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シンは、俺のプラモデル作りにも興味を示した。
だから、パーツの切り離しや組み立てをやらせてみた。
なんでも器用にこなすシンだったが、彩色だけは任せていない。
これは俺の感性で色を乗せるため、教えようがなかった。
だが、俺の作品と同じ物を作らせると、遜色のない物が出来上がる。
「すごいな。この分なら、俺の仕事がなくなるよ」
「いや、そんなことはないぞ。誠の仕事はいいと思う。顧客は少ないが、ニッチな需要がある。目の付け所がいいんだな」
まるで人間と話しているような気分になる。
違和感がまったくない。
以前の統制型は、わざと人間を依存させないような仕様になっていたが、これはどういうことなのか。
依存してしまいそうな自分が、ここにいる。
そもそも、依存とはどういうことだろう。
人間は生きていれば、他人を頼るのが当たり前だ。人は一人では生きていけないと、ドラマでは言っているくせに、ロボット相手だと、依存は危険なことのように扱われていた。
「シン。お前の設定では、人間との距離感はどうなっている? 人間が依存してしまうのを防ぐ対策は取られているのか?」
「いや、依存というワードに特別な禁忌はないぞ」
しばらくじっとしてから、シンはもう一度答えた。
「……誠は、依存の危険値を超えてはいないな。俺の助言を断れるし、自分で判断して行動している。頼っていること自体は、問題じゃない」
危険値?
「お前にそれを判断する機能があるのか。じゃあ、危険値に人間が達したらどうなる」
「ロボットは一時停止する。それだけだ。そもそもロボットは、人間の助けになるように作られた。すべてを依存と捉えれば、役に立てなくなると思わないか?」
確かにそうだな。
今は、ロボット製作会社自体が方向性を変えたのかもしれない。
依存というワードが、以前ほど設定上で重視されなくなったのには、それなりの理由があるのだろう。
だが、俺にはいくら考えても、その理由を推測できない。
ただ、AIが人間の主体性を奪うようになれば、危険なのではないか。
それは、人間側ではなく、AI側の設定の不備なのではないのか?
以前、モモヨがしていたことが、俺の脳裏をかすめた。
モモヨは、何でも先回りして問題を俺の周りから排除していた。
まるで過保護な母親のように。
だが、その恩恵を受けたのは確かだ。
引きこもりがちで、人と面と向かうことを恐れていた俺のために、俺に合った仕事をお膳立てしてくれた。
モモヨが問題のあるロボットだとは……考えたくない。
引き出しにしまってあるモモヨのメモリーは、モモヨなのか。
――それとも、あれはただの記憶の一部に過ぎないのだろうか。
***
その年も終わり、シンは、そろそろ産廃業者に連絡する頃だと言った。
廃棄されたロボットを早めに引き取らないと、雨ざらしになって劣化が進む。
俺は軽トラを運転して、いそいそと業者のもとへ向かった。
産業廃棄物として山積みにされた大量の統制型ロボット。その無残な姿には、目を覆うものがあった。
俺は、プラモに思いを込めて作り上げる仕事柄、人型の廃棄物には特に心を揺さぶられるようだった。
「一山十万でどうだ?」
産廃業者が、俺に値段を提示してきた。
これに関してシンは、前もって俺に入れ知恵をしていた。
『運んでくれる条件なら、一山十五万までは許容範囲だ』
だから俺は、こう持ちかけた。
「二山買う。だが、俺の家まで運んでくれるのが条件だ」
これを処分するには、莫大な費用がかかる。この産廃業者にとっては、渡りに船だろう。
彼は目を白黒させて、「こんなガラクタに金を払うのか」と驚いていた。
おそらく、値切られることを見越してつけた値段だったのだろう。だが、俺は気前よく現金で支払った。
後日届けられた機体は、買った二山分よりも多かった。
配達の作業員は、申し訳なさそうに謝りながら帰っていった。
だが、俺とシンはニンマリとした。
いや、シンの顔からは表情を見る事は出来ない。俺が勝手にそう感じただけだが。
俺たちにとっては宝の山なのだ。シンだってそう思ったに違いない。
俺は産廃業者に連絡して、外装が綺麗な物なら、今後も引き取ると伝えておいた。
これからは、ただのゴミとは見なくなるはずだ。
扱いも慎重になるだろう。そうなれば、野ざらしにされた物を買わずに済む。
シンが初めにやったのは、百八十センチタイプの、まだ動ける機体の修理だった。
三十体のロボットのメンテナンスを終えると、それらを使って残りの機体を整理し、分別していった。
箸にも棒にもかからない機体は分解し、使えるパーツを取り出して、残った廃棄物を分別する。
まるで産廃業者の仕事だ。
だが、それも丁寧に分けていけば、素材として再利用できるとシンは言った。
俺はそれを見ながら不思議に思い、シンに尋ねた。
「なぜ産廃業者はこうしないんだろう。有能なロボットが一体いれば、こんなふうに仕事をどんどん広げていけるのにな」
「それを思いついた誠がいたからできたことだ。わしは、その手伝いをしているだけだ」
一体のロボットとは言うが、決して安い機体ではない。
それをどう方向づけていくかが大事だと、シンは言った。
「わしらは、無垢なロボットだ。使う人間によって変わっていく。初めが肝心なんだぜ」
電気代ははね上がったが、それは先行投資だと割り切った。
これからは、農家にロボットを貸し出したり売ったりしていけば、何十倍にもなって戻ってくるだろう。
この頃、俺はなぜこんなことをしているのかと考えることがある。
何不自由なく暮らせるほどの金があるのに、わざわざ手間と金をかけて、古い機種を生き長らえさせている。
だが、これをしていると、俺の心は満たされる。
まだまだ働ける物を簡単に処分してしまう、その無慈悲な行いに憤ったのかもしれない。あるいは、捨てられたロボットに哀れみを覚えただけかもしれない。
自分でも、なぜそうするのかよく分からない。
二ヶ月ほど経った頃、俺と似たようなことを始める奴が、方々に出てきた。
要するに、まだ使える統制型ロボットを買い叩いて、安く転売し始めたのだ。
一体十万円から、高くても三十万円ほどだ。
簡単な家事や話し相手、力仕事だけを求める人たちに、飛ぶように売れていった。
あと数年しか持たないロボットでも、今まで手が出なかった層にはよく売れているようだ。
だけど、俺たちのように、メンテナンス済みのロボットを扱うところは少ないようだった。
その状況に危機感を覚えたシンが、俺に進言してきた。
「思ったほど、この商売は発展しそうにないな」
俺はその言葉にカチンときた。
「発展なんか考えたこともない。俺はただ、使える物を長く使いたいと思う人のために始めたんだ。もしそれが必要なくなったら、この仕事は辞める」
シンは、一瞬フリーズした。
俺は恥ずかしくなった。金儲けのために始めたんじゃないと、偉そうなことを言ってしまった。
儲けたい気持ちもあったのに、都合よく言い繕った自分を恥じた。
「悪い。儲けようとは、ちょっと思った。かっこつけすぎたな。だけど、使える物は最後まで使ってやるのが、俺のポリシーなんだ」
「分かった。誠の心情を、今はっきりとインプットした」
***
今、倉庫には、きちんとメンテナンスされたロボットが六十体保管されている。
その中には、百三十センチタイプが十体ほどあった。
この機体は、子どもがいない夫婦や、一人暮らしの人に貸し出されていた物だそうだ。
話術に長け、相手の意向を読み取ることに特化している。
力は人間と変わらず、主に愛玩用として使われていた。
ただ、定期的に更新しないと、暴走してしまう機種だそうだ。
室内で大事にされていたためか、あまり劣化は進んでいなかった。
「サービスが終了したら、危険なんじゃないか?」
「暴走といっても、暴れ回るわけではないんだぞ。話が止まらなくなったりするだけだ。その調整はわしが出来るから」
「それならいいかな。ただ、需要はないだろう。これをどうすればいい?」
ここいらはほとんどが農家で、話し相手よりは、力仕事ができるロボットの方がよく売れる。
すでに百八十センチタイプは、ぽつぽつと売れ始めていた。
メンテナンスを終えた機体は、新品と見まごうばかりだ。
それでも、一体八十万円ほどで売り出した。
以前なら、二百万円以上はしたロボットだ。
シンは、小さなロボットたちを眺めて、「こいつらは、わしの助手にする」と言った。
「助手? 話すことしか得意じゃないのに?」
「いや、こいつらもロボットだぞ。容量が小さいタイプだが、一つ二つの作業ならインプットできる。例えば、機体を磨いたり、パーツをより分けたり。それぞれに作業を割り振って、分業させるんだ。わしの手が増えると思えばいい」
それは良いな。
そこで俺に一つの疑問が湧いた。
「シンは、更新しなくていいのか?」
「わしはFully Autonomous AI Robotだぞ。完全自律型というのは、自ら知識を更新して、成長していく機体なんだ」




