“白”はこのくらい予想していたらしく、あまり動揺していないようだ。
一時間後、漸く自分の番になったアオトはうんざりした顔のまま検問を受ける。
「身分証を提示しろ」
「身分証ですか...スミマセン。自分、なにせド田舎から来たので身分証の類いは持ってないのです...」
ふむ、と考え込む門番。
「貴様、出身は何処だ」
「はい、“モスマリ”です」
“モスマリ”は、ヤバイほど田舎!って訳でもなく、「ヤバイほど田舎!」と「うん、めっちゃ田舎だね」くらいの中間の町だ。因みにそこの町はジジババしかいなくて大変退屈である。
「なるほどモスマリか...長旅、お疲れ様だったな。入ってよし!」
「ありがとうございます」
ごめんな門番、単に面倒だったから身分証取ってなかっただけなんだ...と、心の中で謝るアオト。謝るくらいなら身分証取っとけよ!と思うが、コレがアオトクオリティーである。
△▼△▼△▼
ファルカオの中をギルドを探しながら散策していると、なにやら人垣があるじゃないか。気になって野次馬の中に入ってみる。...どうやら、イケメンが侍らせていた何人かの女を野蛮な男がナンパしたらしい。それを断った女に怒った男が剣を抜いて、問題になっているらしい。
アオトは勿論男の味方である。イケメン滅ぶべし!
「おいおい、何の騒ぎだよこりゃ」
「...あっ、“エリック”!」
「ちょっとぉ...助けてよぉ“エリック”ぅ...」
「あぁもう鬱陶しい!全員蹴散らすわよ!...ところで“エリック”!このあとお茶しないかしら?」
「あ、“エリック”お兄ちゃん。大変だよ!変な男の人が暴力振るってくる!」
......あるぇ?なんか見覚えのある声と名前がするなぁ...特に“エリック”とか言う野郎には覚えがあるのだけども...
すると、見覚えのある女達の中心にイケメンが入っていった。そして...
「......どういう状況かな?」
全方位に殺意をばらまく。まるで「俺の女に手を出したら...分かるな?」と言外に言っているようだ。ってか、また人増えたの!?俺が孤独に苦しんでたときに“エリック”なる人物は美少女or美女とイチャイチャしてた訳か...
ふむ、有罪だ。実に不愉快である。これが持つものと持たぬものの違い...
(チックショーー!!この借りは1年後に必ず返すからな!)
なんとも三下っぽい台詞を心の中で叫びながらギルドへ向かうアオト。
......背後からの視線に気がつかないまま。
△▼△▼△▼
ギルドに入るアオト。入口を開けた瞬間にギルド内にいた人の視線が一斉にアオトに向く。その視線はアオトを値踏みしているようで非常に不快である。エリックの件も合わさり、機嫌は最悪に悪い。
こうなりゃ俺も全方位に殺気飛ばしてみるか?と、考えていたが目立ちそうなのでやめといた。
スタスタと受付に向かう。受付は5つあり、5つ中3つが美人受付嬢であるがギルドの古参方に文句を言われそうなため、男性の受付へ進む。
「あの~」
「いらっしゃいませ、何のご用でしょうか?」
ハキハキと元気にしゃべる受付のお兄さん。自分を選んでくれたのが嬉しいのだろうか。
「...冒険者登録したいのですが」
「失礼ですがお年は?」
「19です」
「えっ!?」
おい受付、えっ!?とはなんだ。本当に失礼だな。
アオトは忘れている。自分の体が“最適化”されたため、どう考えても19才には見えない体型、顔つきをしていることを。
「...スミマセンが、ステータスを見せてもらっても?」
「どうぞ」
糞勇者パーティーに見せたステータスの使い回しです。
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名前:アオト
年齢:19
レベル:53
適正職業:暗殺者
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年齢だけは弄ってないから変える必要ありませんでした。
受付さん、ステータスと俺の顔を行ったり来たり行ったり来たりしてる。そして漸く口を開く。
「...貴女、いえ、貴方男だったんですね」
「どう言うことだコラ。喧嘩売ってんのか?」
「いえいえ、それでは冒険者カードの発行をいたします」
「...あぁ頼んだ」
「暫しお待ち下さい」
こうしてアオトは冒険者カードを獲得した。受付のお兄さんは冒険者ギルドについて、つらつら語っていたが意識的に聞き流しておいた。
「では改めて...冒険者ギルド、ファルカオ支部へようこそ!」
「...短い間よろしくな。それと、魔物の素材を換金する場所ってどこか分かるか?」
「一番端の受付で出来ます。他にご用は?」
「ない。世話になったな」
「いえいえ、ご利用ありがとうございました」
この後、アオトは【次元の裂け目】からもって帰ってきた魔物の素材等を換金して、一気にSランクに上がったりするのだが、それはまた別のお話である。
お読み頂きありがとうございました。




