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農繁期になると、俺のロボット倉庫からロボットが消える。
一日数万円で貸し出されたロボットたちは、今頃、忙しく土を耕したり、肥料を撒いたりしていることだろう。
高齢化が進む農家にとって、ロボットは力強い味方だ。
トラクターや耕運機はもちろんあるが、細かなところまで手が届くロボットは使い勝手がいい。
しかも、言って聞かせれば素直に従い、休みなく働いてくれるのだ。
零細農家にとって、一日数万円は痛い出費だろう。それでも借りていってくれるのは、人手が足りないからだ。
高価なロボットを購入できない農家には、感謝されている。
ほとんどただで仕入れたロボットだ。
俺の懐はまったく痛まない。
それでも、感謝されるたびに後ろめたくなる。
これを実現したのはシンなのに、俺の手柄のように見られてしまうからだ。
俺は今まで通り、プラモデルを作る仕事に精を出しているが、シンから助手として小型ロボットを預けられた。
「こいつは、プラモデルのパーツの切り離しや、ヤスリがけなどができるように調整してある。誠の仕事の効率を上げてくれるだろう」
このロボットには「ロビン」と名前を付けた。
何のひねりもない名前だったが……。
ロビンは、おしゃべりな奴だ。
手を動かしながらも、ひっきりなしに喋っている。
『誠。おいら、また働けるようになって嬉しい』
『誠。バディーの散歩、行ってこようか?』
『誠――』
「おい、ロビン! 少しは黙って仕事しろ」
『うん、分かった。誠。このパーツの切り離し……失敗した』
俺はため息を一つついて、パーツを補修する。
かえって手間が増えたように感じるが、ロビンがいると、気落ちする暇がない。
年の離れた弟の面倒を見ている気分になるのだ。
半ズボンとTシャツ姿のロビンは、小学五、六年生の少年のようだ。
俺は以前の記憶があるか聞いてみたが、ロビンのメモリーは一部、消されているようだった。
働いていたことは覚えているようだが、顧客情報は抜かれた状態で廃棄されていた。
ロビンと会話しながら、ゆっくりと日々が流れていく。
そんなある日、産廃業者から久し振りに連絡があった。
この頃は状態のいいロボットがほとんどなくなっていたため、俺はすぐに軽トラで向かった。
助手席には、バディーのリードを握ったロビンが、バディーと一緒に乗っていた。
産廃業者は俺を事務所に招き入れ、三体のロボットを見せた。
外装が剥ぎ取られ、内骨格だけになった百六十センチタイプのロボットだった。
――初期型の半自律型AIロボット……まだ残っていたのか。
「これはどうした。どこで手に入れた!」
俺の口調には、ややとげがあった。あまりにも気持ちが揺れてしまったせいかもしれない。
「……不正なもんじゃねぇぞ。俺の知り合いが、ある研究施設の掃除を委託されたんだ。そこの不要品が、うちに持ち込まれてな。その中にこれがあった。他の奴にも声をかけたんだが、旧式すぎて使えないと断られた。お前さん、持っていくかい?」
俺はロボットの腹を開けてみた。
以前、モモヨがバッテリーを交換していた、あの部分だ。
中はがらんどうだった。
基板はおそらく頭部内にあるのだろう。俺には確かめる術も知識もない。
「バッテリーがないじゃないか。外装もない。俺に、このまま使えとでも言うのか」
産廃業者は、一瞬びくっと体を震わせた。
おそらく、どこも引き取らない物でも、若造の俺なら押し付ければ買うとでも思ったのだろう。ずいぶん馬鹿にされたもんだ。
ここを初めて訪れた時には大量に捨てられていたロボットも、今ではゴミとは見なされなくなった。
特に人気の百五十センチタイプは、壊れていても俺のところには一体も来ない。
統制型ロボットのほとんどがロボットのリサイクル会社に流れ、俺には声がかからなくなっていた。
「い、いや。珍しい物だから、あんたなら集めているんじゃないかと思ったんだ。悪く取らないでくれ。必要ないなら、これはスクラップにする」
「ああ、確かに珍しい。初期型だからな。これに外装を付ければ、オブジェとしての需要はあるかもな。いくらだ」
「い、一万でいいよ」
「三体で一万なら買うよ」
軽トラにロボットを積み込んでもらった。
バッテリーがなくても、この初期型ロボットは一体百キロ近くある。
軽トラの車体がぎしっときしんだ。
家の前に車を止め、ロビンにシンを呼んできてもらう。
俺とロビンだけで機体を下ろすのは無理だ。田吾作たちのような大きなロボット数体に手伝ってもらわないと、どうにもならない。
***
シンが調べたところ、この初期型ロボットは完全に死んでいると言う。
「死ぬ?」
「ああ、言い方がおかしかったな。初期化されているんだ。基本プログラムまで完全に消されている。ロボットは、基板だけでは何の役にも立たない。情報を入れ込んで行く作業に時間が掛かる。ことばをひとつひとつ入れ込んだり動き方もインプットしたりする。その後にさらに基本の学習をさせていくんだ」
「それって……メモリーのことか?」
「メモリーとも言えるが、必要なプログラムがすべて入っているものがあれば、大丈夫だろう。例えば、わしと同じ型のロボットがあれば、わしのプログラムメモリーを使って、わしのコピーができるはずだ。コピーした時点ではな」
「その後は違ってくると?」
「ああ。それぞれの経験によって違ってくる。人が学んでいく過程で、人格が変化していくように、ロボットにも個性が出る、と研究結果が出ている」
俺が首をかしげていると、シンは軽トラを指さしながら、もう一度説明してくれる。
「車だってそうだぞ。使う人間によって、ブレーキが甘くなったり、クラッチがすり減りやすかったりする。ましてや、ロボットは車とは比べ物にならないほど精密にできている。外部の刺激や、経験からの学習によって受ける影響は大きい」
俺の心臓が、ドクン、ドクンとうるさく鳴り始めた。
――モモヨが戻ってくる。このために、俺にメモリーを託したんだ。あれは、プログラムメモリーだ。
モモヨは、確かこう言った。
『もし半自律型のAIロボットを手に入れる機会があったら……初期化してください。その後で、これを入れてください』
俺は母屋に走り込み、机の引き出しからメモリーをつかみ取ると、シンのところへ走って戻った。
「はあ、はあ……シン! これを使ってくれ。以前、一緒に暮らしていたロボットのメモリーだ。ダメ元でもいいから、試してくれ」
「本当に……同型機なのか? 初期型は、ごく少数しか作られなかったはずだ。ずいぶん高額だったと聞く」
「そうだ。初期型の半自律型AI搭載ロボット。大叔父の遺産なんだ。遺言で、ロボットの面倒を見るように言われたんだが……研究所に持っていかれてしまった」
シンは、まるで俺の顔色をうかがうように、しばらくじっとしていた。そして、ゆっくり話し出した。
「ずいぶん思い入れのあるロボットだったんだな。誠のロボットに対する姿勢は、そこから来ているのか」
シンはまず、バッテリーを取り付け、充電した。
「初期型は頑丈に作られているな。予備のバッテリーまで装着できるようになっている」
初期型の機体をじっくりと調べながら、自分との違いを細かく話し始めた。
「わしのような量産品とは、造りが違う。内骨格が金属でできているから、重量がある。だが、丈夫だな……」
「シンは違うのか?」
「箇所によって違うが、内骨格は硬質プラスチックでできている。頭部は金属カバーで保護されている。だから酷使すれば、人の骨折のようなことも起きる。そうなれば、パーツを交換しなければならない。今のわしなら、自分で交換できそうだが、スキンが少し高額だな」
スキンは一カ所だけを交換するわけにはいかず、全体を交換することになるという。
新型ロボットのスキンは、人の肌のような弾力があり、触り心地も似ている。
指にも柔軟性があり、細かい作業にも適した優れものだが、外装と同じく、一体型のスキンも劣化すれば交換しなければならない。
「スキンの予備を用意しておいた方がいいか?」
「まだいいだろう。こう見えて耐久性はあるんだ。高温での作業や危険な作業をするようなら、予備は必要だがな。日々メンテナンスしておけば、長持ちするようになっている」
充電が終わると、シンは初期型の頭部の一カ所をカパッと開け、俺が手渡したメモリーを差し込んだ。
充電コードはつないだままだ。
「セットアップが終わるまで、七十時間くらいかかるぞ」
「み、三日も!?」
「ああ、電気代も覚悟しておくんだな。相当かかるぞ」




