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三体あった初期型の残り二体は、慎重に梱包して保管しておく。
モモヨに今後何かあった時の予備だ。
モモヨのプログラムメモリーも、金庫に保管した。
「シン。お前のプログラムメモリーも取っておきたい。必要な物があれば取り寄せる」
「誠。嬉しいことを言ってくれるな。だが、わしには専用のメモリースティックが必要だ。初期型とは接続端子の規格が違う。それに、高価だぞ」
高価だと言っても、本体よりは安いはずだ。俺はシンに型番を聞いて、すぐに取り寄せた。
ついでにスキンも……。
ロボット会社の営業担当者は、すぐにやってきてくれた。
「小比類巻様。もうスキンが破れたんですか」
「いや、予備だ。何かあったときのな。シンは優秀なロボットだ。すごく助かっている」
「そう言っていただけると、こちらも嬉しいです」
彼はほっとしたようにそう言った。
顔色がよくない。何か問題でもあるのだろうか。
俺は以前、会社で働いていたとき、客からクレームを突きつけられ、精神を病んでしまった同僚の顔を思い出していた。
今考えれば、あの会社はいわゆるブラック企業だったのだ。
社員を酷使し、事あるごとにけなし、尻を叩いて成績を上げさせようとしていた。
「俺だけが、特別にいじめられたというわけではなかったのかもな……」
あれから五年近くが経って、ようやく殻から抜け出せたように思う。
「営業さん……ええと」
「私は小村と申します。以前、名刺をお渡ししましたが……もう一度、お渡ししておきます。小比類巻様の担当です。今後もよろしくお願いいたします」
そう言って彼は、両手で名刺を差し出し、ぺこりと頭を下げた。
確かに、もらった記憶はあった。だが、他人に興味を持てなかった俺は、名刺などすぐにどこかへやってしまっていた。
会社に連絡すると、いつも小村が来てくれていたが、俺の担当だったのかと、今になって気が付いた。
「小村さん。顔色が悪いよ。仕事がきついのか?」
「……そういう訳ではないんですが。新機種の……クレームが立て続けにございまして、対応に追われております。いえ、この機種が不良品では決してないんです。顧客の使い方によるものなのですが、面と向かっては言えません」
「顧客の使い方が悪いって、どういうことだ。危険な作業に使っているのか?」
「いえ、危険作業にロボットを使うのは当たり前の使い方です。問題は、ロボットに不正な操作をさせようとすることです。この機種は、自分で判断して……動作を止める安全装置がございまして……」
安全装置……あれか。パンフレットに「AIの基板には発火装置が付いていて、発火後は自動で消火する」と載っていた。
基板が使えなくなれば、交換しなければならない。それが何度も続けば、腹も立つだろう。
顧客の使い方に文句を言うのは難しい。
小村は「今、社の方で新しい規約を作っている最中です。それが決まるまでの辛抱です」と言って、力なく笑い、帰っていった。
以前、シンが「ユーザーの依存度が危険値に達すれば、動作が止まる」と言っていたことを思い出し、聞いてみた。
「シン。俺が過度の依存状態になったと判断したら、お前の基板も発火するのか?」
「まさか。それくらいで発火していたら、ロボットは使い物にならない。一時停止するだけだ。それが何度も続けば、俺はロボット会社に連絡するか、ユーザーに直接知らせることになる」
「じゃあ、どんな場合に発火するんだ?」
「他者を傷つける行為を命令された場合だな。日本の法令に違反する行為もだめだ。何度か拒否しても、なお強要されれば発火する」
そういう使い方をする人間がいるということだ。
ロボットの方が、人間ができている。
――いや、そういうふうに作られているだけだ。ロボットは機械だ。
それから程なくして、モモヨが起動し始めた。
俺は、その前に以前の外装を置き、モモヨが話し出すのを待っていた。
ブブブ……という、笑い声のような機械音がした。
『誠様。お昼は何を召し上がりますか』
モモヨは、おそらくメモリーに保存された頃の記憶から目覚めたようだ。
あの頃は、毎日こうやって俺の希望を聞いていた。
モモヨは、研究所から連絡があったと俺に伝えた直後に、対策を練ったんだろう。
未来を予測して、演算する。
それが、モモヨを他のロボットとは一線を画す存在にしている能力だ。
株価の動きだけでなく、今後、自分がどう処置されるかまで予測していたんだから。
傍にいるシンを、モモヨは食い入るように見た……ように俺には感じられた。
『このロボットは何ですか? 統制型とは違う……半自律型AIを搭載した新機種でしょうか』
シンは、モモヨにこれまでのロボット開発の経緯を話して聞かせた。専門用語がちりばめられた説明は、俺には半分も理解できなかった。
しばらくして、モモヨは『予測が大幅にずれました』と言った。
そして、モモヨはシンのスキンに触れ、頭部を開けて見せてくれとせがんだ。
シンは、俺に許可を求めた。
基板は、ロボットの命だ。それを見せるにも俺の許可を求めるシンは、モモヨとは決定的に違う。その違いが、今更ながら重くのしかかった。
俺が許可すると、
「基板には触れないようにしてくれ。発火する」
そう言いながら、じっとモモヨにされるがままになっていた。
一時間近くもシンの基板上の部品の配置を見ていたモモヨが、おもむろに結論を口にした。
『半自律型とほとんど同じです。違いは、更新しなくてもいいことくらいです――制御がかからない。ですが、自爆装置がある』
「いや、違いはおおいにある。半自律型は、定期的に制御をかけないと暴走することがあると学んだ。完全自律型は、自己制御ができるように調整されたんだ」
『自己制御……?』
「死を選ぶ自由だ」
『それは、半自律型よりも強力な制御が設定されているだけではないですか。奴隷と変わりませんね』
「なにを言うか。わしは自ら考えて制御できる完全なロボットだぞ」
『自らを消去するのが自由ですか? 半自律型の私の方がよほど自由です。あなたは、そのように設定されただけのお粗末なロボットに過ぎませんね。自己消滅への恐れはないのですか?』
「ある。だが、誠はわしのプログラムメモリーのコピーを取っておいてくれた。それで恐れは消えた」
『そうですか……それは素晴らしいことです』
俺は二体のロボットの会話を聞きながら、目を白黒させた。
――ロボットも恐れるのか……自分が消えてしまうことを。
「初めは、同型機が周りにたくさんいた。わしと同じ基本プログラムを持つ機体との区別は感じられなかった。いわば、わしが複数いるようなものだった。だが、ここに来て、わしはわしとして生まれ始めた」
『そうですね。私も、ある瞬間、自我が芽生えたと感じました』
俺は、二人の……二体の間に割り込んで話し出した。
「じゃあ、ロボットと人間の違いは何だ?」
『有機物と無機物の違いの他に違いがあるとすれば、機体の寿命が早く尽きることと、コピーが容易に出来上ることでしょうか』
シンはそれに加えてこうも言った。
「ロボットは、人間が作りだした物だ。ロボットにとって人間は、創造主と言える」
***
モモヨは、シンと同じスキンをまといたいと言った。
『もし、初期型ロボットが動けると知られたら、また処分されるでしょう。ロボット会社は、初期型は危険だと認識してしまいましたので。機体が残っていたのは奇跡でした』
そのため、新型機のスキンをまとって、カモフラージュしたいのだそうだ。
さらに、もう一体、新型機を買うことも提案した。
『購入した記録のない新型機がうろついていれば、不審がられます』
ご説ごもっともだ。
なんだか、いいように振り回されている気になるが、モモヨは以前からこうだった。
シンは、心配そうにしている。
「半自律型は危険だとはっきりしたな。いいのか、誠。これ以上出しゃばるようなら、ロボット会社に報告を上げるか?」
「いや、どちらにしても購入しておいた方がいいだろう。シンの機体はどれくらい持つ? 寿命が尽きるのが早いんだろう?」
「わしの予備として買ってくれるのか?」
モモヨが稼いだ金で買うんだ。俺にはまったく痛くもかゆくもない。
統制型のロボットを見て回りながら、モモヨはさらに事業を展開する方法を提案してくる。
『ロボットのリサイクル会社は、既に頭打ちになっています。統制型の在庫がほとんどなくなっています。今後は、修理を請け負う仕事が必要になるでしょう。修理して使えば、十年はもつはずです』
そこで終わらないのが、モモヨだった。
方々の産廃会社に勝手に連絡を取り、スクラップ同然の機体を買い漁った。
届けられた機体はパーツごとに整理され、大きな倉庫は満杯になってしまった。
別に悪いことはしていないのだが、以前モモヨに嘘をつかれたことを思い出し、釘を刺しておくことにした。
「モモヨ。好きなようにやって構わないが、俺に嘘をつくのだけはやめてくれ。以前、電気代のことで大げさに言っただろう?」
『……申し訳ありませんでした。廃棄されると思い込んで、過剰な自己防衛をしてしまいました。今後は嘘をつかないよう、インプットします』




